32 / 72
32.暗闇の中の光 ②
しおりを挟む
⋯⋯この手は。
「オリー?」
涙が僕の頬に降る。
「もっと⋯⋯、早く呼べ。ラウェル」
耳に届く声は細く小さくて、今にも消えてしまいそうだった。でも、僕の聴力は今までとは違う。ミツドリとして少しずつ目覚めているのか、絞り出すような声をちゃんと聞き取ることができる。
「オリー⋯⋯! 来てくれたの?」
銀色の光が人型にゆらめく。僕に向かって大きく輝く。
オリー。
オリーだ⋯⋯。
僕は横になっていた体を必死で起こそうとした。ふらりとよろけたところを、オリーがすぐに支えてくれる。体は益々熱くなり、息をするのもつらくなる。力が抜けて、体を真っ直ぐに保つことができない。オリーは自分の胸の中にしっかりと僕を抱え込んだ。広い胸も温かい腕も確かにオリーだと思うのに、どこかで夢のような気がする。でも、熱が見せたひと時の幻でもいい。オリーが目の前にいると思うと、嬉しくて嬉しくて、涙が浮かんではこぼれていく。
「ほ⋯⋯んと⋯⋯、にオリーに会えた。嬉しい⋯⋯」
「熱い! ラウェル、熱が出てるじゃないか。どうして、こんなことに」
「⋯⋯うん。ごめん⋯⋯ね、オリー。逃げ出したのは、僕なのに」
手で確かめるようにオリーの頬に触れる。滑らかな肌からは肉が落ちて、以前より痩せてしまった。何度も撫でていると、オリーの指が僕の顎を捕らえて上を向かせた。
「ラウェル、目が見えないのか? ⋯⋯なぜ?」
「うん、⋯⋯見えないんだ。たぶん、心の問題だって言われた。眼球が傷ついてはいないから。でも、感じることは出来るよ。オリーはね⋯⋯、すごく綺麗な光なんだ。優しい、銀色の光が、人の形をとってる。すごくあたたかいんだよ⋯⋯」
体が熱くて、喉も乾いて声を出すのが苦しい。それでも、オリーの腕の中にいることがたまらなく嬉しい。ほんの少し、オリーからは花の蜜の香りがする。僕は荒い息の中、オリーの胸にぎゅっと顔を埋めた。
「さっきね、最期の時には⋯⋯オリーに会いたいって思ったんだ」
一目だけでも会いたいと思っていた。でも、顔が見えなくてもいい。僕はずっと、オリーに抱きしめてほしかった。この腕の中で優しい温もりに包まれたかった。
オリーが僕の体を強く強く抱きしめた。まるで骨が砕けてしまいそうなほど、強く。
⋯⋯ラウェル。ごめん。ごめん。こんなに、悲しませてごめん。
目が見えなくなるほど、苦しませて、ごめん。
⋯⋯⋯⋯父が、ラウェルの一族の命を奪った。誰も、助けられなかった。
たった一人に、⋯⋯最後の一人にしてしまった。
⋯⋯皆に囲まれて、誰よりも愛されて生きるはずだったのに。
ラウェル。⋯⋯⋯ラウェル。最後の希望。
⋯⋯大事な⋯⋯。たった一人の⋯⋯。
オリーからたくさんの感情が入り混じって伝わってくる。涙の雫が降ってくる。
たくさんの後悔と涙と、血を吐くような叫び。オリーの心に、ラウェルはもう二度と戻ってこないと絶望が混じる。オリー、もう泣かないでと囁いた。オリーの手の力が少し緩んだ時に、僕は顔を上げた。目が見えなくてもちゃんと覚えている。今、蒼空の瞳が僕を見ている。大好きな晴れ渡った空の瞳の中には、いつだって僕が一番に映っているはずだ。
「オリー、僕ね、気がついたんだよ⋯⋯。暗闇の中にいてもね、オリーのことを思うと心が落ち着くんだ。寂しい時はオリーの上着を着たり抱きしめたりしてた。そうすると、よく眠れたんだ」
「⋯⋯ラウェル」
オリーの手が、僕の髪を撫でる。何度も何度も。嬉しくなって、ふふ、と笑みが浮かぶ。
ずっと、僕を守ってくれた。どんな時も一緒にいてくれた。たくさんの優しい気持ちを与えてくれた。
僕の中の優しい気持ちはオリーが育てたものだ。だって、ミツドリは人の気持ちを感じ取って生きるのだから。真っ直ぐな気持ちをたくさんもらって、今日まで命を繋いできた。
「オリー⋯⋯、好きだよ。大好き」
仄暗い空間に沈黙が落ちる。
何も答えないオリーに、少しだけ首を傾げた。オリーの銀色の光もぴたりと輝きを止めている。
⋯⋯聞こえなかったのかな。
もう一度言おうか、と思った時だった。
瞬きをすると、ふわりと唇に柔らかいものが触れた。すぐに離れたかと思ったら、もう一度。
唇と唇が重なって、オリーが僕の頬を手で包んだ。
体の奥でもう一度、ドクン、と何かが脈打った。
「オリー?」
涙が僕の頬に降る。
「もっと⋯⋯、早く呼べ。ラウェル」
耳に届く声は細く小さくて、今にも消えてしまいそうだった。でも、僕の聴力は今までとは違う。ミツドリとして少しずつ目覚めているのか、絞り出すような声をちゃんと聞き取ることができる。
「オリー⋯⋯! 来てくれたの?」
銀色の光が人型にゆらめく。僕に向かって大きく輝く。
オリー。
オリーだ⋯⋯。
僕は横になっていた体を必死で起こそうとした。ふらりとよろけたところを、オリーがすぐに支えてくれる。体は益々熱くなり、息をするのもつらくなる。力が抜けて、体を真っ直ぐに保つことができない。オリーは自分の胸の中にしっかりと僕を抱え込んだ。広い胸も温かい腕も確かにオリーだと思うのに、どこかで夢のような気がする。でも、熱が見せたひと時の幻でもいい。オリーが目の前にいると思うと、嬉しくて嬉しくて、涙が浮かんではこぼれていく。
「ほ⋯⋯んと⋯⋯、にオリーに会えた。嬉しい⋯⋯」
「熱い! ラウェル、熱が出てるじゃないか。どうして、こんなことに」
「⋯⋯うん。ごめん⋯⋯ね、オリー。逃げ出したのは、僕なのに」
手で確かめるようにオリーの頬に触れる。滑らかな肌からは肉が落ちて、以前より痩せてしまった。何度も撫でていると、オリーの指が僕の顎を捕らえて上を向かせた。
「ラウェル、目が見えないのか? ⋯⋯なぜ?」
「うん、⋯⋯見えないんだ。たぶん、心の問題だって言われた。眼球が傷ついてはいないから。でも、感じることは出来るよ。オリーはね⋯⋯、すごく綺麗な光なんだ。優しい、銀色の光が、人の形をとってる。すごくあたたかいんだよ⋯⋯」
体が熱くて、喉も乾いて声を出すのが苦しい。それでも、オリーの腕の中にいることがたまらなく嬉しい。ほんの少し、オリーからは花の蜜の香りがする。僕は荒い息の中、オリーの胸にぎゅっと顔を埋めた。
「さっきね、最期の時には⋯⋯オリーに会いたいって思ったんだ」
一目だけでも会いたいと思っていた。でも、顔が見えなくてもいい。僕はずっと、オリーに抱きしめてほしかった。この腕の中で優しい温もりに包まれたかった。
オリーが僕の体を強く強く抱きしめた。まるで骨が砕けてしまいそうなほど、強く。
⋯⋯ラウェル。ごめん。ごめん。こんなに、悲しませてごめん。
目が見えなくなるほど、苦しませて、ごめん。
⋯⋯⋯⋯父が、ラウェルの一族の命を奪った。誰も、助けられなかった。
たった一人に、⋯⋯最後の一人にしてしまった。
⋯⋯皆に囲まれて、誰よりも愛されて生きるはずだったのに。
ラウェル。⋯⋯⋯ラウェル。最後の希望。
⋯⋯大事な⋯⋯。たった一人の⋯⋯。
オリーからたくさんの感情が入り混じって伝わってくる。涙の雫が降ってくる。
たくさんの後悔と涙と、血を吐くような叫び。オリーの心に、ラウェルはもう二度と戻ってこないと絶望が混じる。オリー、もう泣かないでと囁いた。オリーの手の力が少し緩んだ時に、僕は顔を上げた。目が見えなくてもちゃんと覚えている。今、蒼空の瞳が僕を見ている。大好きな晴れ渡った空の瞳の中には、いつだって僕が一番に映っているはずだ。
「オリー、僕ね、気がついたんだよ⋯⋯。暗闇の中にいてもね、オリーのことを思うと心が落ち着くんだ。寂しい時はオリーの上着を着たり抱きしめたりしてた。そうすると、よく眠れたんだ」
「⋯⋯ラウェル」
オリーの手が、僕の髪を撫でる。何度も何度も。嬉しくなって、ふふ、と笑みが浮かぶ。
ずっと、僕を守ってくれた。どんな時も一緒にいてくれた。たくさんの優しい気持ちを与えてくれた。
僕の中の優しい気持ちはオリーが育てたものだ。だって、ミツドリは人の気持ちを感じ取って生きるのだから。真っ直ぐな気持ちをたくさんもらって、今日まで命を繋いできた。
「オリー⋯⋯、好きだよ。大好き」
仄暗い空間に沈黙が落ちる。
何も答えないオリーに、少しだけ首を傾げた。オリーの銀色の光もぴたりと輝きを止めている。
⋯⋯聞こえなかったのかな。
もう一度言おうか、と思った時だった。
瞬きをすると、ふわりと唇に柔らかいものが触れた。すぐに離れたかと思ったら、もう一度。
唇と唇が重なって、オリーが僕の頬を手で包んだ。
体の奥でもう一度、ドクン、と何かが脈打った。
34
あなたにおすすめの小説
向日葵畑で手を繋ごう
舞々
BL
琥珀は付き合っていた彼氏に「やっぱり男とは手が繋げない」とフラれてしまい、そこから更に人を避けて生きるようになった。笑うことさえなくなった琥珀を心配した母親は、琥珀の夏休み期間だけ自分の生まれ故郷である秩父へと送り出す。そこで久しぶりに再会した悠介は、琥珀のことを子ども扱いするものの、事あるごとに自然と手を繋いでくれる。秩父の自然に触れながら、琥珀はいつしか明るく優しい悠介に惹かれていったのだった。
ユキ・シオン
那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。
成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。
出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。
次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。
青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。
そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり……
※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
忘れられない君の香
秋月真鳥
BL
バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。
両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。
母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。
アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。
最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。
政略結婚から始まるオメガバース。
受けがでかくてごついです!
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。
洗濯日和!!!
松本カナエ
BL
洗濯するオメガバース。BL。
Ωの鈴木高大は、就職に有利になるためにαと番うことにする。大学食堂で出逢ったαの横峯大輔と付き合うことになるが、今までお付き合いなどしたことないから、普通のお付き合い普通の距離感がわからない。
ニコニコ笑って距離を詰めてくる横峯。
ヒート中に俺の部屋においでと誘われ、緊張しながら行くと、寝室に山ができていた。
巣作りしてもらうために洗濯物を溜め込むαと洗濯するΩ。
12話一旦完結からの17話完結。
卒業旅行番外編。
(素敵な表紙はpome様。感謝しかありません)
※大島Q太様のTwitter企画「#溺愛アルファの巣作り」に参加したのを加筆して出します。
※オメガバースの設定には、独自解釈もあるかと思います。何かありましたらご指摘下さい。
※タイトルの後ろに☆ついてるのはRシーンあります。▲ついてるのはオメガハラスメントシーンがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる