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プール
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ピッ!
ホイッスルが鳴り響く。
バシャバシャ!
水の音がする。聞いているだけでとても涼しくなる音だ。
「はぁー」
そんな音を聞きながら盛大なため息をつくのは私だ。
私は今、プールで泳ぎの練習をしている。
「どうされましたの?大友様」
「ご気分が優れないのでしたら、休憩をしてはいかがですか?」
ため息をついた私を心配するように来たのは、クラスメイトの女子グループの一つだった。
「大丈夫ですわ。今のは水が冷たくて、このような暑さの中では山の穏やかさに包まれているようで、気持ちよくて出た息ですわ」
「まぁ!大友様は山に別荘をお持ちなのですね?」
「どこにあるのですか?今度遊びに行っても良くて?」
「大友様の家は山をお持ちなの?素晴らしいわ!」
私がため息を誤魔化そうと言った言葉は、彼女達の間でどんどん膨らみ、ついには私が個人で山を一個所有していることになってしまった。
「あら、皆さん違いますのよ?私みたいな子供が山なんて持ってしまっては、皆さんみたいな素晴らしい方々に見てもらうことの出来ない山がかわいそうですわ」
「「「「「はぁ。大友様」」」」」
クラスメイトの誤解を解こうと言葉を紡ぐと、それに周りにいたクラスメイトはうっとりした顔で私を見てくる。
ハッキリ言って面倒くさい。だが、それを顔に出すわけにはいかないので、顔には手を添え大人しい令嬢宜しく、微笑みを浮かべる。
「皆さーん!今から25メートルテストをしまーす!位置についてくださーい!」
「はーい!さぁ、皆さん。先生が呼んでいらっしゃるわ。行きましょうか」
「「「「「はい」」」」」
私が動くと、その後ろをクラスメイト達がついてくる。
いつもの教室での光景と一緒なのだが、私は体育の時間が一番苦手なので、私の心は動くたびに憂鬱になる。
別に体育が苦手な訳では無い。逆に得意だし好きな分類の教科だ。
だが、苦手と感じるのには意味がある。
ピッ!
「「「「「キャー!」」」」」バシャン!
先生のホイッスルの合図とともに私が泳ぎ始めると、女子生徒から黄色い悲鳴が上がる。
‥‥‥集中出来ない。
「はぁ、はぁ、はぁ‥‥皆さん!応援ありがとう!皆さんのおかげで頑張れましたわ!」
「「「「「キャー!大友様ー!!」」」」」
本当は周りの歓声で集中出来なかったのだが、そんなことを言えば、私の評判はガタッと下がり、それは大友家の評判にも結びついてしまう。
なので、私は思っていもいないことを言葉にし、笑顔でクラスメイトに手を振る。
「大友さん凄いわ!自己ベスト更新よ!しかも同世代の歴代最高タイムを抜いてるわ!どう?水泳部に来ない?」
自己ベスト更新?そんなの当たり前にしなくてはいけない。だって、それは大友家の評判に結びつくでしょ?もし私が力を抜いて最下位になったら?大友家の評判も落ちるでしょ?
「あら先生。私はただ皆さんの応援で頑張れただけですわ。それに、私みたいなものが歴史のある水泳部にお邪魔しては、選手の足を引っ張るだけですわ」
「あら、そう?私はいつでも待ってるわよ?」
先生の水泳部の誘いを断ってから、泳ぎ終わった生徒の並ぶ場所へと向かう。
その途中も力は抜けない。
「はぁ‥‥大友様、美しいわ」
誰かがそう呟いたのが聞こえた。
当たり前だ。泳ぎ終わったあとも背筋を伸ばし、息切れはすぐに整えることによって、「まだ私は余裕ですよ」ということを周りに知らしめ、「大友家は凄い」ということを少しでも周りに分からせる。
絶対に気を抜いてはいけない。気を抜いた瞬間に食われる。
そう考えて暮らすことで、私は生きている。
そして、人の視線が一番集まるのは体育の時間だ。
体育の時間は、他の時間と違ってクラスメイトが動かず待っている場合もあるので、その場合クラスメイトの視線は私に集中する。
その中の視線は、好意的なものもあれば違うものもある。あわよくば大友家を陥れようとする家系の生徒だ。
どうせ、親が誰かに「大友家の娘の弱みを握ってこい」とか言われているのだろう。
だが残念。私は失敗をしないように、学校にいる間はずっと気を張っている。隙なんて見せることは、私自身が許さない。
最初のため息で集まってきた女子グループ。あのグループの女子生徒は、全員大友家に何かしら突っかかってくる家の子達だった。
おおかた、私がため息をついたので、なにか弱みが掴めるかもと思って来たのだろう。
だけど、私はそれを上手くかわせたかは分からないが、結果的には周りの生徒をうっとり顔にさせる結果となった。成功と言えるだろう。
「大友様~!」
「‥‥‥」
「「「「「キャー!!」」」」」
声をかけてくれる女子生徒の方に、笑顔で手を振れば、返ってくるのは黄色い悲鳴だった。
ああ疲れる。笑顔ってこんなに疲れるものだっけ?
ホイッスルが鳴り響く。
バシャバシャ!
水の音がする。聞いているだけでとても涼しくなる音だ。
「はぁー」
そんな音を聞きながら盛大なため息をつくのは私だ。
私は今、プールで泳ぎの練習をしている。
「どうされましたの?大友様」
「ご気分が優れないのでしたら、休憩をしてはいかがですか?」
ため息をついた私を心配するように来たのは、クラスメイトの女子グループの一つだった。
「大丈夫ですわ。今のは水が冷たくて、このような暑さの中では山の穏やかさに包まれているようで、気持ちよくて出た息ですわ」
「まぁ!大友様は山に別荘をお持ちなのですね?」
「どこにあるのですか?今度遊びに行っても良くて?」
「大友様の家は山をお持ちなの?素晴らしいわ!」
私がため息を誤魔化そうと言った言葉は、彼女達の間でどんどん膨らみ、ついには私が個人で山を一個所有していることになってしまった。
「あら、皆さん違いますのよ?私みたいな子供が山なんて持ってしまっては、皆さんみたいな素晴らしい方々に見てもらうことの出来ない山がかわいそうですわ」
「「「「「はぁ。大友様」」」」」
クラスメイトの誤解を解こうと言葉を紡ぐと、それに周りにいたクラスメイトはうっとりした顔で私を見てくる。
ハッキリ言って面倒くさい。だが、それを顔に出すわけにはいかないので、顔には手を添え大人しい令嬢宜しく、微笑みを浮かべる。
「皆さーん!今から25メートルテストをしまーす!位置についてくださーい!」
「はーい!さぁ、皆さん。先生が呼んでいらっしゃるわ。行きましょうか」
「「「「「はい」」」」」
私が動くと、その後ろをクラスメイト達がついてくる。
いつもの教室での光景と一緒なのだが、私は体育の時間が一番苦手なので、私の心は動くたびに憂鬱になる。
別に体育が苦手な訳では無い。逆に得意だし好きな分類の教科だ。
だが、苦手と感じるのには意味がある。
ピッ!
「「「「「キャー!」」」」」バシャン!
先生のホイッスルの合図とともに私が泳ぎ始めると、女子生徒から黄色い悲鳴が上がる。
‥‥‥集中出来ない。
「はぁ、はぁ、はぁ‥‥皆さん!応援ありがとう!皆さんのおかげで頑張れましたわ!」
「「「「「キャー!大友様ー!!」」」」」
本当は周りの歓声で集中出来なかったのだが、そんなことを言えば、私の評判はガタッと下がり、それは大友家の評判にも結びついてしまう。
なので、私は思っていもいないことを言葉にし、笑顔でクラスメイトに手を振る。
「大友さん凄いわ!自己ベスト更新よ!しかも同世代の歴代最高タイムを抜いてるわ!どう?水泳部に来ない?」
自己ベスト更新?そんなの当たり前にしなくてはいけない。だって、それは大友家の評判に結びつくでしょ?もし私が力を抜いて最下位になったら?大友家の評判も落ちるでしょ?
「あら先生。私はただ皆さんの応援で頑張れただけですわ。それに、私みたいなものが歴史のある水泳部にお邪魔しては、選手の足を引っ張るだけですわ」
「あら、そう?私はいつでも待ってるわよ?」
先生の水泳部の誘いを断ってから、泳ぎ終わった生徒の並ぶ場所へと向かう。
その途中も力は抜けない。
「はぁ‥‥大友様、美しいわ」
誰かがそう呟いたのが聞こえた。
当たり前だ。泳ぎ終わったあとも背筋を伸ばし、息切れはすぐに整えることによって、「まだ私は余裕ですよ」ということを周りに知らしめ、「大友家は凄い」ということを少しでも周りに分からせる。
絶対に気を抜いてはいけない。気を抜いた瞬間に食われる。
そう考えて暮らすことで、私は生きている。
そして、人の視線が一番集まるのは体育の時間だ。
体育の時間は、他の時間と違ってクラスメイトが動かず待っている場合もあるので、その場合クラスメイトの視線は私に集中する。
その中の視線は、好意的なものもあれば違うものもある。あわよくば大友家を陥れようとする家系の生徒だ。
どうせ、親が誰かに「大友家の娘の弱みを握ってこい」とか言われているのだろう。
だが残念。私は失敗をしないように、学校にいる間はずっと気を張っている。隙なんて見せることは、私自身が許さない。
最初のため息で集まってきた女子グループ。あのグループの女子生徒は、全員大友家に何かしら突っかかってくる家の子達だった。
おおかた、私がため息をついたので、なにか弱みが掴めるかもと思って来たのだろう。
だけど、私はそれを上手くかわせたかは分からないが、結果的には周りの生徒をうっとり顔にさせる結果となった。成功と言えるだろう。
「大友様~!」
「‥‥‥」
「「「「「キャー!!」」」」」
声をかけてくれる女子生徒の方に、笑顔で手を振れば、返ってくるのは黄色い悲鳴だった。
ああ疲れる。笑顔ってこんなに疲れるものだっけ?
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