【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第三部 父と子

第24話 切望①

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「そろそろ刻限だ」
 窓辺に佇む碧の瞳が玉座を見つめていた。希代の人形師が心を込めて作り上げたかのような繊細な美貌に、よく似た姿が近づく。
「あの美しい顔はどんな悲痛に歪むのでしょう? 楽しみだわ」

 中央のダンスの輪から離れて、妹は兄の隣に立つ。開いたばかりの二輪の花を思わせる美しさに、誰もが目を奪われた。
 レーテ・シュタインがうっとりと玉座の隣を見つめる姿は、まるで恋をしているかのようだ。傍らの碧の瞳が、冷徹な輝きを帯びる。

 音楽が、変わった。





 半日前。

「イルマ様ッ!!」

 サフィードの目の端で、小柄な男がイルマ王子を捕らえたのが目に入った。瞬時に身を屈め、向かってくる壮年の男の頸に迷うことなく剣を突き立てる。目の前に真紅の飛沫が散り、大きな体がどっと倒れた。すぐに踵を返せば、小柄な男の元に走り寄る者たちがいる。
「⋯⋯新手か」
 男たちがイルマ王子を抱え上げるのを見た時、守護騎士は地を駆けた。

「う⋯⋯わあああッ」
 声もなく戦いが続いていた庭園に、引き裂くような悲鳴が上がる。
 サフィードは微塵も容赦しなかった。

「イルマ様⋯⋯」
 手の中に王子を取り戻し、息を確かめた時にはじめて、自分の手が血に塗れているのに気がついた。指の血が王子の頬に付いたのを拭いながら、サフィードは奥歯を噛み締める。
 イルマ王子は深く眠っているように見えた。薬を嗅がされたのだろう、口元から刺激臭が香る。

 ──安全な場所にお連れせねば。近衛を呼び、賊の正体を⋯⋯。

 殺気を感じた。
 イルマ王子を抱え、サフィードが血に濡れた剣を迷いなく向けた時。
 朗らかな声が聞こえた。
「おお、怖い。守護騎士殿は大層お強くていらっしゃる」

 金髪を揺らしながら、陽射しの中を明るく微笑む貴公子が歩いてくる。
「でも、ここまでにしていただこう。⋯⋯小国のお飾り騎士かと高をくくっていたらこのざまだ。我等にご同行願いたい」
 貴公子の後ろには、黒地に金の紋章を身に着けた騎士たちの姿があった。

「何故、スターディアの第一騎士団がここに?」
 サフィードは貴公子の後ろに目を走らせた。
 第一と第二の騎士団の違いは飾緒かざりおでわかる。
 肩から前部にかけて吊るされる飾紐は、第一騎士団が金糸、第二騎士団が銀糸と決まっていた。

「賊を捕え、フィスタの王子を二の王子の元にお届けするために」
「シェンバー王子の?」
「ええ。庭園に忍び込んだ不届き者は、我等が片付けましょう。守護騎士よ、イルマ殿下をこちらに」

 サフィードの殺気が辺りの空気を変えた。
 表情を見せない男たちが、一斉に戦いの構えに入ったのを感じて、貴公子は告げた。

「ここで戦うことに意味はない。⋯⋯わかりました。では、腕に抱いたまま同行を」
「貴殿は?」
「⋯⋯」

 騎士たちを従える身分の者に、目下から声をかける無礼は承知だった。
 貴公子は形のいい唇の端を上げるだけで答えない。口許は微笑んでいても、瞳は冷徹にサフィードを見据えていた。

 ──この男は信用ならない。侍従と違わぬ恰好のイルマ王子と自分のことを知っている。
 イルマ王子は披露目の今日まで、スターディアの貴族とは誰とも会っていないはずだった。

 騎士団に囲まれて身動きが出来なくても、いずれ勝機はある。
 サフィードはイルマ王子をしっかりと腕に抱えて、立ち上がった。
 
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