【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第四部 婚礼

第1話 招待①

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 人は言う。
 北の小国フィスタこそ、聖なる女神のいます神秘の国。
 女神は愛し子がいる限り、たくさんの祝福を大地と人々に与え続けてくださるのだと。

 愛し子が女神の懐から旅立った後も、祝福はより深く広く地に満ちた。人々は、愛し子が幸せだからだと囁き合う。そして、青空を見上げて願う。
 ──女神と愛し子に幸いあれと。



 フィスタの宰相、アディーロは悩んでいた。
 執務室の奥に仮寝用の部屋がある。いっそそこに閉じこもって、一人きりで安眠を貪りたいと何度思ったかしれなかった。諸国に並びなき頭脳と謳われた身が、事態を少しも取りまとめることが出来ない。
 国王のお側近くに仕えて、早30年。幾度も困難に立ち向かってきたはずなのに、今度ばかりは誰も自分の言葉に耳を傾けてくれそうにない。

 真っ白な地に黄金の獅子が剣を咥える姿が描かれた紋。
 スターディアから届いた美しい招待状が、フィスタの王城を揺るがしていた。

「恐れながら申し上げます! 此度の招待は同盟をより深くする大切な機会⋯⋯。父上の名代として、このアレイド、身命を賭して見届けて来る所存です」
 アレイド王太子が口から唾を飛ばさんばかりに熱弁を振るっている、普段おっとりしているだけに、鬼気迫るものがある。

 それをちらりと見たヨノル王子が、腰の剣に手を掛けながら言う。
「王太子でいらっしゃる兄上に何かあれば、国の宝を失うも同じこと。私ならば、寝首をかれるようなこともありません。兄上には御身大事に土産話をお待ちいただきたい」

「なっ⋯⋯! 寝首をかかれるとは、どういうことだ。ヨノル!」
「ただの例えですよ、例え。王太子と下の王子では重みが違うと申し上げただけです。スターディアの王宮には魔物が棲むと申します。世継ぎの君はフィスタの宝。兄上、ここは身軽な私が参りましょう」

「ヨノル兄さま、お待ちください。わたくしは可愛い弟の晴れ姿を見ずに、フィスタで安心して眠ることなどできません!」
「サリア、其方は身重だろう。初めての子を宿していると言うのに、馬車の旅など危なすぎる」
 兄王子たちは呆れて妹を見た。ところが、サリア王女はひるまない。

「イルマはわたくし宛てに、特に体をいたわるようにと手紙をくれました。誰より姉の身を案じてくれる優しい子の姿を見れば、お腹の子にもいいはずです!」  

 居並ぶ大臣たちの間に、どよめきが広がる。王女の夫の法務大臣の顔がどんどん青ざめていくのに、人々は気がついた。

「⋯⋯特に体をいたわるように、と言うのは暗に国にいろと言う意味だろう?」
「その通りだと思うが⋯⋯。サリア様はお聞き入れにはなるまい」
 法務大臣が今にも倒れそうなのを見て、宰相の眉間には深い皺が刻まれた。

 それまで一言も発さなかった国王が、ゆっくりと口を開く。
「本日、臣に集ってもらったのは、この件について伝えたかったからだ。スターディアからは、王室宛てに招待状が届いている。ただ、流石に全員が婚儀に参列するわけにはいかぬ」

 重臣たちとアディーロは一斉に頷いた。
 王族が打ち揃って国外に出るなど有り得ない。事あらば、国は支柱を失い混乱に陥るだろう。それを避けるために、どれほどの人と金を割けばいいのか。考えるだに恐ろしい。

 招待状が届いた日から、早、一週間。さっさと出席者を決めなければならない。宰相の心は、そればかりが向けられていた。

「我が子イルマと盟友であるスターディア国王の子の婚姻の儀だ。真摯な愛情と誠意をもって、赴く者を厳選せねば」
 国王は、大きく息を一つ吐いた。居並ぶ大臣たちの目が王の元に集まる。

「婚儀に参列する者だが」
 王は静かに、はっきりと告げた。誰もが、王の言葉に目を丸くした。





「たくさん集まってる⋯⋯」

 イルマが、通りがかった部屋をひょいと覗き込む。部屋の中に山と積まれた招待状の返信を、文官たちが次々に分けては、帳簿と照らし合わせている。彼等は、婚姻の為に特別に設けられた部署の者たちだ。

 イルマたちが南の離宮から、王宮の西の宮殿に移って4カ月。
 
 婚儀は春と決まり、一か月前に招待状が国々に配られた。各国からの返信を元に、着々と準備が進んでいる。
 ふと、こちらを見た文官がイルマに気がついて微笑んだ。立ち上がって、廊下までやってくる。

「どうなさいました、殿下」
「手を止めさせてすまない。ちょっと、気になることがあって」
「どのような御用件でしょう? 私共でお力になれることでしたら、遠慮なさらずお申しつけください」

 優しい言葉に、イルマの表情が綻んだ。

「ありがとう。⋯⋯ええっと、招待した人の参列状況が知りたいんだ」
「ああ、そうでしたか。もうじき一覧が出来上がりますので、出来次第、お届けします」
「うん。でも、すぐに知りたいのは⋯⋯、二人だけなんだ」
 
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