【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第三部 父と子

第37話 愛を②

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「僭越ながら私から一言申し上げます。父上には、我がスターディア並びに若輩なる私を日々お導きいただき、感謝の念に堪えません。父上の強き御心と揺るぎない御愛情の元に、我らは安堵して歩を進めることが出来ます。先代からの功績の上に父上が不断の努力で民の安寧を築いてこられました。まさに、たゆみなきご尽力あってこその今日です。我が国は、太陽たる父上の庇護の元に、今後も大陸一の強国の地位を揺るぎないものとするでしょう。日頃は何もお返しすることができませんが、今日は父の日ですので」

 エルダシオンは力強く一気に語り、間髪入れず傍らの妃を見た。公爵家から嫁いできた妻は、愛らしい外見とは裏腹にしっかり者だ。
「陛下、これはわたくしと殿下からの気持ちにございます」
「なんと⋯⋯、このような心遣いを受けるとは。望外の喜びだ」
 国王は破顔して王太子夫妻からの包みを受け取った。

 妃と微笑を交わして王太子は席に着いた。場は和み、弟たちからは心なしか尊崇の視線を浴びているような気がする。笑顔を張りつけたまま、密かに胸中の汗を拭う。自身の能力を試されたような心持ちで、冷えた茶を一息に飲んだ。

 長兄の言葉にシェンバーは感動していた。過去には何かと自分の素行に苦言を重ね、父母よりも口うるさい兄だと思っていた。どうも自分のことが心配だったらしいと気づいたのは、フィスタに行ってからだ。
 祖国に戻っても戻らなくても非難の声が高まる。そんな自分を庇ってくれたのは父だけではない。兄は視力を失くした時も、自分の回復を待っていると言った。騎士団は預かっておくから養生しろと声をかけてくれたのだ。

 イルマは、さりげなく場の状況を見てとった。何やら感じ入って黙り込む隣のシェンバーをつつこうかと思った時だ。
 逆隣りから、さっとミケリアスが立ち上がる。

「父上、兄上の御心に胸が震えました。心がはやり、末席の私ではありますが一言申し上げたいのです。先の発言をお許しいただきたく存じます」
 太陽たる王は笑顔で頷いた。シェンバーとイルマは、聡いミケリアスが最後の重責を回避したのを知った。

 イルマの脳裏にフィスタの兄たちが浮かぶ。次兄のヨノルは勘がよく機に敏な男だが、姉のサリアや下の兄のラウドはさらに上をいく。
 ⋯⋯兄弟って、下にいくほど要領がいいのかな。
 そんな事を思って半ば感心しながら、清廉な王子を見つめる。

「エルダシオン兄上の御言葉に目が覚めた思いです。常より父上の深いご恩情をいただき、数ならぬ我が身も今日まで成長することが出来ました。真にありがとうございます。神殿への御厚志もありがたく、民は女神を心の支えに日々を憂いなく過ごしております。シェンバー兄上が快癒なされ、女神の愛し子であるイルマ殿下をお迎えになられました。これも我が国が女神の御恩寵を受けた証。父上の気高き御心が天に届いたものと感銘を受けました」

 ミケリアスからは、神殿で薬師たちに調合させたという特製の薬草茶が渡された。滋養強壮、延命効果もあるという茶を皆が興味津々で見つめている。

 三の王子は場を見渡し、父を見つめてにこりと笑った。王の瞳は心なしか潤んでいる。父は温かな眼差しを末息子に向けた。ミケリアスはシェンバーに一礼し、申し訳なさげに告げた。
「兄上、大変失礼致しました。さぞ、待ちかねていらしたことでしょう」

 ⋯⋯退路を断つ、とはこのことだな。
 シェンバーは、晴れやかな弟の表情を見ながら思う。
 待ちかねるも何もない。流れるように動く兄と弟の舌に驚いていただけだ。どちらも一言と言いながら、少しも一言ではなかった。
 ミケリアスは言うだけ言うと、すっきりした表情で傍らの侍従に新しい茶を求めている。

 場の視線が自分に集まってくる。
 眉間に皺が寄りそうになったところで、膝に置いた手に細い手が重なった。自分よりずっと小さくて、いつもほんの少し体温が高い。
 イルマの囁きが聞こえた。

「愛を」
 ⋯⋯愛?
「大丈夫。一言で伝わるから」

 重なった手から優しい気持ちが流れ込んでくる。
 幼い自分が扉の隙間から書斎を覗き込んでいた時、大きな背中は眩しかった。振り向いて、目を丸くして父が笑う。
 あの時、自分の胸の中は喜びで、⋯⋯愛で溢れていた。

 シェンバーが顔を上げると、父と目が合った。
 
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