幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ

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里見高校の文化祭

35.放っておけない

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 黒王子こと阿隅くんの昇降口登場は二日で終わった。
 三日目の朝、何となく人が多いなと思いつつ靴を履き替えたのだが、どうやら阿隅くんの笑顔を見たい人々が張り込んでいたらしい。後から教室に入ってきた持田が、昨日までの登場は『朝の幻影』と呼ばれて惜しまれていると教えてくれた。

「文化祭まであと十日! 朝と放課後に装飾班へのご協力お願いします!」
「料理班は話し合いあるんで、忘れずに残って~!」

 クラスの中は文化祭が近いとあって、皆どこか浮足立っている。でも、このそわそわした雰囲気が俺は好きだ。いかにも祭りが近いって感じがする。美術部員の堀さんは、黒板の脇の掲示スペースに自作のタコ型カウントダウンカレンダーを貼り付けた。日に日に鬼気迫るタコが皆のやる気を倍増させている。

 放課後、俺と加瀬は着ぐるみ同好会の打ち合わせに向かった。社会科準備室に向かって廊下を歩いていると、加瀬が声を潜める。

「……月宮、お前あの1年と仲が良いのか?」

 すぐに阿隅くんのことだと気付いた。

「仲が良いってほどでもないけど、話すとそんなに悪い子じゃないよ」
「そうなのか?」
「うん。可愛い犬も飼ってるんだよ。写真見る?」
「おお」

 俺と加瀬は犬好きなので、犬飼いには寛大なのだ。
 写真を見せようとしたちょうどその時、女子たちのきゃあーー! という歓声が前方から聞こえた。あれは清良のクラスだ。何だろうと思っていると、教室の戸が開いて清良本人が飛び出てきた。

「……もう時間だから!」
「上橋くん、そう言わないで少しだけっ!」 

 鞄を片手に持った清良と反対側の腕に無理やりしがみつく女子。俺と加瀬がびっくりして立ち止まると、はっとしたように清良がこちらを見た。

「あおちゃん……」

 縋りつくような顔に、胸の奥が変な動きをする。清良、と呼ぼうとすると女子が叫んだ。
 
「ねぇ! 同好会の打ち合わせなんて、少しぐらい遅れてもいいでしょ!」
「いや、ずっと今日はだめだって言ってるよね? さっきのでサイズも合ってるし、後はまた今度」

 清良が一生懸命言っている言葉を女子は聞きそうにない。細い腕が清良の腕をぎゅっと掴んでいるのを見て、急に腹が立ってきた。
 俺はその女子の前にずかずかと歩いていった。

「さっさとその手を放してやって。俺たち、これから話し合いだからさ」
「えっ?」
「着ぐるみ同好会だよ。文化祭の話は清良がいないと始まらないんだ。少しぐらい遅れてもいいなんて勝手なこと言うな」

 思ったよりも低い声が出て、女子の肩がビクンと跳ねる。力が緩んだところを清良がさっと振り払った。女子は清良と俺を交互に見て眉を釣り上げる。

「な、なによ……! こっちだって準備があるんだからっ」
「今日はだめだって清良は言ってたんだろ? じゃあ、俺たちが先だ」

 長い睫毛をカールさせた目で思いきり睨まれたが、どうってこともない。こいつより断然目が細い緋鶴の方が、睨まれたらずっと怖いんだから。
 俺が「行こう」と言うと、清良がうなずいて歩き出す。加瀬も慌てたように付いてくる。教室の戸がバン! と大きな音を立てて後ろで閉まった。ちょっとまずかっただろうか。

「……言い過ぎたかな」
「そんなことないよ。ずっとしつこくて困ってたんだ。あおちゃんが言ってくれて助かった」

 清良がふうと息をつく。それから、掴まれていた左手をそっとさすった。

「うちのクラス、文化祭の衣装で浴衣を集めてるんだ。さっき、似合いそうなのを借りたから着てって急に言われてさ。一枚着たらもう十分だと思ったのに」

 衣装係の女子たちが盛り上がって、次々に着せられそうになったらしい。廊下に聞こえた歓声はそのせいだったのか。

「俺は月宮が急に出て行ったから、びっくりしたわ」
「清良が困ってるのに放っておけないだろ。いきなり同好会のこと馬鹿にされるし」
「……ありがと、あおちゃん」
「いいって。それよりお前、腕大丈夫だった?」
「え?」
「掴まれて痛そうだったから」
「ああ。あの子、ネイルが好きみたいで爪が長いんだよね」

 清良が少しだけ眉をひそめた。そういえば髪も唇もしっかり手入れしているタイプだった。俺は清良の左腕を取り、どこにも傷がないかを確かめた。

「どうしたの?」
「いや……。怪我してなくてよかったなって。爪だって引っかけたりするじゃん」
 
 清良がすごく嬉しそうに笑うから、胸がまた一つ変な動きをした。
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