【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第四部 婚礼

第8話 君知るや②

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「其方にはイルマが世話になるな。はるばるスターディアまでついてきてくれたことに感謝している」
「ありがたきお言葉です。若輩の身ではありますが、今日まで誠心誠意お仕えできる幸せを感じております」
「あれが幼い時から、其方の忠心は皆が知るところだ。其方のおかげで、国王として、父として、イルマの身を案じはしても信じることが出来た。其方が側に居れば、あの子は大丈夫だと」
「もったいないお言葉です」

 国王は、窓際からサフィードの目の前に歩を進める。

「ところで、サフィード・ヴァルツ」
「はい」
「⋯⋯其方、我がフィスタへ戻ってはどうか」

 サフィードは、国王の発した言葉をすぐには理解できなかった。思わず顔を上げると、穏やかな瞳が自分を見つめている。
 自分は今、何を言われたのだろう?
 王の言葉は耳に残ってはいても、心に繋がりはしなかった。サフィードは、激しい混乱の中にいた。

「陛下、それは⋯⋯。私がイルマ殿下の元にいるのが相応しくないとのお考えでしょうか」
「相応しくないとは?」
「守護騎士として、日々己を鍛え、殿下を御護りすることに務めてきたつもりです。しかし、私では」

 言葉を口に乗せることが出来たのは、そこまでだった。
 ⋯⋯私では。
 その先に、自分は何を言うつもりなのか。頭の中は煮えるように熱いのに、指先だけが冷えていく。

「サフィードよ。其方がいなければ、イルマは今日まで無事でいられたかもわからぬ。其方以上に我が子に尽くしてくれる騎士がいようか」
「⋯⋯お許しを。動揺のままに言を発しました。愚者の戯言とお忘れください」
「イルマの守護騎士として、其方以上の者はいない。それが分かった上で言っている。イルマは⋯⋯祝福の子は、現世で慶びの時を迎えようとしている。これがどれほどの幸いか、口にすることは難しい。⋯⋯其方にも、人としての幸せをと願う」

 国王の言葉は、静かに続く。

「命令ではない。女神に誓った守護騎士の任を、王が解くことなど出来ぬのだから」


 王子たちが応接室に戻った時、部屋にいたのは国王のみだった。イルマがきょろきょろと辺りを見回すと、父王は微笑んだ。

「イルマは少しも変わらぬな。サフィードが城に来た時から、ずっと姿を追っている」
「私の騎士になるのかと思っていたら、イルマのところに行ってしまって残念だったのを覚えていますよ。あれは、父上がお決めになったのでしょう?」
「そうだ。今でもよい判断だったと思っている」

 ラウド王子は、やれやれと眉を下げた。

「まあ、いいんですけどね。私の守護騎士は散々な目に遭っていますから。サフィードのように一途な者には辛いでしょう」
「全く、其方の守護騎士は気の毒なことだ」

 軽口を言い合う二人の言葉を、イルマはどこか遠くで聞いていた。守護騎士の姿をいつもどこかで探している。それは当たり前すぎて、言われるまで気づくこともなかった。

 ほどなくして、サフィードは部屋に戻った。イルマの目が騎士を捉えると、変わらず穏やかな瞳が微笑む。イルマは小さく息を吐き、体からわずかな緊張が解けた。

「まるで、鳥の雛のようだな」
「どちらがですか?」
「ラウド。なかなかに其方は、ものを見る目がある」

 第三王子は、父の言葉に肩をすくめた。

「主と守護騎士は深く繋がっているもの。互いに意識にも上らぬほどに。そうでしょう?」
「だからこそ、いつも問い続けねばならぬ」
「父上?」

 父王は王子に、それ以上何も言わなかった。スターディア国王との夕食に招かれていると席を立つ。
 フィスタの国王とラウド王子を見送った後、イルマはサフィードに話しかけた。

「父上から聞いたよ。ヴァルツ伯爵が体調を崩されているって?」
「ええ。こちらには何も知らせては来ませんでしたが、このところ伏せっているようです。もう年も年ですので」
「サフィーも心配だろう。伯爵はいつも闊達として武人の誉れのような人だった」
「近年は気概で生きているようです。忠節が人の形をとった、とよく言われておりました」

 イルマはくすくすと笑った。伯爵家の血は脈々と目の前の騎士に受け継がれている。本人は気がつかないものなのかもしれないが。

「顔を見せてあげたらいいんじゃないかな。父上も言っていた。一度、フィスタに戻って、ゆっくり見舞ってはどうかと」

 サフィードの体が微かに震えた。目を伏せた騎士に、イルマは小さな違和感を覚えた。漠然とした、とらえどころのない何かを。

「ありがとうございます。婚姻の儀が終わりましたら」

 騎士が顔を上げた時、いつもと変わらぬ微笑みがあった。幼い頃から見ていたあたたかな笑みだ。どんな時も、騎士の瞳を見れば心が落ち着いた。

「うん、そうだね」

 何もおかしなことはないはずだった。それでも、イルマの心に残る違和感は消えはしなかった。
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