【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第三部 父と子

第23話 襲撃②

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 イルマが呆然と立ちすくんだ時に、二つの人影が自分の背後から前に出た。男たちの間で瞬時に白刃が煌めき、小道に人が倒れていく。
 朝陽が差し込む中、目の前の光景に自分の心が追い付かない。

 逞しい背中で視界が遮られた。
「イルマ殿下、私から離れずに」
「サフィー!」

 幼い時から見慣れた背中に、ほっと息が漏れる。
 サフィードの前に走り出た男がいた。守護騎士の剣が一閃され、声もなく男は地に伏した。

 イルマを背に庇いつつ、サフィードは向かってくる敵を白刀の元に薙ぎ払った。二手に分かれた敵は訓練された者たちだった。相手の方が数は多かったが、影や守護騎士の強さとは比較にならない。

 もうじき、決着がつく。

 イルマがそう思った時、目の前で激しく剣がぶつかりあった。切りかかってきた壮年の男とサフィードの力は拮抗し、互いに一歩も譲らない。
 二人の動きは大きくなり、イルマはじりじりと後退した。
 ふっと体に影がかかった。見上げれば陽射しが遮られ、傍らの樹上から何かが降ってくる。

 ⋯⋯鳥? いや、違う!

 小柄な体が音もなく地に降りたかと思うと、手が伸びてイルマの口を覆った。手の中の布は強い刺激臭がする。
 匂いを吸い込んだ途端、目の前に光がちらつき、耳鳴りがした。

「イルマ様ッ!」

 力が抜けたイルマの耳に、サフィードの叫び声が聞こえた。




「たしかに、襲われて⋯⋯。倒れたはずだと思うんだけど」
 イルマは、自分が変わらず小道に立っていることに困惑していた。

 先ほどまでの戦いの痕跡はどこにもない。
 自分を守ってくれたサフィードも、二人の影や庭師を装った男たちも見当たらない。
 明るい陽射しの中に花々が咲き、清浄な空気が漂っている。どこにも血の香りはしなかった。

 ──ここは、どこなんだろう。

「この花⋯⋯」
 辺りを見回せば、自分が走ってきた庭園の花々とは違う。

 リュートの音が聞こえた。
 はっとして、音に惹かれるように小道を走った。
 奥に四阿あずまやが見え、優しい音を奏でていた少年がこちらに目を向ける。
 イルマがはあはあと息をつき四阿の入り口に立つと、少年も立ち上がってイルマの前に来た。

 輝く黄金の髪に瑠璃色の瞳。柔らかな微笑みが向けられた。

「ようこそ、イルマ王子。閉ざされた庭へ」


『誰も入ることは出来ん。もう長い間、閉ざされたままだ』
 昔から王宮仕えだと言う老いた庭師の言葉を思い出す。

「閉ざされていると言うけれど。やっぱりあったんだ⋯⋯」
「もちろんある」
 少年の輝く笑顔に先ほどまでの緊張が緩む。イルマは思わず叫んだ。

「ぼくは、貴方に会いたかったんです。王宮に来たら会えるかと楽しみにしていた」
「⋯⋯まるで愛の告白のようだな」
「!?」

 目を丸くしているイルマの姿を見て、少年はくっくっとおかしそうに笑う。
 イルマは以前、さんざんシェンバーにからかわれたことを思い出した。
 ──この人、本当にシェンに似てる⋯⋯。

 少年はひとしきり笑った後に、イルマの手を取った。リュートを奏でる優雅な姿とは違って、その手は鍛えられて武骨だった。

「私も会えて嬉しいが、あまりよいことでもない。ここに長くいてはまずいだろう」
「誰も入ってはいけない場所だから?」
「⋯⋯ここは陛下によって閉ざされた庭だ。私はずっと祈っていた。愛し子を遣わしてくださるとは、女神のご恩情に感謝する」

 一陣の風が吹いた。
 どこまでも続く青空の下で、咲き誇る花々が揺れる。風にあおられて、花びらが舞い上がった。
 イルマは目を瞑り、風を防ごうと手をかざす。少年はじっと、指に嵌められた指輪を見た。

「其方は、その宝石の力でここに来た」
 瑠璃色の瞳と同じ色の宝石は、どちらも夜明け前の空のように静かに澄んでいる。
「どうか⋯⋯、私に力を貸してほしい」


 ◇◆



 スターディア国王は、列を成して挨拶に訪れる貴族たちと、ゆっくり言葉を交わしていた。久々の夜会であり国王との近接に、誰もが興奮を隠せない。冗長に話す者も多かったが、あと数名でそれも終わる。
 広間に流れる音楽が変わろうとしていた。中央で華やかに踊る人々も、音楽が変われば気が付くだろう。

 ──快癒した二の王子と大切な伴侶を、諸侯の前にようやく見せることが出来るのだ。
 国王の胸は、強く高鳴っていた。
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