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古城

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 城の中は案の定、埃が積もり、彼方此方に家具であったであろう物が朽ちて、ゴミと化していた。
 「使えない・・・物ばかりですが、これらは外に放りだせば良いでしょう」
 エリスはそれらを眺めながら、面倒臭そうに呟く。マリクは埃臭いので、鼻と口に手を当てている。
 元々、魔族と戦う為の城であったので、中は天井が低く、狭く感じた。兵士達が休む為に使ったのだろう大きめの部屋や貯蔵庫などが幾つかあり、二階には謁見の間と言うか、王の居室のような場所もあった。残されていた家具や武具は全て朽ちて、残骸でしか無かったが。
 「歴史を感じるね」
 マリクは城を興味深げに色々と見ている。エリスはそんな様子に呆れる。
 「主様、我々はこのどうしようもない建物を住めるようにしなければならないのです。歴史とかどうでもイイです。それより、井戸はどこでしょうかねぇ。この手の城は中に井戸があるはずですが、それが枯れているとどうにもなりません」
 「あぁ、そうだね」
 二人は井戸を探して、城の奥へと進む。
 中は薄暗く、松明が無いと、まともに進めない程だった。
 「多分、厨房の近くに井戸はあると思うけど・・・」
 「厨房ですか。火を使う場所なので、風通しは良い所にあると思うのですが・・・」
 ウロウロと探し回っていると、とある階段を発見した。
 「地下?」
 マリクは不思議そうに下の階へと続く階段を眺める。階段の幅は狭い。
 「地下牢じゃありませんか?」
 「地下牢ねぇ・・・死体とか転がってるんじゃない?」
 マリクは不安そうに言う。
 「可能性はありますね。確認をしましょう」
 「嫌だなぁ」
 マリクは気乗りがしないが、エリスを先頭に階段を降りて行く。
 降りた先には確かに地下牢があった。空気は澱み、酷く臭かった。
 「ここは立入禁止にした方が良いですね」
 エリスは中を見て回る。地下牢らしく、拷問道具だっただろう物の残骸が転がっている。幸い、地下牢の中に遺体は無かった。
 「埃臭いね」
 マリクは周囲を見渡していると古びた扉を見付けた。
 「まだ、部屋があるみたい」
 それを見たエリスは躊躇なく、扉のドアノブを掴む。だが、腐っているのか、ドアノブが取れた。
 「何もかも腐ってます」
 そう言うとエリスはやはり躊躇なく、扉を蹴破る。木製のドアは簡単に粉々に砕け散った。
 「中は・・・何もありませんね」
 エリスに続いて、マリクも部屋に入る。狭い室内だが、何も無かった。だが、壁に何かのレリーフが施されていた。
 「エリス・・・このレリーフは何だろう?」
 「知りません。私より、主様の方が詳しいでしょう」
 エリスは興味無さそうに部屋の周囲を見渡す。そう言われて、マリクはレリーフを眺める。
 「ふーむ・・・不死鳥かなぁ・・・古代宗教的な部屋なのかなぁ」
 「古代宗教ですか・・・魔獣を崇めたとかいう奴で、邪教とされた類の物でしょ?」
 「コルスタン教からすればね。ただ、昔は人間じゃ、手に負えない魔獣は神格化されていたからね」
 「それで、不死鳥ってのは実際に存在するのですか?」
 「不死鳥・・・どうかなぁ。火の中から生まれるとするけど・・・」
 「火の中から生まれるって・・・」
 「だから不死鳥なんて言われるみたいだよ。火がある限り、死ぬことが無いとか」
 マリクはレリーフの前に燭台がある事に気付く。そこには溶けて形を保っていない蝋燭が立てられていた。
 「蝋燭があるね。まだ、使えるかな」
 マリクは蝋燭の芯に火を灯す。すると、最初は燻っていたが、やがて着火した。
 「燭台は大丈夫そうだね」
 マリクが火を灯した後、エリスが間近で燭台を眺める。
 「金で出来てそうですね。腐食しなかったのもそのせいだと思います」
 「なるほど・・・」
 「これは貰っておきましょう」
 「えっ?それって泥棒じゃ・・・」
 「どうせバレません」
 エリスは堂々と金の燭台を持ち出そうと手を伸ばした時、蝋燭の炎が大きく燃え上がる。二人は驚いて、一歩、退く。すると蝋燭の炎から何かが飛び出した。それは空中を飛び回る。
 エリスは腰に装着した短剣を抜いて、構える。その後ろでマリクは尻餅をついていた。
 「久しぶりの人間の世界だ。お前等が贄か?」
 火から出て来たそれは鳥の形になり、マリク達に話し掛けて来た。
 エリスは短剣を構えながらそれを睨む。
 「贄だと?何を言っているか解らないが・・・ここから去れ」
 エリスの言葉に鳥の形をしたそれは苛立ったように炎を増す。
 「去れだと?我の力を欲して、呼んだくせに・・・生意気な。皆殺しにしてやろうか?」
 「五月蠅い。去れ」
 エリスは短剣の切っ先を炎の鳥に向ける。
 「ふん・・・そんな物が私に効くわけが無いだろう・・・私は炎・・・火の鳥なのだからな」
 更に炎が増し、温度が上がったのか、炎の色は赤から、青に変わる。
 「エリス・・・息苦しくなってきた・・・多分、空気が薄くなっているんだ」
 「なるほど・・・ここは上の階に逃げた方がいいですね」
 二人は火の鳥を前にジリジリと扉へ向けて後退する。
 「ふん・・・逃げれると思うか?愚かな人間の子どもめ」
 火の鳥は鋭い動きで扉へと向かった。
 「水球(アクア)」
 マリクは呪文を唱えた。同時に火の鳥の前に水の玉が現れ、それに火の鳥はぶつかる。途端に水が爆発した。蒸気が室内を満たす。だが、マリクは次々と同じ呪文を詠唱する。火の鳥に水の玉がぶつかり、爆発を起こす。火の鳥は散り散りになりながら、やがて、床に落ちた。その時には身体は3分の1以下となり、弱々しくなっている。
 「くぅ・・・貴様、魔術師だったのか?」
 火の鳥は弱りながら、マリクに尋ねる。
 「魔術師では無いけど、魔法の勉強は得意でね。ここは地下水もあるみたいだから、水系の魔法には都合が良いよ。多分、お前をここで呼び出していたのもそのためなんだね」
 マリクは自信満々に火の鳥の前に立つ。
 「主様は危険です。お下がりください。こいつは私が仕留めます」
 エリスが短剣を片手にマリクの前に立つ。
 「ふん、小娘。剣で火は切れんぞ?愚かだな」
 火の鳥にバカにされて、エリスは珍しく怒りを表情に露わにさせる。
 「殺します」
 エリスが弱って床に落ちた火の鳥に短剣をぶっ刺していく。だが、火の鳥の言う通り、剣は床を叩くも、その身体を刺した感触はない。
 「ははは。愚かな小娘だ。お前を殺してやる」
 「水球(アクア)」
 再び火の鳥に水が掛けられる。それで更に弱まる火の鳥。
 「す、すまん。もうやめてくれ。力が出ない」
 「構いませんが・・・大人しく、元の世界に戻ってください」
 「それは出来ない」
 「何でですか?」
 「主様、滅するしかありません。水で消しましょう」
 エリスの冷淡な言葉に火の鳥が懇願するように言う。
 「や、やめてくれ。俺は呼び出されると、戻る儀式で門を開いて貰わないと帰れないんだ」
 その言葉にマリクが頭を捻る。
 「それ・・・どうやってやるの?」
 その言葉に火の鳥が怒る。
 「俺が知るわけが無いだろう?お前等、人間の勝手でこの世界に呼ばれたり、帰されたりするんだから」
 「そもそも、何の為に呼ぶんですか?」
 マリクの問い掛けに火の鳥は笑った。
 「そんな事を知らないで俺を呼んだのか?決まってるだろう?俺の圧倒的な力を欲するからだ」
 「圧倒的な力?」
 「あぁ、俺は強いからな。ドラゴンとかにだって負けない。こうやって、頭も良いからな。バカな魔獣や悪魔から国を守る為に人間は俺を呼ぶのさ。俺は代わりに贄を貰う。若い女の体はよく燃えて、俺の力になるからな」
 それを聞いたエリスがマリクに「滅してください」と頼む。だが、マリクは少し考えた。
 「なるほど・・・贄は用意が出来ないけど・・・僕に力を貸してくれないか?」
 「贄が無いのにか?」
 「じゃあ、滅するけど」
 「くぅ・・・解った。その代わり、油でも何でもいい、燃える物を俺に与えてくれ。それが条件だ」
 「良いだろう。じゃあ・・・契約をしてくれるかな?」
 「け、契約だと・・・」
 火の鳥は狼狽えた。それを見て取ったマリクはニヤリと笑みを浮かべる。
 「僕が魔獣を従える儀式を知らないと思ったのかい?」
 「い、いや・・・そうじゃないが・・・」
 火の鳥の動揺は明らかだった。
 「どうせ、力を取り戻したら、逃げるか・・・僕らを皆殺しにするつもりだっただろう?」
 マリクは羊皮紙と万年筆を取り出した。そして、魔法陣をサラサラと描く。そして、呪文を詠唱し、羊皮紙を火の鳥に被せた。それは輝き、火の鳥に転写された。その瞬間、火の鳥は悲鳴を上げる。
 「ぎゃおあああああ!痛い、痛い!」
 暴れ回った火の鳥には魔法陣が刻まれた。
 「これで、お前は僕に逆らえないわけだ。名前は何だ?」
 マリクは火の鳥に向かってそう問い掛ける。
 「くっ・・・オレの名前はフレア・・・かつて、俺を呼び出した王が付けた名だ」
 「良い名前だ。よろしくなフレア」
 マリクは笑いながらそう声を掛ける。エリスは冷たい目で火の鳥を眺め、「邪魔なら消火する」と言う。
 
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