毒にも薬にもなりたくないっ

新堂茶美

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ある少女の願いと結末1.

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ケイリアは西側にある小さな島国アヴェレイアの王女として産まれた。そそっかしくも頼もしい未来の王と、その兄より3つも歳下なのに賢く活発な姉の優しい兄姉を持つ末っ子だ。


銀の髪は月明かりのように儚くも、晴れた青空のような、澄んだ大きな泉のような力強さを表す色の零れそうな大きな瞳を持つケイリアの容姿は産まれた当時、絶世の美女になると皆に喜ばれた。


アヴェレイアは小さくも、色とりどりの花に囲まれ、畜産や農業で自給自足のできる豊かな国だった。


それはひとえに結界の魔力を持つ王家のおかげでもあった。
海を渡った隣にある竜国ビルガメシアのように全体を守るほどの大きな結界は張れないが、王家の血筋を持つものがそれぞれに視察や訪問を行い、潮風の強い地域に防風林を設置させ、田畑や嵐前の川辺、森に重点を置いて結界を張った。
観光地も無く、穏やかではあるが皆がそれぞれに不満のない日々を過ごしていた。


ケイリアも歴史や農業を学び、慎ましくも暖かな土地や民の笑顔を支えるのだと、誇らしい家族の背を見つめ、自分もいつかは同じ未来を歩むものだと当たり前に思いながら過ごした。



土地自体も風害が少なく、果物の出荷量が多いアヴェレイア

そのため毎朝、民が喜んで献上する新鮮な果物が王家の食卓には運ばれていた。


ケイリアが林檎をひとつ指さすと、メイドが食べやすいように切り分ける。

兄が「ほらな」と姉に誇らしげに視線を投げた。

眉を八の字にした姉が
「リア……」と悲しそうにケイリアの愛称を呼び、ケイリアは慌てて林檎を口いっぱいに頬張り、オレンジを指さす。


「もうっ、リアを困らせないで……ほら、リアも慌てないの! 今日は大事な初めてのお勤めなのよ? ゆっくり味わいなさい」

困った笑顔で兄と姉を諌めた母が微笑みながら口元を拭いてくれる。


兄が結界を張った地域で採れた林檎を1番に選んでしまったのだと申し訳なくなり姉を伺いみるが

「リアの初仕事は私の好きな桃がなる地域よ!姉様に1番を頂戴ね」

そう言って片目を瞑った姉にケイリアは万遍の笑みで答えた。



今日は、少し前に12歳を迎えたケイリアが初めて結界を張る視察へ向かう日だ。

3日間の視察を初めは家族全員が反対した。
「リアはそんなことしなくていいんだ」「リアはまだ小さい」「長旅よ、疲れちゃうわ」「母様と一緒に刺繍をしましょ?」
ことある事に妨害する家族に、「誕生日プレゼントなんていらないからっ」と泣いて部屋に篭ったことで最終日の結界の儀式の権利を勝ち取った。


馬車の中で終始、機嫌伺いをする父に「大丈夫です」と呆れるほどに答えたケイリアだったが、領主や領民達を前に堂々と向き合い、畑に併設された祠で結界の儀式を行うその背中に、改めて国王という父の存在に誇らしさと憧れを持った。



父の偉大さを改めて感じる視察の最後の日、それはケイリアが初めて結界の儀式を執り行う日。



儀式の祠へ向かう途中の馬車から見える景色が一瞬にして色を変える。


「わぁ……」

辺り一面がピンクの絨毯のようなその景色が自然に頬を緩めた

「いい香り……」

「綺麗だな」

姉の好きな桃の畑だ。

「……はいっ!!」

気合と期待で胸を高鳴らせたケイリアは父に王女らしからぬ、歯を見せた笑顔で返事をした。



桃の木で溢れる土地に囲まれた屋敷の前で領主は妻を伴って出迎えてくれた。

軽く挨拶を済ませ夫人が大事に何かを抱えているのに気付き、不思議に眺めた。

視線に気づいた夫人は、にっこりと微笑み、ケイリアの前へ歩み寄るとしゃがみこんだ。

夫人の腕の中には、小さな赤子が静かに眠っている。

「わぁ、可愛い……」

「ふふっ……ありがとうございます。ペルシュ、と言います。桃の果実のようでしょう? これでも男の子なんですよ」

「ペルシュ……」


ケイリアの声に気付いたペルシュは、そっと瞼を上げる。
ケイリアは慌てて頬に当てようとした指をひっこめようとするがその指をペルシュに掴まれた。

「まぁ、この子ったら。ケイリア殿下のお美しさが分かるのかしらね。失礼致しました」

ペルシュはキャッキャと笑っている。

「ふふふっ……いいえ。とっても可愛いわ。きっと将来、女の子に囲まれて私の方が心配になっちゃうくらいよ」

「ふふっ、有難いお言葉です」

もう少しペルシュと触れ合っていたかったがヤキモキしながらこちらをチラチラと見る父に小さくため息を吐き、早々に祠への案内を促した。



桃の木に囲まれた平坦な場所にひっそりと佇む4つの白い柱。
柱にある蔦の彫刻がその地に根を張っているようなリアルさを感じさせ、柱の天辺にある果実の彫刻は、色付き熟れる前の実そのもののようだ。

4つの柱の中央には荒削りの岩があり、その岩から半透明白色の鉱石が剥き出しの状態で太陽の光を透かし、キラキラと輝いている。天然の大きな魔法石だ。この魔法石に先代の王家の者達がみな結界の魔力を込めてきたのだろう。




ケイリアは、ドキドキと煩くなる心臓を魔力補助の魔法杖と共に押さえた。

「お父様、行って参ります」

「あぁ……大丈夫だ。頼んだよ」

父の笑顔に、ホッと息を吐いて向き直り、前へと歩を進めた。


柱に囲まれた床はひんやりとしている。
魔法石に触れると、ザラザラとした見た目とは異なり鋭い感触は無く、ツルツルとしていて触り心地がいい。


片手に持っていた魔法杖を両手に持ち詠唱を始める。
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