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2.異世界の3か月後
しおりを挟むあれから、3か月が経った。
元いた世界と時間の流れが同じなのかはわからない。制服の胸ポケットに、たまたま入れていた生徒手帳にはカレンダーが付いている。こちらに来る前は見もしなかったそれに、俺は一日の終わりに〇をつけていく。
朝起きて、この世界のことを知って、夜眠る。それが今の俺の一日だ。この世界は元居た世界によく似ていたけれど、俺の世界に魔獣なんてものはいない。
俺は今、王宮に保護されている。
この世界には、時折、揺れと呼ばれる振動と共に異世界から人や物が現れる。どうしてそんなことが起きるかは担当部署で日々、原因究明に励んでいるそうだ。今、わかっているのは二つ。それぞれの世界は隣り合って存在する。揺れが起きると、互いの世界に存在するものが行き来することがある。
俺が知りたいのは一つだけ。元の世界に帰れるのか、だ。
「帰れるとも帰れないとも言えません。揺れで現れた者は揺れで戻る、との言い伝えはありますが、そもそも客人が少ないのです。ただ、以前現れた客人は、多くの技術を授けてくださったと文献に残っています。他国では魔術師が客人の帰還術を行う国もあります」
「じゃあ、そこに行けばいいのか?」
「うーん、客人は、現れた場所が一番元の世界に戻りやすいと言われています。帰還術を使うなら、魔術師に来てもらう方が確実です。ただ……」
「ただ?」
「途方もなく高額です」
俺は机に顔を伏せた。……無理だ、金なんか財布にあった1500円しかない。
この世界では何の役にも立たないし、ここに来たばかりで金の稼ぎ方も知らないのだ。そもそも会話だって、貸し出された高性能な小型翻訳機がなければ成り立たない。
せめてもの救いは、俺が揺れと共にやってきた国は、異世界人に優しい国だったことだ。王宮で保護してくれるし、専属の教師をつけてくれる。この教師とは、勉強を教えるのではなく、世界の成り立ちや生活の仕方について教えるのだ。実践的で助かる。俺の教師は、レトという物腰の柔らかな男性だった。
午前の授業を終えて、昼食の時間になった。
レトと共に部屋を出て、食堂に向かう。最初の頃は部屋で食べていたが、ここの暮らしに慣れるためにも王宮職員たちの食堂を最近は使っている。
「ユウ!」
「ジード」
「今から昼食だろう。一緒に食べよう」
「……毎日毎日、騎士棟から来られるとは、かいがいしいことですね」
レトが目を細めてぼそりと呟く。ジードは耳を傾ける様子もない。
レトによると、騎士たちは騎士団専属の食堂で食べるものらしい。騎士が王宮職員の食堂で食べていけないことはないが、盛られる食事の量が断然違うのだそうだ。確かに、ジードはいつもあっという間に食べ終えてしまう。
初日に俺を助けてくれた碧の瞳のイケメン、ジードは本当に騎士だった。王国の騎士団の中でも辺境専門の第三騎士団の所属で、久々に王都に戻ってきたと言う。
一年のうちの大半は辺境で魔獣を相手にしていると言っていたから、俺の頭の中では遠洋漁業の漁師と同じ認識になっていた。
「ジードは、まだ当分王都にいる?」
「もう一か月は王都暮らしだ。その後はまた辺境だが」
そう言って、ちょっと眉を顰めている。視線を感じたので相変わらず綺麗な瞳だな、と見返すと、ふっと目を逸らされた。
レトが俺たちを交互に見ながら言った。
「第三騎士団はなかなか王都に戻れませんから、こうしてご一緒に食事ができるのも貴重な機会でしょう。ユウ様もだいぶこちらの生活に慣れてこられましたし」
「うん……。ねえ、レト、俺ずっとここにはいられないよね」
「そうですね。客人の様子や希望次第ではありますが、王宮で一通りの知識を身に着けた後は、王室から委託を受けた後見人の元に移ることになります。ユウ様のご後見には、何人もの貴族が名乗りを上げておられますよ」
ガタッと音がして、ジードが立ち上がった。
「……片づけてくる」
ジードはようやく食べ終わった俺の食器と自分の食器を手に取った。食堂を大股に歩いていく騎士の背に、ちらちらと熱い視線が送られる。イケメンはやはり、どの世界でもモテる。
「ジード、どうしたんだろう?」
「ユウ様のご後見を心配しておられるのだと思います。ジード様はまだ19。御身分はまだしも、ご自分が後見人になる年には足りませんしねえ」
「えっ! ジードって19なの? 俺と一つしか変わらないの?」
まさか、そんなに年が近いとは思わなかった。顔立ちも体格も全然違うし、ずっと落ち着いているように見えたから。
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