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雀山商店街の夏祭り
2.俺の背が低いからって
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(あおちゃんなら大丈夫、って俺の背が低いってことだろ。あのパンダの着ぐるみ、160センチ位までしか着られないって言ってたじゃないか)
清良と俺は高校入学まで、背の高さが変わらなかった。二人とも155センチで高校に入ったら伸びるかなと話していたのだ。ところが現実は無情。清良は一年で15センチも伸びたのに、俺はたった3センチしか伸びなかった。
ふて寝をした俺の気も知らず、清良は今朝、家までやってきた。聞き耳を立てていた母にちょっとぐらい協力してあげなさいと言われ、しぶしぶ着ぐるみを見ることにしたのだ。
しかし、社会科準備室で差し出されたパンダを見た瞬間、俺は無言になった。ふかふかの体はもちろん、ウレタン製の頭部はしっかり作られていて予想よりずっと重い。
(今は真夏、連日30度越えの中で……これを……着ろと?)
「……マジで死ぬ」
「あおちゃん、そこを何とか! 夏祭り開始の20分でいいんだ。お願い!」
俺は心の中で深く深くため息をついた。俺はこいつの「お願い」にめちゃくちゃ弱い。でも、ここで絆されちゃダメだ。
(いいか、俺。清良は「お願い」って言えば何でも俺が聞くと思ってるんだぞ。そんなの、いいわけないだろ)
黙って首を横に振ると、清良はいきなり俺の前にひざまずいた。潤んだ瞳を向け、両手を組んで俺を見上げる。
「ねえ、あおちゃん。夏祭りにはちびっこもたくさん来るんだよ。去年『パンダちゃん、また来てね』って言われたんだ。あの子達との約束を守りたいんだよ」
「その子達も大きくなって、今年はパンダに興味ないって可能性もあるんじゃ」
「去年は確か商店街の会長の孫がいたぞ。あの子、今年も来るんじゃね?」
余計なことを言う加瀬を一発殴りたい。
「……あおちゃん」
明るい栗色の瞳がすがるように俺を見る。俺は、はぁあああ…と大きなため息をついた。
「本当に、20分だけだからな」
「やっ……たぁああ! あおちゃん、大好き……」
きらきらした瞳で見られても、全然嬉しくない。「大好き」が虚ろに耳に響く。
目の前で手を取り合ってぴょんぴょん跳ねる幼馴染とキツネ。意思の弱い自分がほとほと嫌になる。
(俺って、ほんと……清良の『お願い』に弱いんだよなぁ)
パンダの試着をしたら、嫌になるぐらいサイズはぴったりだった。清良がにこにこしながら一緒に帰ろうと言う。俺たちは家が隣同士なのだ。
「あおちゃん……ほんとにありがと」
昇降口で靴を履き替えていると、清良が呟いた。俺は靴箱の真向かいの壁にずらっと並んだ自販機を見た。
「清良、俺、レモンスカッシュ」
「あ、うん!」
清良はすぐに自販機に走った。大きくレモンのマークのついた冷え冷えの缶を俺に渡し、自分はスポーツドリンクを買う。昇降口を出たところでプルタブを開けて、一気に喉に流し込んだ。
「ぷっ……はー! うま!」
しゅわしゅわした炭酸とレモンの爽快感に思わず声が出た。一瞬、暑さを忘れる。ごくごくと半分飲んだところで、くくく、と笑い声が聞こえる。
「何だよ!」
「だって、あんなに不機嫌だったのに。めっちゃいい顔するから」
「……このあっついのに、お前が変なお願いするからだろ!」
腹が立って清良の腕を思いきり肘で突く。よろけてスポドリを落としそうになった清良を横目に、俺は炭酸を飲んだ。
「変な、ってひどい。こっちは必死で頼んでるのに」
ぶつぶつ言いながら清良がスポドリの蓋を開ける。何となく眺めていたら、ほっそりした首から喉仏が動く様子までが綺麗で、すげーと思う。まるでCMみたいだ。ふうと息をついた後の口元は緩んでいる。
「お前だって同じじゃん」
「え?」
「いい顔」
「うん。ほっとした。やっぱりあおちゃんは頼りになる」
そういう意味で言ったんじゃないんだけど、と思ったが口に出すのは止めた。あのパンダを着た後、清良にまた何かおごらせよう。
清良と俺は高校入学まで、背の高さが変わらなかった。二人とも155センチで高校に入ったら伸びるかなと話していたのだ。ところが現実は無情。清良は一年で15センチも伸びたのに、俺はたった3センチしか伸びなかった。
ふて寝をした俺の気も知らず、清良は今朝、家までやってきた。聞き耳を立てていた母にちょっとぐらい協力してあげなさいと言われ、しぶしぶ着ぐるみを見ることにしたのだ。
しかし、社会科準備室で差し出されたパンダを見た瞬間、俺は無言になった。ふかふかの体はもちろん、ウレタン製の頭部はしっかり作られていて予想よりずっと重い。
(今は真夏、連日30度越えの中で……これを……着ろと?)
「……マジで死ぬ」
「あおちゃん、そこを何とか! 夏祭り開始の20分でいいんだ。お願い!」
俺は心の中で深く深くため息をついた。俺はこいつの「お願い」にめちゃくちゃ弱い。でも、ここで絆されちゃダメだ。
(いいか、俺。清良は「お願い」って言えば何でも俺が聞くと思ってるんだぞ。そんなの、いいわけないだろ)
黙って首を横に振ると、清良はいきなり俺の前にひざまずいた。潤んだ瞳を向け、両手を組んで俺を見上げる。
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「……あおちゃん」
明るい栗色の瞳がすがるように俺を見る。俺は、はぁあああ…と大きなため息をついた。
「本当に、20分だけだからな」
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きらきらした瞳で見られても、全然嬉しくない。「大好き」が虚ろに耳に響く。
目の前で手を取り合ってぴょんぴょん跳ねる幼馴染とキツネ。意思の弱い自分がほとほと嫌になる。
(俺って、ほんと……清良の『お願い』に弱いんだよなぁ)
パンダの試着をしたら、嫌になるぐらいサイズはぴったりだった。清良がにこにこしながら一緒に帰ろうと言う。俺たちは家が隣同士なのだ。
「あおちゃん……ほんとにありがと」
昇降口で靴を履き替えていると、清良が呟いた。俺は靴箱の真向かいの壁にずらっと並んだ自販機を見た。
「清良、俺、レモンスカッシュ」
「あ、うん!」
清良はすぐに自販機に走った。大きくレモンのマークのついた冷え冷えの缶を俺に渡し、自分はスポーツドリンクを買う。昇降口を出たところでプルタブを開けて、一気に喉に流し込んだ。
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