【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第四部 婚礼

第26話 続 初夜② 

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 眠っている間ずっと、抱きしめられていたのだろう。体のあちこちが痺れている。でも、体を動かしたらシェンバーは起きてしまうだろうか。折角よく眠っているのに、起こすのは可哀想だ。婚姻の儀まで、シェンバーが連日、寝る間も削って働いていたのを知っている。

 イルマはシェンバーの胸に頬をつけて、おとなしくしていた。目を閉じていると、とくん、とくん、と規則正しい鼓動が伝わってくる。もう一度眠りに誘われそうになっていた時だ。額にちゅ、と口づけが降ってきた。

「おはよう、イルマ」

 輝くような微笑みを目にして、イルマの胸はほわりと温かくなる。
 挨拶を返そうとした途端、喉の痛みを強く感じた。シェンバーが絡めていた指を離して、イルマの頬を引き寄せた。啄むように何度も口づけられる。

 ⋯⋯おかしい。体を離されたのに痺れが消えない。それどころか。

 眉を顰めて黙り込むイルマに、シェンバーは困惑した瞳を向ける。
 イルマは改めて理解した。体が痺れているのは抱きしめられていたからだけではなかった。昨夜のあれこれが浮かんで、どんどん頬が熱くなる。
 じっ、とイルマを見ていたシェンバーは、イルマの耳元に口を寄せた。

「⋯⋯湯殿でもう一度体を温める? 楽になるかもしれない」
 
 イルマは思わずシェンバーを見た。心配そうな顔にどう答えたらいいだろう。
 シェンバーはいつも自分を気遣ってくれる。しかし、恥ずかしいのだ。肌を重ねた後に体を気遣われることが!

 深く交わった日ほど、ろくに動けない。そんな自分への思いやりに嬉しさはあるが、羞恥心はそれに勝る。
 昨夜の湯殿での痴態もじわじわと頭に浮かんで、体中が熱くなった。再び湯殿に行ったら、はたして体を温めるだけで済むのだろうか。

「昨夜はそのまま眠ってしまったから⋯⋯。湯を浴びた方がいいだろう? イルマは動けないと思うから、私がまた湯殿まで運んでいくし、のぼせないように注意する。⋯⋯それから」

 ⋯⋯今朝はもう、おとなしくするから。

 真顔でそんなことを言われたら返す言葉がない。黙っているイルマをどう思ったのか、シェンバーは重ねて言う。本当だから、イルマ、と。

「そ、そんな⋯⋯こと、気に⋯⋯しなくて、いいから」

 イルマは何とか言葉を返すと、シェンバーの胸に頬を擦りつけた。思わず、甘えるような仕草になる。

 シェンバーは無言だった。小さく息をついて、イルマを見つめる。
 ちゅ、とイルマの額に口づけが一つ。ちゅちゅ、と頬に二つ。次々に顔中口づけられて、イルマは笑いだした。

「ふ、ふふっ。くすぐったい」
「⋯⋯もう一度、湯に入ろう。イルマ」

 イルマが頷くと、シェンバーは寝衣を纏った。イルマを腕に抱き上げた顔はひどく嬉しそうだった。


 シェンバーは湯殿番たちを断って、イルマの体を自分の手で隈なく洗った。イルマはぎゃあぎゃあと喚きたてたが、少しも気にとめなかった。

 湯の中で胡座あぐらを組んで、イルマを膝に乗せる。後ろから抱きしめると、イルマが腕の中でゆっくりと力を抜いているのがわかる。髪に口づけながら、シェンバーはこっそり考えた。

 次に入る時は⋯⋯。イルマがのぼせないように湯加減を調整させよう。そうすれば、もっと色々楽しめる。
 振り返ったイルマに、シェンバーは、この上なく優しく微笑んだ。



 婚姻の儀を挟んでの三日間は、王都中が祝賀で盛り上がっている。主役の二人は、翌日は二人だけで一日を送る。来客たちも夜を徹しての宴の後は、それぞれの部屋に引き取って体を休めていた。後は三々五々、帰国の途に着くのだ。

 イルマとシェンバーは、体をさっぱりと清めた後にゆっくりと朝食をとった。料理長が心を込めて用意してくれた食事は、滋養に富んで疲れた体を癒してくれた。

「美味しい」
「昨日はろくに食べられなかったようだけど、よかった」

 イルマがぱくぱくと平らげている様子に、シェンバーは安堵の息をつく。

「うん。緊張していたのもあったと思うけど、胸がいっぱいで少しも入らなかった。そうだ、結局、話が途中のままだった!」
「話?」
「そう! あのね、シェン。待っていた人に⋯⋯、会えたんだ」

 シェンバーは瞳を瞬いた。イルマの瞳はきらきらと輝き、時折つかえながらも一生懸命、庭園での乳母との再会を語る。今までも度々、彼女の話は聞いていた。しかし、フィスタの宮廷を辞してからは一度も二人は会っていなかったはずだ。よほど嬉しかったに違いない。

「それで、乳母殿は何日か滞在されるのか?」
「ゆっくりしていってほしいとは言ったんだけど⋯⋯。ルチアは最初、ぼくに会うつもりもなかったんだ。だから」

 ⋯⋯もう、帰ってしまったかもしれない。
 しゅん、としょげるイルマの様子が哀れだった。そんなことなら、無理やりにでも留まってくれるよう手配すればよかった。いや、まだ遅くはない。を使おうとシェンバーが決めた時だった。

「⋯⋯お食事中、失礼致します。母でしたら、もう少し滞在するよう言い聞かせましたので⋯⋯。ご心配をおかけして申し訳ありません」

 セツが深々と頭を下げた。イルマの口から喜びの声が上がり、シェンバーはほっと息をつく。セツの言い方に何か引っかかるものがあるが⋯⋯。シェンバーの視線に、セツは微笑で返した。侍従は余計なことを語らない。主の幸せこそが己の幸せだ。


「御祝いの茶が届いております。お淹れしますね」

 セツが心を込めて淹れた茶は、会心の出来だった。
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