Bloodpray

イクミ

文字の大きさ
5 / 8
狩人の矜持

第4話

しおりを挟む
 料理を食べ終えて男と別れた後、宿屋へと向かった。宿屋の女将に部屋へと案内してもらった私は、今までの疲労を感じすぐにベッドで横になる。

(知らない奴とあんなに話したのは久しぶりだな・・・)

 狩人は基本的に1人か2人組で行動するため、他人と話すことがほとんどない。それにも関わらず会ったばかりの男と酒場とはいえ、あれほど会話したことに自分自身でも不思議であった。しかも口約束までしてしまっていたのだ。思いのほか酔いが回っているのかもしれないと考え眠りにつこうとした時、何かが窓をつつく音が聞こえた。

(なんだ・・・?)

 窓に近づいてみると、伝令鴉が窓をつついていた。伝令鴉の模様を見ると自分が所属している一派の長であるダグラスからであった。

(ダグラスからなんて珍しいな)

 そう思いつつ窓を開くと伝令鴉が部屋の中に入ってきた。伝令鴉は部屋の中をぐるりと旋回して周囲を見渡した後、言葉を発してきた。

「随分と質素な部屋に泊まってるじゃねえか。」

 渋みのある低音と声だけでも感じ取れる圧力は一派の長であるダグラスだった。

「珍しいな、直接会話のできる伝令鴉を使役するなんて。」

「たまには弟子の身を案じて直接会話するのも悪くねえかと思ったが、その反応だと俺とはあまり話したくなかったか?」

 そう言うとダグラスはくつくつと笑い出した。

「そんなことは思ってない。久しぶりだな、ダグラス。」

「思ったよりは元気そうだな。どうだった、今回の任務で狩った魔獣は?」

「群れを形成するタイプの魔獣だった。全部で5体いたが無事に狩れたよ。」

「ほう、それはなかなかやるじゃねえか。元々素質はあったが、狩人に育てた甲斐があったぜ。それで、生存者はいるのか?」

 ダグラスにそう聞かれた際、頭の中に無惨に殺された死体が過ぎった。

「いや、逃げ延びた者以外は全員殺された。無惨に食い殺されてたよ。」

「そうか。まあしょうがないな。そいつらの運が無かっただけだ、気にすんな。」

「既に報告した内容を聞くためにわざわざ伝令鴉を使役したわけじゃ無いだろう?用件はなんだ?」

「おいおい、世間話もしたくないってか?つれない奴だな。」

 ダグラスはため息をつくと本題を話し始めた。

「任務が終わって早々に悪いが、お前に新しい任務だ。それも緊急のな。」

「内容は?」

「商業都市ヴィタルト近郊で魔獣の群れが目撃されてる、それも数十体のな。どうやらヴィタルトに向かってきているらしい。今回は魔獣の群れから都市の防衛にあたってくれ。」

「都市なら騎士団が常駐しているだろう。なぜ狩人が加勢しなければならない?」

「魔獣の群れにはかなり強い個体がいて騎士団にも被害が出てるらしい。先日にも騎士団が討伐任務に出たらしいが、それも失敗に終わってヴィタルト陥落を阻止するために防衛を固める方向にしたみたいだ。そこで騎士団から狩人の各一派に支援要請が来たんだよ。俺たちの一派からはお前含めて4人選出することになった。」

「なるほど・・・。事情は分かった、明日の朝に出発する。」

「助かるぜ。しかし妙に気になるのが、その魔獣たちが何かから逃げるようにヴィタルトの方向に来たっていう報告が出てるんだよ。その調査は別の奴に任せているから、取り敢えず騎士団と協力して防衛にあたってくれ。」

「了解した。」

「頼んだぜ、死なないように気をつけてくれよ?」

「死ぬ時は誰だって死ぬ。約束はできないが気をつける。」

「ああ。俺が話したいことは以上だ、ゆっくり休んでくれ。」

 そう言うと役目を果たした伝令鴉は静かに消えていった。次の戦いに備えるためにベッドに横になり休息を取る。

(いつまでこの戦いは続くのか・・・)

 考えてもどうにもならないことだが、ふとした瞬間に頭を掠めることが多々ある。終わりの見えない戦いに絶望して生きることを諦める人間もなかにはいるが、自分はそうならないと常に思っていた。

(生きる理由はもう他にないしな・・・)

 狩人は騎士団と違い誰でもなることが出来る。主に莫大な報酬が目当てでなる者が大半だが、戦い自体が好きな者も少なからずいる。だが自分はそのどちらでもない。ダグラスと出会い狩人になると決めたあの日から、死ぬまで戦い続けると決めたのだ。もうそれしか生きる目的や意味が見出せないからだ。

(感傷に浸ってる場合じゃないな)

 ぐるぐると頭の中で渦巻いていた思考を断ち切り瞼を閉じる。どんなことを考えようと、自分は狩人で魔獣や咎人を殺すことが役目であり、それが自分に残された唯一の生きる理由なのだから。そう結論づけて深い眠りに落ちるのであった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...