writerS

柊彩 藍

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入隊試験募集

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 「感情的になって出てきたけど、行くとこねぇなぁ」
 少し落ち着いて、1人薄暗い街灯に照らされた道を目的なく歩く。気づくと、writerSの基地に来ていた。何度も歩いた道だからか体が勝手にここに動いていた。あるいは無意識のうちにもう1つの居場所を求めていたのかもしれない。蒼太は、無言で建物を見上げる。1つだけ明かりがついていた。
 「まだ、いる人がいるのか。なら入ってここで寝ても怒られないかな」
 ポツリと呟きながら建物に入っていく。一階のロビーに大きなソファがあったので、今日はそこで寝ることにした。蒼太の感覚ではもう深夜の2時を回っているような気がしていた。しかし、実際はまだ10時。時計を確認して、それでも寝ようとソファに寝転ぶ。いつもの布団と違うせいか、時間的にただ早いだけなのか、色んな感情が渦巻いているせいなのかわからないが、とにかく蒼太は寝付けなかった。寝付けないなりに考えや感情を整理しようと、すっと目を閉じる。しばらく落ち着いているとだんだんと眠くなってきた。周りがとても静かになっていくような気がした。そのなかでコツコツと、足音が聞こえてきたが蒼太にそれに対して反応する気はなかった。それが、外で見た明かりをつけていた本人だと思っていたから。それにwriterSの誰かなら大丈夫という安心感があったからだ。しかし、その忍び寄る影は、志穂である。志穂は、外からの気配を感じ外を覗くと蒼太を見つけた。そして蒼太を探して降りてきたのである。志穂の目は狩人そのものだった。その筋肉を思うがままに触れてやろうとよだれを滴ながら徘徊していた。そして、ようやくソファに寝転ぶ獲物(蒼太)を発見した。そしてそのシャツに手を伸ばす。しかし、志穂はシャツをめくり、また戻してそのまま立ち去っていった。ほとんど眠りについていた蒼太もさすがに起きて、志穂にやめさせようとしたのだがその姿はもう無かった。
 朝目覚めるともう、学校が始まっている時間帯だった。蒼太は、煌輔と喧嘩したこともあって学校に行くつもりはなかった。「朝飯はちゃんと食べていったかな」なんて少し煌輔の事を気にかけながらコーヒーでも飲もうとソファから立ち上がると、頬に冷たいものが当たる。
 「ほい、優しい志穂ちゃんからのおごりだ。」
 志穂は、自販で買った缶コーヒーを手に蒼太のもとにやって来た。
 「ありがとうございます。それに、何でここにいるかは聞かないんですね。」
 「いや、聞いたよ?」
 志穂はとぼけた顔で答える。だが、昨日のことは誰にも言ってない。その光景を見られてたとしたら「見た」というはずだが聞いたと志穂は言った。
 「誰にですか?」
 蒼太の問に対して志穂は蒼太を指差す。
 「僕言ってませんよ?」
 「だから、蒼太じゃないって。ほらここ」
 志穂は蒼太の腹筋をなぞりながら言った。蒼太は、凄いと思いつつちょっと引いていたが、相談にのってもらうことにした。それほどに今の志穂には、蒼太を包むような優しい雰囲気がにじみ出ていた。蒼太は、今日ここに来た理由を志穂に打ち明けた。それを聞いた、志穂の第一声は、蒼太を驚ろかした。
 「そんなことはあんまり興味ないかな。話のあらすじは正直なところ意味がないから。」
 志穂は、蒼太の本音を引き出そうとした。蒼太は昨日の出来事について語っただけで感情については触れなかったからだ。
 「少しでも誰かが傷つくことは嫌なんだ。最近、自分が強くなってから余計に思うようになってきた。だから普段の任務でも自分が先に動いて他の人の負担を減らそうとしたんだ。だから、煌輔にもわざわざ傷つきに行って欲しくないって思った。」
 志穂は、蒼太の気持ちを聞いた上でこう言った。
 「私には、二人が思いあってるがゆえにいがみ合ったように見えてるけど、それは蒼太も分かってるみたいだから1つだけ言っとくね。別れ方は選ばないと後悔するよ。別にもう会えなくなることが確定した訳じゃないけど、このままも気持ち悪いじゃない?せめて置き手紙でもしておくといいんじゃないかな。」
 志穂は、そういってラボに戻っていった。蒼太は、煌輔が学校にいっている間にポストに手紙でもいれようと考えていた。
 
 「ねぇ、今日何か変だよ?やっぱり蒼太と何かあったの?蒼太も蒼太で学校に来ないし。」
 優衣は、1日暗かった煌輔を心配して顔を覗きこんだ。
 「いや、別に何もないよ。じゃあ俺ちょっとスーパーよって帰るから」
 煌輔は逃げるように優衣のもとを離れていく。完全に優衣と別れたあとスーパーで買い物をしたのちあるチラシが目に飛び込んできた。「新人隊員募集」防衛省のポスターだった。一週間後に、試験の申し込みがあることも分かった。煌輔は、高揚と後ろめたさをかんじながらチラシを手にとって、帰路についた。
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