毒にも薬にもなりたくないっ

15.

母国の建国祭を祝う為、1年前から国を出ていて、先日帰ってきた王妃を敬うパーティーが本日行われる
てっきり、ミケラウスは王妃だけと顔を合わせるものだとばかり思っていたニールは焦りを感じた


乳母やミケラウスの様子からして、王妃はミケラウスと書簡でしかやり取りをしていないのだろう
それもきっとパーティーへの出席を命じたものだ


パーティーは山間に咲く百合の花がよく見える庭園で行われる
お昼過ぎに行われるため、年頃の令嬢なども来場するはずだ
今のミケラウスにその場しのぎの対応が出来ても心の負荷を考えると、いても立ってもいられなくなる



「あの……ニール坊っちゃま……」

「あぁ、すまない。もう一度殿下の様子を見てくるよ。リエンナさんは休んでいて」

どうするべきか、思わず思考を張り巡らせていたニールは声を掛けた乳母に笑いかけ踵を返した



扉の前には、若い王妃付きのメイドが顔を真っ赤にさせウロウロとしていた


「どうされましたか？」

「ニール様！失礼しました。こちらミケラウス殿下の本日の御衣装をお持ちしたのですが……」

そう言って、赤らめた顔をウットリとさせるそのメイドは異常だった

確かに金色の髪にターコイズブルーの瞳をしたミケラウスの見目はとても良い

だが職務を放棄して魅入るなど、本当に王妃付きなのかと疑ってしまう

もしかしなくとも、ミケラウスと接触したであろうことは分かる
焦る気持ちを抑え、目の前の異常な彼女へ笑顔を向ける


「そちらは私が預かります。他に要件は？  無いのでしたら、お戻りください。」

「あ、いえ。で、ですが……」


ニールの背にある扉の奥を名残惜しそうに見つめるメイドに今一度鋭い目線を浴びせる

「まだ何か」

「ッ……。  失礼致します」

メイドの背中が通路を曲がり見えなくなってから、ひとつ深呼吸をして扉越しに声をかけた

「ニールです。入ってもよろしいでしょうか」

返事は帰ってこない

「失礼します」

王妃のいない1年、ミケラウスに付きっきりのニールには大体の反応は分かっていた。機嫌が悪ければ鋭い返事、落ち込んだり考え事をしていれば無反応。もしもの事が起きても王族以外ではニールにしかこの扉は勝手に開けない