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第13章 魔王の娘と魔王の秘儀 

忘れた記憶 2

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 そうして見た夢は、ミーラが忘れて居た記憶だった。
 夢を見て覚えている人は一体この世界にどれだけいるだろう?
 覚えているならどんな夢?悲しい夢?嬉しい夢?そんなの誰にも分からない。ランダムに夢は見れる。でもきっと覚えている人は"覚えている内容"だからではないだろうか?
 ミーラが見た夢は起きた瞬間から一日が終わるまでいや、その後もきっと覚えているだろう。
 これは実際に幼い自分が体験した事だから。多分記憶が夢に出た。脈絡が無い事は無い。訓練に明け暮れた今だから昔の事を思い出したのだろう。
 ミーラは訓練場の端の壁に背をかけて座り込んだ。そうしてミーラは自身で身体を丸める様に膝を抱え込む。もっともっと小さく、強く強く両手で膝を引き寄せ、頭を下げて小さな小さな円になるかのように縮こまる。
 昔のミーラは、自分が大嫌いだった。
 他の子達が意地悪する。それは自分が誰より"弱いから"誰かに聞いた訳じゃない。そんな事しなくても分かるし知っている。

ーー自分が強くないから、ダメなんだ…

 母様やゼーラルはすぐ側にいつも居る、居てくれる。けれど頼ってはいけない。泣きついてもいけない。自分が…自分がもっと強く強く。

 小さなミーラはいつも他人からの自分が大嫌いだったし自分から見た自分も、こんな風に考える自分も全部大嫌いだった。
 だから稽古を頼まれた時、辛かったけどこれで認められると思うと嬉しかった。
 だから頑張って頑張って強くなろうとした。

ーーけれど本当は辛かった、寂しかった、遊びたかった、話したかった。

 魔王城の廊下で対向に居た母様、時折見るゼーラル、魔王城の頂上からたまに見える父様。魔界近くの村の子供たち。
 誰かに会って誰かに話したかった。甘えたかった。だけどバルンハルトの稽古はエスカレートして行って、気付くと寝る間も惜しむ様になって行った。
 だから知らずにみんな遠くに行った。いや、稽古なんて本当は関係ない。…私自身が離してしまった。
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