【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
146 / 202
第三部 父と子

第46話 ガゥイ①

しおりを挟む

「確か、この辺りだったと思うんだけど?」

 正午前のひと時に、イルマは荒く息をついていた。
 溢れるばかりの陽射しの元、見事な青空が続く。 
 イルマは、セツとサフィードを連れてガゥイの市場を訪れていた。

 久々に訪れたガゥイは、変わらぬ賑わいを見せている。唯一つ、老婆の姿が見つからないことを除いて。
 元々が露店だ。しかも一度来ただけなので、ずっとここで商売をしているのかもわからない。

「ちょっと聞いてみましょうか?」
 セツが周りに次々に声をかけた。愛想よく答えた若い男が、老婆は一か月ほど前に店を畳んだと言った。行き先はわからないと。
「年も年だから皆、隠居だろうと思ってね」
「言われた通りに来たのに⋯⋯」
 思わずイルマが呟けば、男がじっとイルマの瞳を見て言った。

「そういえば、黄金の瞳の若者が来たら伝えてほしい、と言われたんだが」
「え?」
「店を畳む時に、店主が周りに言ったんだよ。いつになるかはわからないが、必ず来るからと。ばあさんの言ったことは、本当によく当たる」

 ──時の鐘を知らせる場所に行け。

 イルマたちは、外れにあった市場から、大きな鐘のある町の中心まで戻ることにした。
 以前来た時と同じように、あちこちから声がかかる。
 セツとサフィードは、うっかり店先で目が合うと食べ物を差し出されるので、避けるのに必死だ。それでもあっという間に、二人の周りに人だかりができていく。

 イルマはその隙に、目に付いた屋台で焼き菓子をちゃっかり買い込んでいた。木の実がたっぷり使われて鼻先に甘い香りが漂う。
「それ、みっつお願い!」
「あいよ!」
 恰幅のいい店主が渡してくれた葉の皿には買ったのと同じ数が余分に入っていた。
「あれ、これ⋯⋯」
「⋯⋯二の殿下にも、お渡しください」
 笑顔の店主が小声で言った。

「えっ?」
「この町の者は皆、感謝してるんですよ」
「感謝って⋯⋯」
 次々に客が来るので、それ以上は聞けなかった。

 イルマが店の前から歩き出すと、必死で人込みを抜けた二人が走ってきた。セツもサフィードも、両手に十分な食料を持っている。
「⋯⋯昼だから、ちょうどいいね」
 思わず漏らした言葉に恨めし気な視線を向けられて、イルマはごめんと呟いた。

 ガゥイの町の中心には、時を告げる鐘がある。1日6回鳴り響く鐘は、人々の日々の指針だ。
 鐘を備えた塔の前の広場からは歓声が響いていた。たくさんの子どもたちが行儀よく並び、手に手に何かを受け取っている。
 辺りは芳ばしい香りが漂い、一組の若い男女が大きな籠の中から取り出したものを笑顔で配っていた。

 イルマは邪魔にならないように近づいた。子どもたちに渡されているのは焼きたてのパンだ。子どもの手には余るような大きな丸いパンを抱えて、どの子も頬が紅潮している。
 子どもたちがイルマの脇を通り過ぎていく。
「母さんの分も、もらえた。これで、もう少し元気になる」
「おれのも、わけてやるから」

 子どもが皆去っていくと、男女は大きく息をついた。女性が振り返り、イルマと目が合った。はっとしたように目を瞠る。
「⋯⋯イルマ殿下?」
 美しいはしばみ色の瞳と茶色の髪の若い娘に、全く見覚えが無い。
 イルマが目を瞬いていると、近寄ってきた娘は美しく礼をした。平民が身に付けているものではなかった。
「御無礼をお許しください。御目の色を拝見して、もしやと思いまして」

 娘は、自分は王妃の侍女だったと語った。ガゥイの商人の息子に嫁ぐ為に、二か月前に王宮を下がったのだと言う。
「王妃様の⋯⋯」
「はい、先日、お手紙をいただきました。殿下方のおかげで良き事が続いていると、大変嬉しそうなご様子が伝わって参りました」
「良き事⋯⋯」
「ええ。奥庭が作り直され、陛下が大事にしてらした御品も見つかったとありました」

 イルマはごくりと唾を飲み込んだ。
 娘は二か月前に王宮を下がったと言った。幻影水晶が王宮から姿を消したのも、たしか二か月前だ。
『買わせたり、盗ませたり。⋯⋯堪ったものではありませんね』
 サウルの言葉が耳に蘇る。あの幻影水晶なら、⋯⋯もしかして。王妃の侍女に自分を盗ませることぐらい出来るのかもしれない。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...