【恋は早いもの勝ち】溺愛攻めが買った惚れ薬

尾高志咲/しさ

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4.カランカンの客 ②

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 カランカンに夜が来る。

 オリーの客は、一日一人だけだ。それも、一日目は顔を見せ、二日目は話をするだけ。三日目でようやく一緒にお茶を飲む。その時にオリーが気に入らなければ、それきりだ。それでもいいと言う客だけが大枚を払って通うのだ。

 オリーは既に身支度を終えていた。黄金の髪を高く結い上げ、絹の衣装の上に大ぶりな花の描かれた上着を羽織っている。耳飾りや首飾りは瞳と同じ色だ。着飾ったオリーは、息を呑むほど綺麗で見惚れてしまう。それでも、一緒に旅をしていた時の姿が一番好きだけれど。

「もう、時間だよね。今日の客は誰?」
「北のユノエ様。⋯⋯ラウェルも来る?」

 僕は、自分でもぱっと顔が輝いたのがわかった。オリーが眉間に皺を寄せる。ユノエ様は北の大公の子息で、最近カランカンに通い始めたばかりだ。おっとりと優しくて、物腰も柔らかい。僕や付人たちにも、いつもお土産を用意してくれる。
 肝心のオリーには気に入られていないけれど、よほど金を積んでいるのだろう。追い返されることもなく、今日で訪問は十日になる。それぞれの客との進展具合はオリーが決めることだ。客は離さず、うまく絞れるだけ絞り取ればいいと、館主は言う。

 オリーは、実はどの客にも愛想が悪い。美しく化粧を施され、つんとして表情を変えない姿は、精巧に作られた人形のようだ。最も、そこがいい、愛想のいい者には飽きたと言う客が大半らしいから、世の中わからないものだ。

 ユノエ様が案内されて部屋に入ってくる。体格もよくて、美丈夫って言葉がぴったりだ。僕がお茶を出すと、にこりと笑った。人懐こい笑顔に、僕も思わず笑顔で返す。

「ラウェルの入れてくれた茶は、うまいな。ほんのりと甘みを感じる」
「ありがとうございます」

 いらして三日目にお茶を出した時から、ユノエ様は何かと話しかけてくださる。オリーと一緒に部屋においでと言われるのでお邪魔しているが、主役はオリーだ。お茶を出したら、すぐに部屋の隅に控えた。
 肝心のオリーは、何時にもまして不機嫌だけれど、あれでいいんだろうか。客商売なのに、と僕は内心はらはらしながら二人の様子を見ている。

「⋯⋯そろそろ、我が願いを聞き入れていただきたいのですが」
「館主から聞いているでしょう。決めるのはこちらです」
「存じています。それに、オリー殿に聞き入れていただくためには、相応のものが必要だということも」

 これ以上は親密な話になりそうだったから、僕は茶を入れ替えるふりをして、そっと席を外した。
 茶道具を片付けようと控えの間に行けば、付人のシフの様子がおかしい。青白い顔でぶるぶると震えている。そういえば、シフはさっきまでいなかったな。

「どうしたの、シフ?」

 シフはなかなか、言葉を続けようとはしなかった。手を握れば、指先まで冷たくなっている。

「あ、兄が来ました。体中、殴られた跡があって、血だらけで。屋敷から逃げてきたって⋯⋯」
「⋯⋯なんで、そんなことに」
「ア、アナン様です。オリヴィ様に会えるよう、僕に手引きをさせろと言ってきたんです。兄が断ったからって⋯⋯あんな! ひどい!」

 シフの目から、ぼろぼろと涙が零れ落ちた。僕はシフの涙を指で拭った。

 アナン。
 王都でも有名な豪商の一人息子だ。

 オリーの噂を聞いて、貴族にごり押しで紹介を頼んできた。見栄えのする男だったが、オリーは一度で対面を断った。アナンの方はオリーが気に入ったようで、どうしても諦めきれないらしい。何とかもう一度オリーに会おうと画策している。

 運悪く、アナンの屋敷の下働きにはシフの兄がいた。弟がオリーの付人としてカランカンにいることを知ると、無理やり手引きするよう脅したと言う。シフの兄が断ると屋敷の者たちが暴行を加えたらしい。
 ユノエ様のような客もいれば、アナンのような客もいる。

「シフ、お兄さんは今、どこにいるの?」
「裏庭の納屋に隠れています。す、少しだけでも休ませたいんです。お願いです、ラウェル様。見逃してください、あのままじゃ⋯⋯」
「僕の部屋に薬がある。手当てをするから、すぐに案内して」

 部屋に戻って、薬を幾つも籠に入れる。他の付人たちにオリーのことを頼んで、二人で部屋を飛び出した。外階段を幾つも下りて、裏庭の端にある納屋へと向かう。
 そっと納屋に入れば、隅に積んだ藁に寄りかかって、一人の男が肩で息をしていた。
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