殉教者の皿の上

もじかきくらげ

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ホットミルク

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ギャビーの精神がかなり安定してきた。教会のみんなには以前のように心を開き、歌の練習にも参加するようになった。いい傾向だ。本当に良かった。私が付き添わなくても眠れるようになってきている。彼が行きたいと言い出したら、また街にも連れていこう。

深夜、いつものように宿舎を抜け出してピアノの練習をしていると、珍しく奴がやってきた。最後に会ったのはそれこそギャビーが帰って来た直後くらいか。
何か用かと聞くと何故かピアノを挟んで私の向かいに立ち、私について記憶にない罪を責められた。話をよく聞けば、最近何者かが頻繁に金庫から金を盗み出しているらしい。金の管理だけはこいつにほとんど任せているので私はここ最近の詳しいことは知らないが、どうやらそういうことらしい。以前にも信者に紛れた輩が教会の資金を盗んだことはある為、またその類の者かもしれない、と伝えると、また怒鳴られた。正直に言えと言う。何を?私が何をしたというのだ。それに詳しい話もせずに人を疑い、言い分も聞かずに決めつけるのは神も望んでいないだろう。その旨も伝えると更に激昂された。奴は私が机に置いていたまだ手のついていないホットミルクを掴んで、投げ付けてきた。肌が焼け、張り付いた服が熱い。皮肉なことに、最近ようやくみんなに行き渡った信者達のための衣服が前の物より厚くなっているせいで、余計火傷が酷いものになる。私は痛みに呻き声を上げたが、痛みより怒りが勝ち、冷たくなった心臓で奴を見上げてみた。奴は軽蔑の目を向けていたが、私が服を捲り上げて洗濯するために脱ぎ始めると、事の重大さを分かったのか私に手を差し伸べてくる。私が必要ないと立ち上がっても、まだ付き纏ってくる。うるさい。さっさと素通りして、外の洗濯場で服を洗う。夜の水は冷たい。
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