【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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Ⅰ.スターディア

第5話 末っ子王子と浮気者王子①

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「イルマ様。シェンバー王子が御面会を希望されておりますが」
 セツが苦りきった顔で言伝ことづてを告げた。

「えー、断ってよ」
「そう仰るとは思っていました」
「じゃあ、後はよろしく」

 スターディアに来てから、はや三日が経っていた。

 傷心から体調を崩した、という理由で面会はすべて断っている。
 それでも次々に、ご機嫌伺いの使者がやってきた。
 シェンバー王子からは特に、お見舞いと称した花や果実、菓子が次々に贈られてくる。
 セツはそれらを断るのにも四苦八苦していた。

 ぼくは忙しいんだ。
 朝一番で起きて、身の回りの支度を整える。軽く運動したら食事。その後は、帰国の手立てを検討しなければならない。やることは山積みだ。

 そんな中、問題なのはシェンバー王子と大臣たちだった。
 ぼくがスターディアに着いた時の事件は、瞬く間に王宮に知れわたった。
 国王陛下は第2王子の醜態に激怒し、なんとしてもぼくに謝罪してこの国に残るよう力を尽くせと仰ったらしい。

 翌日からずっと、面会を求めて使者がやってくる。
 内容は「謝罪したい」の一点張りだ。余程、婚約者に逃げられた王子のそしりを免れたいらしい。
 もうぼくの中では、話は済んでいるんだけどなあ。

 流石にセツもうんざりな様子で、扉の向こうで怒鳴り返しているのが聞こえた。

「これでちょうど10回目です!」
「お疲れ様―!!」
「シェンバ―王子の従者だけで! ですよ。大臣たちも、しょっちゅう具合はどうか? とやってくるし」
「さすがにちょっと多すぎだよねえ」

 こんなに攻勢をかけられては、フィスタに帰れないかもしれない。
 それに、これ以上セツの機嫌が悪くなると、美味しいお茶を淹れてもらえなくなる。ちょっとした加減で味が変わっちゃうから。

「あ。お茶の葉がきれました。ちょっと、仕入れてきますね」
 新しくお茶を淹れようとしたセツが部屋を出て行く。

 ぼくがもう一仕事しようと思った時だった。
 コンコン、と扉が叩かれる。まずい、取り次ぐセツがいない。

 こっそり扉に近づく。
 ⋯⋯もう諦めて立ち去ったのかな。再度扉をたたく様子もない。人の気配がしないのを確かめて、鍵をかけようとした時だった。

 扉が目の前でいきなり開く。
 サラサラと流れる金髪と深い瑠璃色の瞳。美の女神に愛された王子の白皙の美貌があった。
 ぼくに気づいたシェンバー王子は、大きく目を見開く。もろに目が合ったぼくは、全力で扉を閉めた。

 ガツン!
 咄嗟にシェンバー王子が長い足を扉に挟んできた。

 ええっ!!

「──待て!」
「りょ、療養中ですので!!」
「療養中な奴が、歩いて出て来られるわけがないだろう!」
「出てきてません! 貴方が勝手に入ってきたんですよ!!」

 必死で扉を閉めようとしても、なかなか閉まらない。
 小柄で細身なぼくと違って、シェンバー王子は長身で筋肉質だ。
 取っ手を力の限り引っ張るぼくと、渾身の力で扉を掴んで開けようとする王子。

「くっっ!!」
「ううううう!!!」

 扉を挟んで小競り合いを繰り返したが、力負けだ。とうとう扉が開けられた。
 無理やり中に入ってきた王子は、後ろ手で扉の鍵を閉めた。

 お互いに額に汗をかき、はあはあと息をついている。
「シェ、シェンバー王子、一体なにを⋯⋯!」
「まだ、きちんと挨拶も⋯⋯していなかったからな」

「あ、挨拶?」
「そうだ、殿」
 シェンバー王子はにやりと笑うと、目の前ですっと腰を落とした。
 片膝を立て、片足を折って床につける。その後、ぼくの左手を取って、手の甲にうやうやしく口づけた。

「シェンバー・ラウ・スティオンです。フィスタの至宝、イルマ殿下」

 完璧な作法で流れるように礼を尽くす。艶やかに微笑む彼は、確かに美しかった。

 瞳に合わせたのだろう。深い瑠璃色を基調にした上着には金の刺繍が施されている。上質な絹のシャツは肌に映え、華美な衣装も中性的な顔立ちによく似合っていた。

 思わず見惚れていると、ぼくの手を取ったままぐいっと顔が近づいてくる。

 白磁の肌には染み一つなく、瞳は輝く宝石のよう。すごい。男性とは思えない。
 まじまじと眺めていると、王子の声が耳元で甘く響く。

「イルマ殿下。先日は誠に申し訳ありませんでした。私の心弱さが貴方の尊い御心を傷つけましたこと、慚愧ざんきの至りです」
「シェンバー王子⋯⋯」
「どうぞシェンとお呼びください」

 シェンバー王子の瞳が切なげにぼくを見つめる。
 王子の髪がはらりとぼくの頬にかかり、お互いの息が近づく。
 ぼくはそっと、王子の肌理きめの細かい肌に触れた。

「素晴らしいです、この肌触り! 普段どんなお手入れをなさっておいでですか?」
「⋯⋯は?」


 ドン、ドン、ドン!!!
 ものすごい勢いで扉が叩かれた。

「でんか! 殿下!! イルマ殿下あああああ!!!!!!!」
「せ、セツ???」
 ガシャガシャと取っ手を乱暴に扱う音も聞こえる。
「あ、開かない!! 殿下、殿下! ご無事ですかああ!!!」

「セツ、そこをどけ! こんな扉ぐらいこの私が!!」
 あれはサフィードだろう。

 ドガッ!ガッ!!
 さらにすごい音が聞こえてくる。
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