【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
79 / 202
第二部 眼病の泉

第7話 東の大神殿①

しおりを挟む
 
 東の大神殿は、タブラの町から少し離れたところに建っていた。見通しが良いので、すぐにわかる。
 周囲には何もなく、その先にはクァラン砂漠があるばかりだ。

「イルマ様。これなら案内など⋯⋯」
 必要ないだろう、とセツの目が言う。ぼくも頷いた。
 ぼくたちの責めるような視線を、商人は、にこにこと笑顔で受け流す。
「神殿は大事な商売先だ。挨拶もせねばならぬので、ちょうどよかった。イルマ様とも、ご縁が出来てなにより」

 商人は目端の利く者が多いが、流石はタブラの商人の子だ。こうして縁もゆかりも無いところに、強引に縁を繋いでいくのだろう。

 取次ぎを頼むと、大神殿長が走ってきた。
「おお、イルマ殿下ですね? ようこそおいでくださいました。⋯⋯これは、ハートゥーン。なぜここに?」
「御無沙汰しております。市場で騒ぎが起きまして、イルマ様を巻き込んでしまいました。お詫びがてら、お連れした次第です」
「なるほど。しかし、これより先は其方たちには関係なき事。引き取られよ」

 きっぱりとした大神殿長の言葉にも、ハートゥーンは笑顔だ。
「先ほど少し耳にしましたが、人を探しておいでとか? 僭越ながら、私どもならば人探しには慣れておりますが」

 ぼくは、思わず商人の服をぐっと掴んだ。ハートゥーンが目を丸くする。

「探せるのか!?」
「イルマ様!!」
 セツが止めに入る。それでも、聞かずにはいられなかった。
「砂漠に入ったのかどうかもわからない。1カ月前にこの町に来たらしい、ということしかわからないんだ。それでも?」

 ハートゥーンの瞳の奥に動くものがあった。
「詳しいお話を聞かねば、何とも言えませんが。ただ、この町で起きたことなら我等以上に知る者はおりません」

 大神殿長が黙り込む。それは肯定の証だった。

「我が従兄弟、セリムは砂漠の部族を束ねるザユラの長の子。二人とも、お役に立てると思います」
 商人の口許には、にっこりと三日月形の微笑が浮かんだ。


「何で、シェンバー王子たちを探すのに商人たちまで?」
「仕方ない。きっと何か、ご縁があったんだよ」

 東の大神殿長も、商人たちの力を借りた方が早いと判断した。様々な国と人とに繋がりを持つタブラの商人たちの力は大きい。

 サフィードとセツが、宿屋に残された馬たちと荷物を取りに行く。その間にぼくは、大神殿長との話を終えた。

 神殿に滞在しながらシェンたちを探す。
 相談の結果、決まったことだ。

 吹き抜けの廊下から外に続く階段を下りる。

 太陽が黄金から紅に変わろうとしていた。陽光が、砂漠を赤く染めていく。
 ──きれいだ。でも、きれいすぎて寂しい。

 長い階段の途中で座る。遥か遠くに見える砂の山。
 砂漠のことはよくわからないけれど、あの中に連れ去られたとしたら。
 ⋯⋯無事でいられるのかな。
 朝と夜の気温差は激しく、生き物の姿は稀だと聞く。

「シェン⋯⋯」
 名を呼べば、きりきりと胸の奥底が抉られる。
 ぼくは俯いて膝を抱えた。

「イルマ王子」
 階段の下からセリムが声を掛けてきた。
 ぼくが黙っていると、すぐ近くまで登ってくる。

「探し人は、よほど大事と見える」
  だいじ、と口にしてしまったら気持ちが溢れてくる。もう1カ月も会っていない。優しい低い声も、温かい腕も、今は遠い。

「⋯⋯無事に会えるなら、何でもするのに」
 思わず呟いてしまう。
「何でも? 気軽に言うのは危険な言葉だな」
 風にあおられて、白い長衣がふわりと舞う。長衣から覗くのは砂漠の民特有の褐色の肌。青い瞳には、心の奥底まで覗き込まれそうだ。

「⋯⋯気軽じゃない。本気だ」
 広大な砂漠を見ていたら呑み込まれそうな気持ちになる。女神の名を呼んで、縋りつきたくなる。
「何でも、と言われるなら我が部族に参られよ。太陽の子の望みなら、砂漠の民として何としても叶えよう」
 階段に跪いて、セリムが静かに言った。

 何を言い出すんだ。
「冗談じゃない。ぼくは砂漠の民にはならない!!」

 立ち上がって叫ぶぼくを、セリムは面白そうに見つめた。そして、ぼくの手を取って恭しく指先に口づける。
 その手を思いきりはねのけた。

 セリムは、声を出して笑う。
「⋯⋯全く残念だ。気が変わったら、いつでも私に命じるがいい。イルマ王子」
 
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...