【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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Ⅳ.道行き

第5話 伝説①

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 大臣たちを下がらせ、王の間に新たに人が呼ばれた。


 国王と宰相の他は、王太子アレイドと第二王子のヨノル。そして、シェンバー王子だった。

「私が話を聞いてもよろしいのですか?」
 とまどうシェンバー王子に、国王は言った。

「一年に渡り我等を支え、イルマの仕事を続けてくれたのは貴方だ。今だイルマの婚約者でもある。ラウドの話を共に聞いてほしい」

 二人の兄王子たちは、久々に会う弟王子に喜びの表情を見せた。旅を続けてきた第3王子は、まるで王宮の影を吹き払う風のようだった。



「早速ですが、ご報告申し上げます。兄上たちもご存知の通り、我らが他国へ留学するのは王族としての見識を深める為だけではない」

 兄王子たちが同時に頷く。

「女神に関する伝説や逸話がないかを密かに探し出すのがフィスタの王子の役目。積年の憂いである『祝福の子』の呪いを解く為に」

 留学の際に、王子たちは国王から必ず聞かされる話がある。
 王家に生まれる祝福の子。その役割と悲しみを。

 ──祝福の子以外の王子は、各地に赴き女神について探れ。
 王族ならば、各王家の書庫に立ち入ることさえも出来るのだから。

「女神の信仰は大陸全土に広がっています。中でも信仰が厚いのは、我がフィスタとスターディア、ナヴァン、ロダナム、ガッザークなどの近隣諸国です。住居を変え多くの地域に参りましたが、ガッザークから遥か北。秘境と言われる山深い湖に伝わる話が、大変興味深いものでした」

 そう前置きして、ラウド王子は語り始めた。

 “遥か昔、相次ぐ天災で飢えに苦しむ人々を救いたいと願った王子がいた。黄金の瞳の王子は、湖の女神に豊かな実りと国の繁栄を願う。一人寂しく湖に住まう女神は、自分の側に来るならば、望みを叶えようと仰った。大地が女神の力で潤い息を吹き返した時、王子は女神と共に湖に消えた”

「たしかに、フィスタとよく似ている」
 ヨノル王子が呟いた。

「兄上。続きがございます」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 王子は、女神の元に来ても少しも笑顔を見せなかった。
 日に日にやつれていく王子に女神は問う。


〈なぜそんなに悲しむのです。あなたの願いを叶えたのに。あなたは少しも嬉しそうではない〉

 
〈お許しを、女神。私は祖国を愛しています。水の世界は美しく豊かです。でも私は、自分の国を忘れることができません。地上の光が、人々が恋しいのです〉

〈では、王子。満月の晩にあなたが国に戻るのを許しましょう。ただ、新月の晩には必ず帰って来てください〉

 果たして、地上に戻った王子を見て人々は喜んだ。王子が人々を愛するのと同じくらい、人々も王子を愛していたからだ。女神のおかげで実り豊かな土地になったのに、人々は王子が自分たちの元にいることを望んだ。

 王子が新月の晩に女神の元に帰ろうとすると、人々は止めた。
 こっそり王子の盃に忘れ草の汁を混ぜたので、王子は約束を、女神を忘れた。

 女神は待った。待っても待っても帰らない王子を、とうとう王宮に訪ねた。
 王子は、女神のことを何も覚えていなかった。

〈貴女は、どなたですか。貴女の姿を見ると、なぜかとても懐かしい〉
〈王子、あなたは私に約束しました。共に湖に帰りましょう〉
〈それはできない。私はこの国の王子だ。来年には子が生まれ、父の跡を継ぐ〉

 王子は周りの勧めで妃を迎えていた。王子の言葉に絶望した女神は、一人で湖に帰った。
 水底の女神の嘆きは天に届き、他の神々の怒りを呼ぶ。
 嵐が起こり、地が震え、人々が泣き叫び祈っても、神々は許さなかった。

 荒れ果て死に絶えた国から、女神は一羽の鳥に姿を変えて飛び立った。
 神々の怒りを買った地は、時を経てただの森となった。湖は閉ざされ、女神の涙のように澄んだ輝きのまま、森の中に残された。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 ラウドの長い話を聞き終わって、広間には大きなため息が漏れた。

「女神は、どこへ⋯⋯?」
 アレイド王太子が、絞り出すような声で言った。

「わかりません。ただ、似ていると思いませんか?」

 フィスタに伝わる神話では、女神は湖から生まれ、一羽の鳥に姿を変える。そして、地上を見下ろした時に人々の願いを受けて地に降りるのだ。

 祝福の子は、王族に生まれ黄金色の瞳をしている。国に実りと繁栄を約束する代わりに、女神にその身を捧げる。
 多少の違いはあっても、伝説はよく似ていた。

「私がガッザークの外れの山々を渡り歩いていた時、一つの村でこの話を聞きました。村の古老が若い頃、旅の途中で知ったそうです」

 話を聞いたラウド王子は、早速確かめてみようと北に進路を取った。
 何カ月もかけて旅を続け、何人も案内人を雇い、ようやく湖に辿り着く。

「その湖は、本当にあったのか!?」
「⋯⋯ありました」

 深い森に囲まれ、立ち込める霧の中に湖はあった。案内の木こりに聞けば、霧は滅多に晴れることがないという。底まで見通せるような透明度の高さ、何も生き物の姿がない湖。

「驚くほど美しい湖でしたが、周囲はどこまでも森が続いています。まるでフィスタの黒の森のように。以前、湖の近くに国があったかは定かではありません」

 北の山々を離れて、今度はガッザークの王宮に世話になった。王家の書庫に何かないかと探し回り、王子と女神の物語があることを知った。
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