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第13章 魔王の娘と魔王の秘儀 

忘れた記憶 3

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 そんなふうにミーラはいつも独りでどうにかしてきた。だからこそ、こんな時に夢を見たんだろう。いつも自分の心の片隅に存在していた気持ち…

ーーいつまで私は独り?誰か…

 質問も疑問も不安も、返事なんか来ない。それが分かっているからいつも言葉にも態度にも出さない。そんなミーラは、より身体を丸める。まるで不安な未熟な自分を押し殺すかの様に身を縮める。気が付いていた、自分があまりにも独りに慣れすぎて独りを肯定し続けて、いつの間にか辛くなっていた事。
 本当は返事が欲しい、誰かに側にいて欲しい。もう独りを終わらしたい。そんな願いがいつも存在していた。気が付かない様に蓋をしただけ…

 独りが辛い、そんな時ラルトが居た。
 母様が死んだ時ラルトがミーラを連れて行ってくれた。ラルトがアーランド夫妻に魔族のミーラを引き合わせてくれた。まるで本当の家族の様に側にいてくれる、そんなラルト達がミーラの辛かった記憶を消してくれた。…寂しさを打ち消してくれた。

ーーだけど、私は魔族。

 その事実は変わらない。初めこそ彼らを利用する為にそこに居たが、気付けばミーラを受け入れてくれた彼らに愛着を感じている自分が居ると感じた。だから、辛かった。ラルトが村の人達が、悪魔に殺されかけた時、ラルトが危険な目に合いそうになった時。

ーー何もできないのか?本当に何も?

 とミーラ自身、自問自答した。何度も何度も。
 そして気付いた。私は"彼ら"とは違う。

ーー私は魔王の娘だ。

 思えば身体が勝手に動いた。彼らに二度と会えない。ラルトに二度と会えない。そんな事より、今居る彼らを守る事が重要だと感じた。

ーー会えなくてもいい。いつか私が殺されるかもしれない…けど

 それでもいいと思った。目の前で倒れそうなラルトを大切な人達を救えるなら、母様の時は動くことさえ出来なかった身体がなんの躊躇いもなく動く事が出来た。
 ただ、出来ればラルトに

ーー見て欲しくなかった…だから

「見ないで」

 そう言い残し悪魔を倒す事が出来た。村人が助かった。ラルトが助かった。…すごく安心した。…それに誰も私を見てなかった。赤い竜を見た人は誰もいなかった。だから最後の日ラルト達とちゃんと話しが出来た。その後私は魔界へ戻ったが、それでも私は悔いも何も無く魔界へ戻れた。
 あの日動いていなければ、あの日バルンハルトに稽古をつけてもらっていなければ、あの時私は何も出来なかっただろう。

 だけれど、同時に私は彼らから離れてまた独りになった。でも小さなミーラは辛かったかもしれないけど、今は辛くもない。

ーーだって、また彼らの役に立てるから。父様の役に立てるから

 だから、私はまた前を向いて進まなきゃいけない。妥協もたるみも緩みもなくしてもっともっと強くならなきゃならない。大切な人を自分なりのやり方で助ける為に。
 ミーラは顔を上げ、背を伸ばし立ち上がる。そして昨日より今日、今日より明日強くなる為により長くより強く深く修行を再開した。
 だが、バルンハルトには頼れない。あの日ミーラが魔界へ戻ってからバルンハルトは何処かへ行ってしまった。ならばどうするか、決まっている。
 今までの修行に手を独自に加え、強くなる。

「私のやり方で強く」

 ーーいつか戦う勇者より、ラルトより強く。対等に戦うために
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