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しおりを挟む「ブッサイクな顔して……ッ……」
起き上がろうとするミケラウスを慌てて止める。
「安静にしてくださいっ」
ミケラウスは眉を顰めながらも、その身体から力を抜いた。
「結界を……結界を解いてください」
魔力を纏わせていない手でミケラウスの手を覆うスイレン。
「ペルシュというやつは……良からぬ魔力を食いすぎていたようだな。殺意や憎悪が頭に響いて身体の中で蠢いているようだ」
「だったらっ!!」
「だめだ。お前は帰るんだろ? これ以上は迷惑はかけられないしな」
「治しますっ!! 治してみせますから……」
触れ合う手からビリビリと魔力が弾かれる音がする。
「お前は本当に毎回私を驚かせてくれるな。本当に……私を怒らせ煩わせ喜ばせて……私に怯まない奴なんて初めてだ。
オマケに素性も何も分からないのに勝手に私の心に入り込んでくる。
真っ直ぐ見つめてくるその目が毎度毎度私の胸を苦しめるんだよ……
離れて行く癖に……なぁ、スイレン。お前はどうしていきなり現れた。どうして魔術もなしにこうも簡単に近寄るんだ。私に……どうして欲しいんだ……」
「わたしはっ!! わたしは……ただ治したら直ぐに帰ろうって思ってましたよ! 本当に。でも応援したいって、笑ってる顔をみたいっていつの間にか思ってて……王子様なんですから、しっかりしてくださいよ。
結界を解いてください。私がどうにかしますからっ」
「王子様……か。ペルシュに……国も誰も守れないような者に魔力は必要ないと言われた時、母上の思いを知った時、情けなくなった。あぁ、私は弱いな、と。」
「そんなことないっ」
「だけど、あいつに刺された時、痛みよりもお前が無事だと分かってほっとした……守れたんだ、と。だから調子に乗ってしまったのかもな。私の血に纏わりつく瘴気がお前に触れようとしたから……」
「私はそんなのに負けませんからっ!! そんなばっちぃもの、身体の中に閉じ込めてないでっ!! 早く出しなさいよっ!!!!」
「ははっ、かっこつけさせてもくれないのかお前は……」
ミケラウスの身体からじわじわと黒い靄が滲み出してくる。それと同時に腹部の傷が開いていくのを感じるミケラウス。
瘴気を体内に閉じ込めすぎたようだ。血と混ざりあった瘴気は腹部の傷口を内側からジクジクと痛めている。シーツの中で傷口を触ると無機質でツルリとした肌触りを感じる。既に魔石化が始まっている。
「あぁ……遅かったな……」
「えっ、なに?」
小さすぎた声を聞き漏らしたスイレンは不安な顔で覗く。
「いや、なんでもない。ハハッ……そんな顔をするな。なぁ、もう一度名を呼んでくれ」
「こんな時に何言ってるのっ! 元気になったら、いくらでも呼んであげるから今は黙っててよっ!!」
ミケラウスの頬に掌を当てると痺れるような反応はなくなっていた。それを確認したスイレンの身体から魔力が溢れ出す。ミケラウスの背後に纏わりつく瘴気がその黄金色の光を避けるように散り、小さくなって消えていく。
それと同時に腹部の傷口がドクドクと音を立てているかのように疼く。魔石が侵食していくそこは青と紫と黒が入り交じり、スイレンの魔力から逃げるように集まる瘴気が黒が青を徐々に支配していく……パキンっ、一際鋭い痛みがミケラウスを襲った時、魔石にヒビが入った。
その乾いた音に気づいたスイレンがミケラウスからシーツを引ったくる。
「そんな顔をするな……本当にお前は私を困らせるのが得意だな」
3センチ程度だった傷跡が大きく裂け、脇腹まで侵食する黒紫色の魔石。
その禍々しい輝きに目を見開くスイレンはミケラウスを睨みつけた。
「どうして早く言ってくれなかったのっ!!!!」
「これはお前の魔力を食いたくて仕方がないみたいだが……お前は……暖かいな……ニールが言ったことは本当だったんだな……正気を保つことができたよ」
「変なこと言わないでくださいっ!ニールさんに怒られますよっ!! ニールさんが泣いちゃいますよっ!!」
「ニールのことばかり……本当に腹が立つな……お前は私の聞きたいことを全く言ってくれない……どうしてだ……やはり女は怖いな……ハハッ……」
胸がムカムカする。感情からなのかこの傷からなのか……その感情が口から溢れる度にせり上がり、ついには言葉の代わりに漏れ出た。真っ赤な血。
「お願いだ、泣かないでくれ。……あぁ……やっぱり……」
笑ってくれない、名前を呼んでくれない、それでも暖かくて大好きなスイレンの頬に触れる。
「お前は毒だな……」
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