【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第四部 婚礼

第23話 初夜① 

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 宴席に戻ったイルマを見て、シェンバーは安堵の息をついた。少し座を外すと言ったきり、イルマはなかなか帰ってこなかった。不安が募り、いよいよたちを呼びつけようかと思っていたのだ。

「ごめん。外の風に当たってたんだ」
「イルマ、よかった。どうしたのかと思った。⋯⋯目が赤いな。そろそろ失礼しよう。諸外国の王侯たちはもう十分、スターディアとフィスタの絆を目にしたはずだ」

 シェンバーは、座を見渡した。
 二国の国王は、肩を並べて賓客たちと楽し気に話し込んでいる。華やかな祝宴は夜を徹して続く。酒や肴や料理がさらに運ばれ、余興も繰り広げられるはずだ。主役の二人は、日暮れには退出を許される決まりだった。
 イルマとシェンバーは父王たちに挨拶し、貴人たちに礼を述べて座を辞した。


 西の宮殿に戻る渡り廊下で、風に乗ってふわりと薔薇の香りが運ばれてきた。

「⋯⋯シェン、あのね、庭の白薔薇がすごく綺麗だったんだ」
「ああ、王妃の庭にいたのか。今がちょうど盛りだろう」
「うん、本当に綺麗だった。そこでね、思いがけないことがあって⋯⋯。何から話せばいいかな」

 イルマは、俯きながら言葉を探している。
 シェンバーは、懸命に言葉を選ぶイルマが愛おしかった。嬉しそうに輝く瞳に、自分の顔がほころぶのがわかる。
 庭で何があったのだろう。白薔薇が気に入ったのなら一緒に、と言いそうになって無理だと思った。自分には薔薇よりも愛でたいものがある。
 シェンバーは足を止めて、傍らの伴侶を見た。不思議そうに見上げる顔に、両手を添える。身を屈めて柔らかな唇にそっと口づけた。

「満開の花より愛でたいものがあるんだ。寝台から離れられる自信もないし」

 きょとんとしていたイルマの顔が、見る間に真っ赤になった。シェンバーは笑いを堪えながら、すかさずもう一度口づけた。

 うっすらと開いたイルマの口に舌をしのばせて、逃げる舌を捕まえる。優しく絡めて吸い上げれば、瞳がとろりと熱を帯びた。煮詰めたような甘い色に、シェンバーはぞくりと興奮を覚える。

 ⋯⋯イルマは、一体いつからこんな顔をするようになったんだろう。

 堪らず口中を舌でかき回せば、イルマはわずかに眉を寄せた。両手でシェンバーの胸を押してくるけれど、少しも力が入っていない。顔だけではなく、耳まで赤く染めている。

 シェンバーが唇を離すと、はあ、と小さな吐息が漏れた。イルマの口の端から唾液が糸となって伝い落ちる。イルマはそれを親指で拭ってぺろりと舐めた。蕩けた表情のまま、幼子のように、ちゅ、と自分の指の先を吸う。

 シェンバーは、無言でイルマの体をひょいと抱き上げた。腕の中にしっかりと抱えて、ずんずんと廊下を進んだ。

「⋯⋯シェン? な、何してるの?」
「イルマが何もわかっていないから。もう、このまま部屋に連れて行く」
「え? え?」

 自分で歩く!とイルマがいくら騒いでも、シェンバーは聞かなかった。


 西の宮殿に戻れば、二人を見た衛兵たちが次々に扉を開ける。
 王子たちの門出を祝って、宮殿の中はどこも磨きあげられ、花々が飾られていた。

 自室の前まで来ても、シェンバーは立ち止まらない。

「ど、どこに行くの?」

 シェンバーは、黙って最奥の部屋に向かう。二の王子の持つ多くの部屋の中で、イルマが足を運んだことがない部屋だった。控えていた側仕えたちが扉を開けると、豪奢な部屋の中に、天蓋付きの大きな寝台がある。

 シェンバーがイルマの体を寝台にそっとおろす。体が沈んでしまいそうなふかふかとした感触だ。純白の敷布の上には、たくさんの花びらが撒かれていて、甘い香りが満ちていた。

「まるで花畑の中にいるみたいだ⋯⋯」
「気に入った?」
「うん。シェン、ここは?」
「新しい二人の部屋だ。イルマと過ごす為に用意した」

 それに、今夜は⋯⋯。初夜だからね、とシェンバーは満面の笑みを浮かべた。

「シェン、あのね、しょ、初夜と言われても⋯⋯」

 もう何度も肌を重ねてるじゃないか、と喉まで出かけた言葉をイルマは飲み込んだ。あまりにも赤裸々すぎる。起き上がったイルマを見るシェンバーは、楽しげに微笑んだままだ。

「イルマ、いい? 結婚した二人が初めて寝床を共にする夜を初夜と言う。だから今夜は⋯⋯間違いなく、私たちの初夜だ。そうだろう?」
「それはそうだけど」
「イルマの口は時々、余計なことを言いだすと思うんだ。だから今夜は」

 さっさと塞いでしまおう。そう言って、シェンバーが寝台に乗り上げてくる。イルマはシェンバーの口を両手を重ねて防いだ。シェンバーは気にせずに、イルマの手の平に口づける。

「ちょっと待った! そ、その前に⋯⋯湯ッ! 湯浴みしてから!」
「ん? ああ、わかった。もう用意は出来ている」

 シェンバーがさっと視線を投げた。部屋の隅に控えていた側仕えが心得たとばかりに頷く。

「ちょうどいい、イルマに見せたかったんだ。おいで。⋯⋯それとも、また抱いていこうか?」

 ぶんぶん首を横に振るイルマに、シェンバーはくすくす笑う。手を取られて、イルマは別の部屋に向かった。
 
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