124 / 202
第三部 父と子
第24話 切望①
しおりを挟む「そろそろ刻限だ」
窓辺に佇む碧の瞳が玉座を見つめていた。希代の人形師が心を込めて作り上げたかのような繊細な美貌に、よく似た姿が近づく。
「あの美しい顔はどんな悲痛に歪むのでしょう? 楽しみだわ」
中央のダンスの輪から離れて、妹は兄の隣に立つ。開いたばかりの二輪の花を思わせる美しさに、誰もが目を奪われた。
レーテ・シュタインがうっとりと玉座の隣を見つめる姿は、まるで恋をしているかのようだ。傍らの碧の瞳が、冷徹な輝きを帯びる。
音楽が、変わった。
半日前。
「イルマ様ッ!!」
サフィードの目の端で、小柄な男がイルマ王子を捕らえたのが目に入った。瞬時に身を屈め、向かってくる壮年の男の頸に迷うことなく剣を突き立てる。目の前に真紅の飛沫が散り、大きな体がどっと倒れた。すぐに踵を返せば、小柄な男の元に走り寄る者たちがいる。
「⋯⋯新手か」
男たちがイルマ王子を抱え上げるのを見た時、守護騎士は地を駆けた。
「う⋯⋯わあああッ」
声もなく戦いが続いていた庭園に、引き裂くような悲鳴が上がる。
サフィードは微塵も容赦しなかった。
「イルマ様⋯⋯」
手の中に王子を取り戻し、息を確かめた時にはじめて、自分の手が血に塗れているのに気がついた。指の血が王子の頬に付いたのを拭いながら、サフィードは奥歯を噛み締める。
イルマ王子は深く眠っているように見えた。薬を嗅がされたのだろう、口元から刺激臭が香る。
──安全な場所にお連れせねば。近衛を呼び、賊の正体を⋯⋯。
殺気を感じた。
イルマ王子を抱え、サフィードが血に濡れた剣を迷いなく向けた時。
朗らかな声が聞こえた。
「おお、怖い。守護騎士殿は大層お強くていらっしゃる」
金髪を揺らしながら、陽射しの中を明るく微笑む貴公子が歩いてくる。
「でも、ここまでにしていただこう。⋯⋯小国のお飾り騎士かと高を括っていたらこの様だ。我等にご同行願いたい」
貴公子の後ろには、黒地に金の紋章を身に着けた騎士たちの姿があった。
「何故、スターディアの第一騎士団がここに?」
サフィードは貴公子の後ろに目を走らせた。
第一と第二の騎士団の違いは飾緒でわかる。
肩から前部にかけて吊るされる飾紐は、第一騎士団が金糸、第二騎士団が銀糸と決まっていた。
「賊を捕え、フィスタの王子を二の王子の元にお届けするために」
「シェンバー王子の?」
「ええ。庭園に忍び込んだ不届き者は、我等が片付けましょう。守護騎士よ、イルマ殿下をこちらに」
サフィードの殺気が辺りの空気を変えた。
表情を見せない男たちが、一斉に戦いの構えに入ったのを感じて、貴公子は告げた。
「ここで戦うことに意味はない。⋯⋯わかりました。では、腕に抱いたまま同行を」
「貴殿は?」
「⋯⋯」
騎士たちを従える身分の者に、目下から声をかける無礼は承知だった。
貴公子は形のいい唇の端を上げるだけで答えない。口許は微笑んでいても、瞳は冷徹にサフィードを見据えていた。
──この男は信用ならない。侍従と違わぬ恰好のイルマ王子と自分のことを知っている。
イルマ王子は披露目の今日まで、スターディアの貴族とは誰とも会っていないはずだった。
騎士団に囲まれて身動きが出来なくても、いずれ勝機はある。
サフィードはイルマ王子をしっかりと腕に抱えて、立ち上がった。
56
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです!
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜
MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。
竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。
※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる