【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第三部 父と子

第35話 再生②

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 奥庭が開かれてから、一週間が経った。

 王命により奥庭は鉄柵も扉も全てが取り壊され、一から作り直されることに決まった。泉だけは残し、四阿を近くに設置せよとの命が下されている。庭師たちだけでなく兵士や騎士たちまでが駆り出されて、連日大変な賑わいとなった。

 シェンバーは悩んでいた。

 思いがけず父の気持ちを知ったのはいいが、今更どう接したらいいのか。改めて考えてみると、全く見当がつかなかった。
 親子としての触れ合いをろくにしてこなかったツケが回ってきたというべきか。 

 父はずっと己を責めて生きてきた。
 自分に叔父の面影を重ねていたことも、イルマとの婚姻に心を砕いてくれていたことも知らずにいた。
 ガゥイの市場で買った拡大鏡が、シェンバーの目の前で所在なげに転がっている。

 そもそも何と言って渡せばいいのか⋯⋯。会話の糸口すら見つけられそうにない。

「シェン!」
 扉が開かれ、小柄な姿が元気よく飛び込んでくる。
「あのね、セツがすっかり起き上がれるようになったんだよ! レイがもう顔を見に来てもいいって」
「そうか。それはよかった」

 瞳をきらきらさせて話すイルマの姿が眩しい。

「あれ、拡大鏡! そうだ、ぼくも陛下にお酒を渡さなくちゃ。シェン、スターディアの父の日はいつ?」
「来週⋯⋯」
「よかった! まだ間に合うね」

 イルマはようやく、シェンバーの様子がおかしいのに気がついた。じっと見つめると、困ったようにため息をつく。

「どうかしたの?」
「父に、何と言って渡したものかと悩んでいた」

 父の日だからでいいんじゃない?と言いそうになった口を、イルマは慌てて止めた。シェンバーは、初めて自分で父に告げる言葉を考えているのだ。

「ね、シェンはどうしてそれを選んだの?」
「便利そうだと思ったから」 

 イルマが更にじっと見つめてくるので、シェンバーは口元に指を当てて考え込んだ。
「⋯⋯昔から、父はよく一人で調べものをしていた。書斎を覗き込んでいる私に気がつくと、笑ってくれた」
 それを知らず思い出したのかもしれない。

 イルマは、にっこり笑った。
「そのまま、陛下に気持ちをお伝えすればいいと思うよ」

 わかった、と頷くシェンバーに黄金の瞳が楽しそうに瞬く。
「ねえ、シェン。昔、ぼくが父上に何を贈ったらいいか悩んでいた時に兄上たちが言ったんだよ」

 父上にお好きなものを伺ってきたらいい。
 お前の好きなものをお贈りすればいい。

「まあ皆、自分の思い思いの助言をしてくれたんだけど。幼かったぼくは、逆によくわからなくなって手紙を書いたんだよね」
「手紙?」
「うん。感謝の日の当日に、自分の一番好きな歌をうたって、父上に手紙を渡した。父上の好きなものを教えてくださいって。目の前にいるんだから本人に聞けばいいのにね。でも、父上はちゃんと後で返事をくれた」
「⋯⋯何て?」
「イルマ」

 シェンバーが目を見開くと、イルマはふふ、と小さく笑った。
「手紙には、好きなものはイルマって書いてあったよ。母上や兄上や姉上の名前もあった。贈り物の答えにはならなかったけど⋯⋯。シェンの父君も同じじゃないかな」

 フィスタの王族のように、家族とひとつひとつ思い出を重ねてきたわけではない自分には、とてもそうは思えない。
 ただ、目の前の拡大鏡がそれまでとは違って見えた。硬質な輝きが、仄かに温かい色を帯びたような気がする。
 シェンバーの心に、少しずつ力が満ちていく。




 国王は、奥庭を視察していた。
 大量の人員を割いたために、庭に生い茂っていた草木は急速に取り除かれ、あちこちで剪定作業が行われていた。
 政務の傍ら、三日に一度は足を向ける。遥か昔に通った庭が、今は一から作り直されている。仕事の邪魔にならないように、王は離れた場所から静かに見守っていた。

 庭師たちが作業の傍らに交わす声が、風に乗って流れてくる。
「⋯⋯子どもらが? 楽しみだな」
「もうひと頑張りするか」

 父の日、と聞こえた。今日だったのか。
 自分には関係ないことのように思えて関心を持たずに来たが、国民の間で大事にされている日だと知っている。

 王は傍らの侍従を呼んだ。
 庭師たちは奥庭を開けてからずっと働きづめのはずだ。今日は早めに終えるよう指示して、自分も本宮殿に戻った。
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