俺はゲームのモブなはずだが?

レラン

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「おっはよう!稜驊いつか!あれ?疲れた顔してどうした?」

 学校の校門辺りで、白蓮びゃくれんが俺の事を待っていたみたいで、俺を見つけるなり飛びついてきた。

「あーはいはい。それはお前のせいだから気にすんな」
「いやいや!俺のせいでそんな顔してんなら尚更気にするだろ!」

 俺は軽く白蓮をあしらって、教室へと足を向けた。

「あ、そういえば、なんで昨日寮じゃなくて家に帰ったんだ?」

 下駄箱で白蓮がそう聞いてきた。
 確かに、俺は昨日寮ではなく家に帰った。それは虎國とらくに鷹雅たかまさが車で送る時に俺の家へと送ってくれたからだ。
 ん?そういえば。

「なんであいつらは俺の家知ってたんだ?」

 俺は住所なんて1度も言っていないし、しかも全寮制の学校なのは、あいつらも知っているはずだ。なのにあいつらは、俺を実家に送った。
 俺はしばらく靴を片手に固まったまま考えた。

「‥‥‥あ、紙見たのか」

 俺は昨日七夏弥ななひさが言っていた言葉を思い出し、あいつらも俺の個人情報がバリバリに書いてある紙を見たのか、という結論に至った。
 本当に俺の個人情報ダダ漏れじゃねーか。

「この学校のセキュリティーって、めちゃくちゃゆるいのな」
「何言ってんだ?この学校のセキュリティ一は、その辺の下手な名門校より硬いって評判なんだぞ?」

 それ本当の話か?それなら見た目だけだな。実際中はボロボロだ。
 そう思いながら、一方的に話してくる白蓮の話を右から左に流し、教室へと足を向けた。教室前で白蓮と別れて、教室へと入り自分の席に着く。

「あ」

 暇だったので、通学している人達を眺めていると、1台の車が校門前で止まった。
 見たところ高そうな車なので、おそらく攻略対象達誰かの車だろう。それでいて今朝見た七夏弥ななひさの家の車でも、昨日見た虎國とらくにの車でもないとすると、まだ見ていない鷹雅たかまさ修也しゅうや京馬きょうまの三人の家の誰かの車だと思う。
 そんな推測をしながらボーっとしていると、後ろから声をかけられた。

「ねぇ君」
「何?」

 話しかけてきたのはクラスメイトの中原なかはら 由美ゆみと言う女の子だった。まだ話したことも無いのに、下の名前呼びのは凄いコミュ力だなと、感心しながら返事をした。
 この中原さんは、この世界へ来て初めて知ったキャラだ。だから特に何も警戒しないでいいだろうという判断に出たが、それが裏目に出てしまった。

「今日の放課後にさ?クラスの皆でカラオケ行こうかって話してるの」
「へー‥‥で?」
「その時さ‥‥‥2人で抜け出さない?」

 ここぞとばかりに着崩した制服のまま、胸元を俺にバッチリ見える意味まで迫る中原さん。
 俺の恋愛対象は女だが、こんな風な女は好きになれない。俺はビッチなこんな女より、清楚系の女の方が好みなのだ。

「ごめん。放課後はちょっと用事があるんだ。だからカラオケも行かないんだ」
「っ!」

 中原さんは顔を真っ赤にして、中心グループの方へと戻って行った。
 俺は再度外へと視線を移した。すると、丁度先程の車から人が出てきていた。目を凝らしてみると、それは修也だった。修也は車から出ると、こちらを見てフッと笑った。
 え、これは目が合っているのか?嘘だろ?
 俺は試しに小さく修也に手を振ってみた。
  すると、修也はそれに応えるかのように手を振り返してきた。それを見た女子達が、キッと修也が手を振った人を探してこちらを見始めた。俺はサッと手を戻し、修也からも目線を外した。
 感じ悪かったか?いや、攻略対象にはできるだけ関わらない方がいいんだから、これで正解だ。
 そう自分に言い聞かせながら、俺はトイレに行こうと席を立った。


 トイレの個室に入り、便器へ腰を下ろしたまま、これからどうするかと考え始めた。
 とりあえず、白蓮を攻略対象達に近づかせるか近づかさせないかだよな。
 近づかせた場合、俺への興味は薄まり、今の状況は抜け出せるだろう。だが、その場合俺は白蓮と縁を切る道を選ぶ。そこまでしてやっと、ゲームとおさらばした実感がわくと思うからだ。
 そして近づかさせない場合、今の状況は続くが、白蓮は攻略対象達と合わないため、ゲームはこれ以上進まず、ノーマルENDで終わるだろう。だが、俺は攻略対象達に付きまとわれる状況が続くという事だ。
 ‥‥‥‥うん。一択だな。

「白蓮と攻略対象達をくっつけよう。その上で縁を切ろう」

 俺はそう決意し、トイレを出ようとドアノブを回した。‥‥‥‥が。

「[ガチャガチャ]‥‥ん?」

 トイレのドアは開かず、押しても引いても開く様子がなかった。
 どうしようかと思っていると、扉の外で何やら笑い声が聞こえてきた。

「‥‥誰かいるんですか?すみませんが、扉があかなくなったみたいで出れないんです。先生を呼んできてもらえませんか?」

 そう声をかけるた。すると返事は思いがけない言葉だった。

「馬鹿野郎。そこで頭でも冷やしよけ」

 その言葉と共に、トイレの扉の上のそれほど大きくないスペースから、水が2に分けて降ってきた。
 ‥‥‥‥‥‥は?
 これの主はそのままトイレの外へと言ってしまったらしく、複数の足音と共に、いなくなってしまった。

「‥‥‥俺何かした?」

 心当たりが無さすぎて困る。
 一生懸命記憶を辿るが、人に恨みを買うようなことはしていないはずだ。それに入学2日目で恨み買うような真似、する方がありえないだろ。
 俺はとりあえずポケットに入れて置いたハンカチで、濡れた部分を拭き始めた。
 4月と言っても、まだまだ水浴びなどをするには寒い時期だ。濡れたブレザーも脱ぎ、その場で力一杯絞って、荷物掛けの場所へブレザーをかけた。

「誰かいませんか~!!」

 叫んでみたが誰も来てくれなかった。
 腕時計を見ると、あと10秒で朝礼の時間だったので、皆教室にいるのだと思う。

「[キーンコーンカーンコーン]‥‥あ」

 走行しているうちに、朝礼開始の予鈴が鳴った。
 しょうがない。自力での脱出するか。
 俺は手始めに扉の上へと手をかけた。だが、やはり俺が通るには小さすぎる穴だったので直ぐに諦めた。
 他に脱出口はないかと周りを見るが、あるのは便器と壁壁壁。

「‥‥もう助けを待つしかねーか」

 俺は便器に腰掛けて、助けを待つことにした。
 これがゲームのイベントとかだったら、攻略対象の誰かが白蓮主人公を助けに来るんだろうな。そしてびしょ濡れの白蓮を見て『無事か!』なんて叫んでから、白蓮をだきしてめて『遅れてごめん』なんて謝ってさ?それから『誰からやられた』って低いトーンで白蓮に聞いて、白蓮は心当たりのある人の名前を上げて、それを聞いた攻略対象が『そうか‥‥‥もう安心だからな』って言って‥‥‥‥‥やばい。

「キザスギマセン?オレ」

 思わず棒読みになるほど、自分の考えにゾワッときた。
 そんなことをしていると、ブレザーのポケットが震え始めた。

「ん?なにか入れてたっけ」

 俺はポケットに手を突っ込んで、中を探った。すると、中からスマホが出てきた。
 ‥‥‥‥ありゃ。

「俺携帯持ってんじゃん。何やってんだか。最初っからこれで助け呼べばよかったのにな」

 俺は白蓮を呼ぼうと、スマホアプリの『LAKU』を開いた。

「‥‥え、いつの間に」

 『LAKU』を開くと、知らない人が3人も追加されていた。登録名は、だった。
 俺はこれまで彼女がいたのとがないし、母親はで登録している。そして、子分なんて知り合いはいない。

「‥‥‥」

 とりあえず子分のトークを開くと、ただ一言、『‥‥‥』と送られてきていた。
 いや、こっちが『‥‥‥』なんだけど。
 母親のトークは、『届いてますか?』とあった。
 はい。ちゃんと届いてますよ。
 ハニーのトークは、『やっほ~!ビックリした?今日から僕達は恋人だよ♡』とあった。
 ‥‥‥‥。
 俺はとりあえず、母親と子分と白蓮に『助けてください』と送って、新しい3人の登録名を変えた。
 ハニーは「猫鳴 七夏弥」に。
 母親は「喜三久先輩」に。
 子分は「鷹雅先輩」に。
 え、なんで七夏弥だけフルネームかって?そんなのなんとなくに決まってるじゃん。え、わかんない?察してよ。
 そうこうしているうちに、何やら廊下の方から足音が聞こえてきた。

「助けてくださ~い!閉じ込められてま~す」

 俺の声に気づいたのか、足音がこちらに近づいてきた。そして俺がいる個室の目の前で止まった。

「えっと、誰かそこにいますか?」
「‥‥‥稜驊‥か?」

 聞こえてきた声は鷹雅だった。そして、どことなく怒ってるように聞こえたのは気の所為だろうか。

「そうです。古典的なイジメの手に引っかかったおバカな稜驊です」
「‥‥そこまで言ってない」

 ありゃ。和ませるつもりが逆に怒らせちゃったか?失敗した。

「ま、まぁとにかく助けてくださいよ。ここから出る手段が見つからないんですよ[キー]‥‥ね」
「‥‥開いた」
「‥‥‥‥あ、はい」

 俺が喋ってる間に終わらせちゃうあたり、鷹雅らしいっていうかなんていうか。まあ、助かったからよかったんだけどさ?

「ありがとうございますおかげで助かりました」
「‥‥ん」

 ‥‥‥本当に無口だなー。思わずこっちまでつられて無口になりそうだよ。

「‥‥‥誰にやらr──」
「──鷹雅先輩。ちょっと失礼します」
「!?」

 俺は鷹雅に手刀をかましてやった。予想以上にいいところに入ったのか、鷹雅は頭を抑えて地面に座り込んでしまった。

「あ、えっと‥‥大丈夫ですか?」
「‥‥こ、これが大丈夫なように見えるなら、稜驊にはいい眼科を紹介しなきゃいけないな」

 お?普通に喋れるんじゃん。やった!効果あり!

「鷹雅先輩」
「なんだ‥っ!」

 俺は鷹雅の顔を覗き込み、こう言ってやった。

「普通に喋れるんなら、普通にしゃべった方がいいんじゃないですか?」
「っ!」
「少なくとも俺はそっちの方が好きですね」

 会話のキャッチボールに間が入らないから話しやすくなるしな。

「あ、手刀はごめんなさい。あと助けに来て頂いてありがとうごさいました」
「‥‥」

 あーあ、黙りしちゃった。これは怒らせちゃったかな?‥‥ん?ってことは、鷹雅は俺に近づかなくなるのでは?え、やった。そうか。こうやって怒らせれば、攻略対象と近づかないですむのか。よし!明日から実戦し‥‥‥やっぱり辞めよう。うん。なんか怒らせたらやばそうだし。
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