乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる

レラン

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新事実(?)

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「ぎゃああああ!」「助けてぇぇぇええ!」「ごめんなさいごめんなさい!」「正しく神様だ!私に制裁をぉおおおぉおぉぉおお!」「ひとでなしぃぃいいいぃいぃぃい!」

 正しく叫喚地獄と化している会場が、私の目の前にある。
 惨状は酷く、地面はえぐれ壁は日々がいくつも入っている。気絶している屍がゴロゴロとそこらじゅうに転がっている中、逃げ惑う人々。辛うじて客席は結界の効果によって被害はないが、観客達は予想もしていなかった事態に顔を青くしている。
 ‥‥‥ちょっとやりすぎたかしら。というか、途中変なの混じってなかった?
 この状況を作り出したのは私だが、まさかここまでになるとは思っていなかった。
 まず、私は自身の身を守るために《結界》を自分の周りに出現させた。次に攻撃魔法として、《四大元素・モデル竜龍》を実行した。
 《四大元素・モデル竜龍》。その名の通り、四大元素の火・水・土・風を使って、竜巻のような力を持つ龍の形をした魔法だ。
 この魔法には多くの魔力を持っていかれてしまうため、これまで使ってこなかったが、使わなくて正解だったと私は思った。
 現状把握のために会場を見渡してみると、まだまだ色々な人が残っていた。もちろんアイツらも。

「あ、一応攻略対象達あいつら生きてたんだ」

 リッターが前線でディアマンが中衛。アンジェは後方でルーエを介護している。
 ‥‥あれ?人が足りない。
 よく見るとアインハイトとリーブルが見当たらないが、多分早々にやられてしまったのだろう。

「さぁ、そろそろいいでしょうか」

 私は指を一回鳴らして魔法を解除した。直ぐに魔法は空気中に分散し、あとに残ったのは満身創痍の数人の騎士と数人の魔法使い。冒険者は一人だけ残っている。凄いことだ。

「騎士と魔法使いが数人。あとは冒険者が一人。でも、全員満身創痍。それでも私に向かってきますか?」

 見たところ、騎士は戦意喪失気味だし、魔法使いはこちらを好奇の目で見て来るだけで敵対心がまるでない。冒険者はまだやる気のようで、剣を私に向けてくる。

「‥‥あなた、名前はなに?」
「ん?俺か?お貴族様に名乗るような名前じゃないが、イェルンという」
「‥‥イェルン」

 私は口の中でその名を何回か呟いた。どこかで聞いたことがある名前だ。どこだ。

「‥‥‥‥あぁ!思い出した!あなたこの街のギルドマスターね!確か『』の二つ名持ちの!!」
「っ!」

 まさかこの会場にギルドマスターがいるとは思わなかった私は、大声でそう叫んでしまった。
 私はギルドマスターとは一度も会ったことがない。が、名前はこの国では、いや、世界で知らない者がいないぐらいに有名だった。何せ物語の主人公にもなるほどだ。

「そ、その二つ名は嫌いなんだ。出来れば記憶から消してくれ」
「無理よ。というか、あなたの名前は絵本として小さい子に読み聞かせられているわよ?しかも世界中で」
「そ、そうか」

 私の言葉に肩をあからさまに落とすギルマス。その様子は捨てられたことがわかった瞬間の子犬のようだった。
 まぁ、なんだ‥‥頑張ってくれ。

「‥‥大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけでありません!このような日に出会わせてくれた神に、私は感謝します!」

 興奮した声は、魔法使いの皆さんから上がった声だった。
 魔法使いの様子はどこか異様だった。頬は紅潮し、目は潤っており、今にも走って来そうな程の熱意がつたわってきた。怖い。

「え、何?」
「あなたは私達にとって神も同然の存在です!ああ!私はこの為に、この日の為に!貴方様に会うために生きてきたに違いない!!ああ!感謝!感謝!皆もようでしょ!?」
「「「「「おぉおおおおおおお!!!!」」」」」
「‥‥怖い」

 何!?本当になんなのこの人達!怖過ぎない!?さっきまで潤っていた目が、今は涙を流しながら血走った目に変わってるよ!?
 私は、魔法使い達のあまりの異様さに何歩か後ろに下がってしまった。

「ああ!何故にお逃げになるのですか!」
「いやいやいや!今のあなた達を見たら、見た人全員が100%引くって!引かない人は、とても強靭な精神の持ち主だと思うよ!?」
「あ‥あ‥!神と話せた!今日私は死ぬのかもしれない!」

 私はこの一瞬で分かった。分かってしまった。




 あ、この人たち話が通じない。





「え、えっと‥‥」
「ああ!感謝感激!!ど、どうやって、どうやってそのような魔法を!どうやって!」
「ちょっとは話を聞けぇぇええええ!!‥‥‥あ」

 気づいた時にはもう遅かった。

「「「「ああああああああああぁぁぁぁあぁぁあ!!!」」」」

 魔力を解放しすぎた私の周りを突風が襲い、あっという間に客席の結界も敗れてしまった。人々は宙を舞い、無事なのは突風の中心にいる私ぐらいだ。

「やばい!おさまれ!おさまれ!」

 直ぐに魔力を押さえ込み、突風を普通の風に変えた。

「‥‥ア、アハハハ」

 突風がおさまった頃には、攻略対象達以外は全員気絶していた。多分、攻略対象達は何かしらの防壁魔道具を持っていたんだと思う。そうじゃなきゃ、脳内お花畑あいつらが無事なはずがない。

「あ‥あ、あんなにいたのに‥‥だ」

 誰が呟いたかは分からない。だけど、その言葉が私に向けられて発せられたのは直ぐに分かった。
 ‥‥化け物。化け物か。改めて人に言われると、変な感じだなー。
 この力がわかった瞬間から、私の『』は分かっていたつもりだった。だから、これまで本気を出してこなかった。

「‥‥あった」

 いつもポケットに入れているギルドカードをその場で出し、自分のステータスを確認する。
 しばらくの間確認していなかったし、多分全ての数値が上がってるだろうなー。
 そんな事を思いながら、覚悟を決めて確認を始めた。

****ステータス****

名前:ディーオ・アンジェロ
年齢:18歳  性別:女
所持金:6.783.452ギンロ
 Lv85 ランク:C
生命値:6.794.375
筋力:549.734
魔力:測定不能
魔力量:93.196.999.999
称号:転生者 精霊に愛されし者 加護付き 成長期 鑑定師 魔法を創りし者 魔神の想い人 精霊感
適正魔法:測定不能( 全能神の加護 )

*************

 ‥‥怖いものが見えた。
 私は称号に追加されたものから視線を外し、魔力量に目を向けた。
 前まで測定不能だった魔力量。それが今表示されているという事は、元の魔力量が減って表示できる量になったからだろう。となると、カードの最大値は多分1000億と見ていいと思う。それを軽く凌駕する私の魔力量って‥‥。

「‥‥ま、まぁ、このことは後で考えましょう」

 私は新たな称号の事と一緒に、自身の魔力量の事も後回しにした。

「さて、降参しますか?それともまだ試合を続けますか?」

 先程私が使った魔法。《四大元素・モデル竜龍》は、種類的には神大魔法に分類されると思う。
 神大魔法。神がつくぐらいだから、人間が持つ魔力を集めても扱えない魔法。今わかっている魔法でこれ分類されるのは、《精神魔法》と《飛行魔法》。後は《気象魔法》だ。この3つはいくら魔力量が多くても、使った瞬間に使った魔法使いが魔力不足により亡くなってしまうため、神大魔法として分類された。
 そんな魔法に分類されるであろう魔法を使ったのだ。使った瞬間、体から何かがゴッソリと無くなっる感覚がした。今思うとあれは体の中の魔力が消費された感覚だったのだろう。
 まぁ、四大元素を同時に一気に使ったんだからそうだよねー。

「き、貴様!な、何を‥何をした!」
「何、という事はしてませんが?ただ、魔力がちょっと暴走してしまって、突風が会場を襲っただけではありませんか」

 リッター達が怯えた目でこちらを見てくる。まぁ、あんな化け物じみたものを見せられたのだ。怯えるのも無理はない。

「う、嘘だ!この会場の結界が破られたんだ!それが『魔力がちょっと暴走してしまったから』だと?この場所の結界は神が張られたと言われているのだぞ!それを壊したのが『』だと!?ふざけるな!」

 リッターにそう言われ、そう言えばそんな設定がゲームにあったことを思い出した。
 でも、あれは実際は神が張ったのではなく、神獣達と精霊達が自身達が決闘をする時にちょうどいいから、と造った物を人間側が勝手に所有権を主張し、神獣精霊達が勝手にせいと諦め半分で言ったから、人間側の物になっただけだったはずだ。
 それを会場全員に伝えるために、魔力に声を乗せて話と、全員がポカーンと口を開けて固まってしまった。

「‥‥ふ、ふははははははは!」

 最初に動いて笑いだしたのは、現国王。【ケーニッヒ・プロテッツィオーネ】だった。

「ははははは!‥はー。大いに笑わせてもらったぞ?ディーオ嬢」
「それはようござんした」
「そしてよくぞその真相を言ってくれた!古くからの伝統で、その事は代々王に伝えられてはいたが、それを王自ら国民に伝え、この場所を神獣や精霊に返すのを禁じられていたのだ。いやぁー!やっと心のむず痒さが晴れた!わははははは!」

 が認めたために、国民も認めざるおえなくなり、会場の全員が現実逃避のためか遠い目をし始めた。
 ‥‥‥南無。

「‥‥ぞ」
「ん?はい?」

 リッターが肩を震わせながら何やら言葉を発したようだが、声が小さく全然聞こえなかった。

「‥‥‥ぞ‥‥‥絶対に認めないぞ!皆も騙されるな!これは嘘だ!虚実だ!」

 何を言い出すかと思えば、私の言葉が嘘だと国民に向かって訴え始めるリッター。その後ろではディアマンが顔を青くして「嘘だ‥」と呟いている。アンジェは何やらこちらを驚愕の表情で見ている。

「‥‥はぁー。そんなに疑うなら、実際に精霊と神獣に真実を聞けばいいじゃない」
「な!そんなこと出来るか!」

 そろそろリッターの声がうざく感じてきたので、そう提案してみるた。
 リッターはそれを「無理だ」と言って拒否した。なんなんだお前は。

「無理ってことは無いでしょ。まぁ、は無理かもしれないけど、ならいけるでしょ」

 私がそうサラッと言うと、リッターが鯉のように口をパクパクとし始めた。
 なんだ。言いたいことがあるなら言えばいいのに。
 神獣は、その名の通り『神の獣』だ。だから、一般人が呼べるはずがない。でも、精霊ならば簡単に呼べると思う。実際、この場にも沢山いるだろう。

「‥‥‥スィーニュ。説明を求む」
『はぁー。お前は常識を学べ』

 私が呼べば、どこからともなく姿を現すスィーニュ。
 急に現れたスィーニュに、驚きを隠せないその場の人々は、現実逃避から戻って来てザワザワと騒ぎだした。

「まぁまぁ。でしょ?」
『っ!ふん!』

 私の言葉を聞いて、耳を真っ赤にしてそっぽを向くスィーニュは、ツンデレだと思うよ。

『精霊とはだな』

 そしてちゃんと教えてくれるのが優しい!

『精霊とはどこにでも存在している。今もここにいる。それはお前も感じているんじゃないか?』
「うん。何かに見守られてる感覚がする。これが精霊?」
『まぁ、そうだと言っておこう。
 一般的な人間が思っている精霊は、『自然に宿るもの』だ。妖精とはまた違ったものと認識している。その区切りは、精霊は悪戯はしない。恵みをもたらす。妖精は悪戯をする。悪をもたらすだ』

 なるほど。

『そして、精霊が見える人間や感じられる人間は、これまで指で数えられるほどしかいない。しかも、そのほとんどは国家や人間の欲に利用されて、闇の世界で早死していく』
「‥‥マ・ジ・デ・ス・カ」

 衝撃的な史実に、思わず声に出してしまった言葉。多分、今私の顔は引きつっているだろう。

「じゃ、じゃあ、この世の魔法を使う人達は、精霊のを知らないまま過ごしてるってこと!?」

 私は会場にいる魔法使いや攻略対象達を指差しでそういうと、スィーニュは残念なものを見る目で周りの人達を見てから、大きく頷いた。

「‥‥‥この世界ヤバいじゃない」
『そうなんだ。馬鹿な人間達のおかげでこちらも仕事に追われて大変だ』

 額に手をやって難しそうな顔をするスィーニュを見るに、本当に人間達のせいで苦労していることが伺えた。
 ‥‥なんかごめん。

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