【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第四部 婚礼

第44話 シェンバー、子どもになる⑦

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「ねえ、シェン。ずっと考えてるんだけど、わからないんだ」
「何が?」
「シェンの体はどうして急に小さくなったんだろう? 9歳のシェンの魂はどうしてここに来たんだろう?」

 シェンは長椅子に座ったまま、静かに僕の髪を撫でた。

「私も考えていた。イルマ、一昨日は何の日だったか覚えている?」
「もちろん覚えてる。精霊たちの日だ。年に一度、精霊たちが集まって夜通し踊り明かす祝祭日」
「言い伝えを聞いたことがあるだろう。祝祭日の夜には枕元に将来の相手が現れると。だから年頃になると皆、祝祭日の間際は落ち着かない」
「うん、フィスタでも皆、そう言っていた」

「⋯⋯9歳の私が熱を出したのは、祝祭日だったんだ」


 ──イルマ様、精霊たちは、大切な縁を繋ぐもの。でも、彼らは悪戯好きです。連れていかれないように、子どもは早く寝なくてはいけません。
 そして精霊たちの夜には様々な不思議が起こります。精霊がたとえ近くに来ても、決して関わってはいけませんよ。

 ルチアの言葉が、静かに耳の奥によみがえる。


「熱を出して眠っている時に、たくさんの小さな光を見た。まるで互いに話をしているかのように、光と光が瞬くんだ。眩しいなと思ったらすぐ目の前で、小さな人が見えた」
「それ、精霊だよね? やっぱり人の形をしてるんだ?」
「ああ。眩しくて、おぼろげな形しかわからなかったが」

 シェンは話を続けた。
 精霊の小さな手が額に触れたかと思うと一面が真っ白な光で埋まる。目覚めたら、離宮のベッドにいた。

「⋯⋯伴侶の元に、連れてきてくれたのかな。一応、フィスタには5歳のぼくもいたはずだけど」
「人の繋がりは不変ではないから、未来はいくらでも変わる可能性を持っている。その時の私たちはまだ、出会ってもいない」
「じゃあ、しっかり繋がったところに連れてきたってこと?」
「そう⋯⋯かも、しれない」

 思わず頬が熱くなる。シェンの頬もほんのりと赤い。
 婚姻の儀も済んで、ようやく落ち着いた日々を迎えていた。そこに今回の騒ぎだ。

「⋯⋯不思議だけど、嬉しいな。精霊は気ままだって言うけど、本当は優しいんだね。あの子が驚かないように、シェンの体を子どもにしたのかな」

「あッ!」

 シェンは何か気がついたように、目を見開いた。形のいい眉が顰められ、どんどん顔が赤くなる。

「イルマ。体が小さくなったのは、違う⋯⋯」
「へ?」
「祝祭日の夜、二人で酒を飲んだだろう?」
「うん、久々の離宮だから、たまにはって」

 ガゥイの街や孤児院に行くのが楽しみで、夜遅くまでたくさん話をした。ぼくはお酒に弱いからすぐに酔っぱらって、シェンの胸にもたれかかっていた。

「あの時、私は余計なことを言ったんだ。酔ったイルマが、子どもたちに会うのが楽しみだと、シアたちのことまで持ち出して可愛い可愛いというから」

 確かにそんなことを言った気がする。
 あれ? それで⋯⋯。

「待って。確かその時に、シェン、何か言ったよね」
「ああ、そうだ。確かに言った」



 あの晩、酔ったシェンは少し拗ねた口調で言ったのだ。

『イルマがそんなに言うなら⋯⋯。たまには、私も子どもになりたい』

「もう二度と、祝祭日に酒は飲まない」
「⋯⋯ふ、ふふっ。ごめ⋯⋯、ふふ⋯⋯」

 笑いを止めようとしても、全然止まらない。悪いとは思ったけれども、ぼくは体を折って笑い続けた。
 そうだ、思い出した。シェンがまさかそんなことを言い出すとは思わなくて、ぼくもつい話に乗ったのだ。


『えー! 子どものシェン? きっと、すごく綺麗で可愛い子なんだろうなあ!』
『そんなことはない。ただの生意気な小僧だった』
『ふふふ。生意気なシェンかー! 会ってみたいな。精霊に頼んだら聞いてくれるかな』


 ⋯⋯その後の記憶がない。

「シェン、結局、ぼくたちは精霊に願い事をしたのかな?」
「⋯⋯全く覚えていない」

 ついうっかり祈ってしまったのだろうか。祝祭日の精霊に関わってはいけないと、幼い頃からあんなに言われてきたのに。
 ぼくたちは、少しの間黙り込んだ。シェンの指に自分の指を絡めながら、ぼくは小さく息を吐いた。

「シェンばかりこんなことになって、何だか申し訳ない気もする。ぼくも子どもになりたいって言ってたら、一緒に子どもになってたんだろうか?」
「いや、それはやめてくれ!」

 シェンが大声を上げた。鬼気迫る表情に、ぼくは息を呑む。

「イルマだけは、だめだ!」
「ど、どうして?」

 シェンは、眉間に皺を寄せて真剣な表情で言った。

「⋯⋯イルマは、その、話に聞く限り、素直というか無防備な子どもだったと思うんだが」
「え、それはまあ。子どもだし?」
「一日中、虫を転がしたり、城を抜け出したり、こっそり迷い猫を飼ったりしていたんだろう?」
「うん」
「そんなの、か、可愛いに決まってる⋯⋯」

 ⋯⋯。

「万が一イルマが子どもになったら、私は部屋から出さない。危ないし」

 予想もしなかった不穏な言葉を聞いてしまった。
 一体、どこまで本気で言ってるんだろう。でも、本当に子どもになったら困る。

「⋯⋯やっぱり、祝祭日には気をつける。絶対、願い事はしない」
「そうしよう、お互いに」
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