毒にも薬にもなりたくないっ

18.

「あれは誰だ」
(この方は誰だ)

ミケラウスとニールの声が重なった



ミケラウスを迎えるこの顔は今まで1度も見たことがない

幼い頃に見た暖かな笑顔で呼びかける母の姿はなかった



いつかは、昔のように「すごいわ。偉いわね」と慈しむような笑顔で迎えてくれると、私の想いをきっと分かってくれると……


ミケラウスの希望はガラガラと音を立てて崩れ落ちていく



「ハハッ……母上のあんな顔を望んだわけじゃないのにな……行くぞ。ニール」


諦めたような顔は一瞬で、王子の顔に戻っている

「は、はいっ」




令嬢達も給仕もパートナーのいる者でさえ、ミケラウスに気づいた女性全員が、赤らめ緩めた顔で手を伸ばそうとしている


なんとかミケラウスの盾となり、我を失った令嬢を前にするニールも、異常なこの侯景に、瘴気に狂った魔物の群れに囲まれた時よりも恐ろしさを感じ、顔に出さずとも怯んでしまう


王妃の前までたどり着いたミケラウスとニールは王妃に礼をつくした

「母上。お帰りなさいませ。お元気そうで何よりです」

柔らかく笑んだミケラウスに、会場中からため息が溢れる


「あぁ、なんて美しいの。」

まるで返事にならない返答に熱に浮かされたその顔は、ただの「女」だ


「母上、これを見てください」

ミケラウスは内ポケットからハンカチを取り出し、開く

「まぁ、そんな汚いもの捨ておきなさい。新しい物をいくらでもあげるわ。それよりも……もっとこちらへ。顔をよく見せて？」


ハンカチに包まれていたのは先程ぐしゃぐしゃになった百合の花弁と青いリボンだ

無理やりに破壊したため、最上級の保存魔法の残滓が今も百合の花弁の周りをビリビリと薄緑色に照らしている


「ッ……いいえ。いいえっ！ 母上。これは母上が幼き頃に私だと言って贈ってくださった物ですよ」