毒にも薬にもなりたくないっ

新堂茶美

文字の大きさ
61 / 69

53.

しおりを挟む

「ブッサイクな顔して……ッ……」

起き上がろうとするミケラウスを慌てて止める。

「安静にしてくださいっ」

ミケラウスは眉を顰めながらも、その身体から力を抜いた。

「結界を……結界を解いてください」

魔力を纏わせていない手でミケラウスの手を覆うスイレン。

「ペルシュというやつは……良からぬ魔力を食いすぎていたようだな。殺意や憎悪が頭に響いて身体の中で蠢いているようだ」

「だったらっ!!」

「だめだ。お前は帰るんだろ? これ以上は迷惑はかけられないしな」

「治しますっ!! 治してみせますから……」

触れ合う手からビリビリと魔力が弾かれる音がする。

「お前は本当に毎回私を驚かせてくれるな。本当に……私を怒らせ煩わせ喜ばせて……私に怯まない奴なんて初めてだ。
オマケに素性も何も分からないのに勝手に私の心に入り込んでくる。
真っ直ぐ見つめてくるその目が毎度毎度私の胸を苦しめるんだよ……
離れて行く癖に……なぁ、スイレン。お前はどうしていきなり現れた。どうして魔術もなしにこうも簡単に近寄るんだ。私に……どうして欲しいんだ……」

「わたしはっ!! わたしは……ただ治したら直ぐに帰ろうって思ってましたよ! 本当に。でも応援したいって、笑ってる顔をみたいっていつの間にか思ってて……王子様なんですから、しっかりしてくださいよ。
結界を解いてください。私がどうにかしますからっ」

「王子様……か。ペルシュに……国も誰も守れないような者に魔力は必要ないと言われた時、母上の思いを知った時、情けなくなった。あぁ、私は弱いな、と。」

「そんなことないっ」

「だけど、あいつに刺された時、痛みよりもお前が無事だと分かってほっとした……守れたんだ、と。だから調子に乗ってしまったのかもな。私の血に纏わりつく瘴気がお前に触れようとしたから……」

「私はそんなのに負けませんからっ!! そんなばっちぃもの、身体の中に閉じ込めてないでっ!! 早く出しなさいよっ!!!!」

「ははっ、かっこつけさせてもくれないのかお前は……」

ミケラウスの身体からじわじわと黒い靄が滲み出してくる。それと同時に腹部の傷が開いていくのを感じるミケラウス。

瘴気を体内に閉じ込めすぎたようだ。血と混ざりあった瘴気は腹部の傷口を内側からジクジクと痛めている。シーツの中で傷口を触ると無機質でツルリとした肌触りを感じる。既に魔石化が始まっている。

「あぁ……遅かったな……」

「えっ、なに?」

小さすぎた声を聞き漏らしたスイレンは不安な顔で覗く。

「いや、なんでもない。ハハッ……そんな顔をするな。なぁ、もう一度名を呼んでくれ」

「こんな時に何言ってるのっ! 元気になったら、いくらでも呼んであげるから今は黙っててよっ!!」


ミケラウスの頬に掌を当てると痺れるような反応はなくなっていた。それを確認したスイレンの身体から魔力が溢れ出す。ミケラウスの背後に纏わりつく瘴気がその黄金色の光を避けるように散り、小さくなって消えていく。

それと同時に腹部の傷口がドクドクと音を立てているかのように疼く。魔石が侵食していくそこは青と紫と黒が入り交じり、スイレンの魔力から逃げるように集まる瘴気が黒が青を徐々に支配していく……パキンっ、一際鋭い痛みがミケラウスを襲った時、魔石にヒビが入った。

その乾いた音に気づいたスイレンがミケラウスからシーツを引ったくる。

「そんな顔をするな……本当にお前は私を困らせるのが得意だな」

3センチ程度だった傷跡が大きく裂け、脇腹まで侵食する黒紫色の魔石。
その禍々しい輝きに目を見開くスイレンはミケラウスを睨みつけた。

「どうして早く言ってくれなかったのっ!!!!」

「これはお前の魔力を食いたくて仕方がないみたいだが……お前は……暖かいな……ニールが言ったことは本当だったんだな……正気を保つことができたよ」

「変なこと言わないでくださいっ!ニールさんに怒られますよっ!! ニールさんが泣いちゃいますよっ!!」

「ニールのことばかり……本当に腹が立つな……お前は私の聞きたいことを全く言ってくれない……どうしてだ……やはり女は怖いな……ハハッ……」

胸がムカムカする。感情からなのかこの傷からなのか……その感情が口から溢れる度にせり上がり、ついには言葉の代わりに漏れ出た。真っ赤な血。

「お願いだ、泣かないでくれ。……あぁ……やっぱり……」

笑ってくれない、名前を呼んでくれない、それでも暖かくて大好きなスイレンの頬に触れる。

「お前は毒だな……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...