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変異する
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砂埃が収まって、佇むアステルの目の前にメテオシュタインが姿を現す。
ロイヤルパープルの瞳が、まっすぐにアステルを捉えていた。
「よくやった」
力をたくさん消費しているメテオシュタインは、なんとか立っているという状態だ。アステルはそんな彼を睨みつけた。
「この星がどうなっても、いいんじゃないのか」
「ああ、そうだ」
「それならどうして、」
風が二人の髪を攫う。
メテオシュタインはふっと目蓋を下ろして肩をすくめた。よく見れば、服は所々焼けているし、腕も怪我をしているようだ。
「生きていると感じられる」
ぐらりと長身が傾ぎ、頽れる。
アステルは反射的に彼のもとへ行き、支えになって立たせようとした。
「わざわざ危険を冒さなくても、あんたは生きてるじゃないか」
「……退屈は人を殺す」
「退屈って…」
こんなに大変なことになっている日々のなか、どこに退屈があるのか。メテオシュタインも、忙しくしているように見えたのに。
アステルの肩を借りて立ち上がったメテオシュタインは、おもむろに口を開いた。
「君のほうこそ、なぜ星霊を討伐する」
アステルは睫毛を伏せる。
「異星人に近づく手っ取り早い方法だった。星も、理解してくれてると思う」
「ほぅ?」
「俺は、星霊を敵とは思っていないんだ」
メテオシュタインは、アステルの強さは純血故だと思っていた。しかし、肝が据わっていることも関係しているかもしれない。この星の人々は、星霊を手にかけるとき、どうやら罪悪感のようなものを抱くらしいのだ。揺れる心は、判断を鈍らせる。
「隊長、ご無事で!? 救護班、早く!」
それから、隊員たちが慌ただしくやってきて、アステルたちは本部に撤収した。メテオシュタインの怪我は深刻なものではなく、迅速な治癒のおかげで、数日で回復するとのことである。
西陽が眩しい。
アステルは小さく息を吐き、その扉をノックした。
カチャリと開けば、何事もなかったのように机に向かうメテオシュタインの姿が目に映る。
「慰めにでも来てくれたのか」
細められた瞳の奥にジリリとした熱を感じて、アステルは視線をそらした。
「……ちょっと様子を見に来ただけだ」
「ちょうどいい。コーヒーを淹れてくれ」
左手は数日安静にしなければならないと、救護の人が話していた。
(コーヒーくらい、片手で淹れられるだろ)
とは思いつつ、アステルは近くの給湯室まで行って、機械の淹れたコーヒーを持ってきた。
先ほど机に積まれていた書類がなくなっている。
片付けられた机に無言でコーヒーを置けば、メテオシュタインはこれまた無言で手に取り、ホッと一息吐いていた。
「君の肌に触れたい」
おもむろに顔を上げ、何を言うかと思えばそれである。
「あんたはモテるんだろ。相手なら、幾らでもいるんじゃないか」
「純血の者は、君の他には知らない」
「……何も変わりやしないだろ」
「それでなくとも、君のように綺麗な者は、そうはいないさ」
いきなり、何を言い出すのだ。
「我々も、美意識くらい持ち合わせている」
「何か妙な物でも食べたのか?」
アステルは訝しんで顎を引いた。
「力を消耗しているから、というのはあるかもしれんな」
メテオシュタインは疲れたように息を吐く。
「身体が求めるんだ」
「誰か、呼べばいい」
「君にとってはチャンスではないか」
「俺は、そういうのは…」
アステルは睫毛を伏せて視線を外した。けれども、熱を帯びた瞳が渇望するようにじっと見詰めてくるので。
「チョーカーをつけろ。持っているんだろう」
思考が纏まるより先に身体が動いて、ポケットに入れていたチョーカーを首に装着していた。
ロイヤルパープルの瞳が、まっすぐにアステルを捉えていた。
「よくやった」
力をたくさん消費しているメテオシュタインは、なんとか立っているという状態だ。アステルはそんな彼を睨みつけた。
「この星がどうなっても、いいんじゃないのか」
「ああ、そうだ」
「それならどうして、」
風が二人の髪を攫う。
メテオシュタインはふっと目蓋を下ろして肩をすくめた。よく見れば、服は所々焼けているし、腕も怪我をしているようだ。
「生きていると感じられる」
ぐらりと長身が傾ぎ、頽れる。
アステルは反射的に彼のもとへ行き、支えになって立たせようとした。
「わざわざ危険を冒さなくても、あんたは生きてるじゃないか」
「……退屈は人を殺す」
「退屈って…」
こんなに大変なことになっている日々のなか、どこに退屈があるのか。メテオシュタインも、忙しくしているように見えたのに。
アステルの肩を借りて立ち上がったメテオシュタインは、おもむろに口を開いた。
「君のほうこそ、なぜ星霊を討伐する」
アステルは睫毛を伏せる。
「異星人に近づく手っ取り早い方法だった。星も、理解してくれてると思う」
「ほぅ?」
「俺は、星霊を敵とは思っていないんだ」
メテオシュタインは、アステルの強さは純血故だと思っていた。しかし、肝が据わっていることも関係しているかもしれない。この星の人々は、星霊を手にかけるとき、どうやら罪悪感のようなものを抱くらしいのだ。揺れる心は、判断を鈍らせる。
「隊長、ご無事で!? 救護班、早く!」
それから、隊員たちが慌ただしくやってきて、アステルたちは本部に撤収した。メテオシュタインの怪我は深刻なものではなく、迅速な治癒のおかげで、数日で回復するとのことである。
西陽が眩しい。
アステルは小さく息を吐き、その扉をノックした。
カチャリと開けば、何事もなかったのように机に向かうメテオシュタインの姿が目に映る。
「慰めにでも来てくれたのか」
細められた瞳の奥にジリリとした熱を感じて、アステルは視線をそらした。
「……ちょっと様子を見に来ただけだ」
「ちょうどいい。コーヒーを淹れてくれ」
左手は数日安静にしなければならないと、救護の人が話していた。
(コーヒーくらい、片手で淹れられるだろ)
とは思いつつ、アステルは近くの給湯室まで行って、機械の淹れたコーヒーを持ってきた。
先ほど机に積まれていた書類がなくなっている。
片付けられた机に無言でコーヒーを置けば、メテオシュタインはこれまた無言で手に取り、ホッと一息吐いていた。
「君の肌に触れたい」
おもむろに顔を上げ、何を言うかと思えばそれである。
「あんたはモテるんだろ。相手なら、幾らでもいるんじゃないか」
「純血の者は、君の他には知らない」
「……何も変わりやしないだろ」
「それでなくとも、君のように綺麗な者は、そうはいないさ」
いきなり、何を言い出すのだ。
「我々も、美意識くらい持ち合わせている」
「何か妙な物でも食べたのか?」
アステルは訝しんで顎を引いた。
「力を消耗しているから、というのはあるかもしれんな」
メテオシュタインは疲れたように息を吐く。
「身体が求めるんだ」
「誰か、呼べばいい」
「君にとってはチャンスではないか」
「俺は、そういうのは…」
アステルは睫毛を伏せて視線を外した。けれども、熱を帯びた瞳が渇望するようにじっと見詰めてくるので。
「チョーカーをつけろ。持っているんだろう」
思考が纏まるより先に身体が動いて、ポケットに入れていたチョーカーを首に装着していた。
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