【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

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20.魔石オーブンと再挑戦

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 ゼノが立ち上がって石の上に手をかざすと、上部が蓋のように、すっと外れた。中は箱のようになっている。一枚の板が空中に浮き上がって、ふわりとテーブルに着地する。
 庭から持ってきた笊の中のピールを板に広げると、ゼノが再び手をかざす。板は石の中に戻り、蓋が閉まれば唯の四角い石にしか見えない。

「では、始めます」

 俺とレトが同時に頷く。
 ゼノが小さく言葉を唱えると、目の前の石が、うっすらと光を帯びる。


 ゴゴゴ! ゴゴゴゴゴゴ!!


「……」
「……ねえ、これ」

 大丈夫なんだろうか、この音。
 調子の悪そうな洗濯機の断末魔のような音が、部屋に響き渡る。

 俺とレトが揃ってゼノを見ると、彼は申し訳なさそうに目を伏せた。

「取り急ぎ作りましたもので。今回はお試しと言うことで我慢していただければと思います」
「ゼノ、もう時間がないんだ! 音はまだしも、乾かないと困るんだよ!」
「うんうん、わかったから。乾くとは思うよ、レト」
「もう! 頼むからね!」

 ゼノがレトを見る目はとても優しい。レトが大事にされていることは一目見ただけで伝わってきた。それよりも、俺の前ではいつでも落ち着いたレトの甘えた口ぶりにびっくりする。

 少しして、音が止まった。
 ゼノが手をかざして蓋を開けると、中からもう一度、板が浮き上がる。

「あっ!」

 テーブルに置かれた板の上のピールは、確かに乾いていた。でも、全体に均一ではないのだ。端の部分だけが乾き、中央部はしんなりしている。

「……まだ、内部の循環機能が上手くいってないようです。熱をかけた時に出る湿気を十分に逃がすことが出来ていません」
「でも、断然乾いてる!」
「はい、熱と共に陽射し同様の殺菌効果も及ぶように調整しておきました。出力をもう少し大きくしたいと思いますので、少々お待ちください」

 ゼノは、空中に、指で細かな文字を書き始めた。それは見る間に銀色の光の粒となって箱の中に吸い込まれていく。目を瞠る俺に、レトがこっそり耳打ちしてくれる。

「ゼノは、若手の技術者の中では王都一と言われています」
「レト、ありがとう。……ゼノに頼んでくれて、ありがとう」

 俺たちが見つめていると、ゼノは微調整を重ねていく。ゴゴゴ、という怪しい音も、少しずつ静かになった。ほっと息をついたゼノの瞳が、真っ直ぐに俺を見た。

「よし! もう一度始めましょう!」
「うん!」

 二回目は、一回目よりも乾燥状態が均一になった。気をよくして出力を上げた三回目は、乾燥しすぎてカチカチに硬くなり、全てを捨てるはめになった。

 次々に庭からピールを運び込む。これがなくなったらもう一度作ろう。それから俺たち三人は、必死に魔石オーブンを使ってピール作りに取り組んだ。



 三日後。

「……できた!」

 今、俺の目の前には完璧なピールがあった。味、見た目、触感。どれも自分の求めていた姿だ。
 スロゥはきらきらと輝き、リュムは透き通るように美しい碧の光を宿している。

「レト! ゼノ! 完成だ!」
「ユウ様、やりましたね!」
「これが、ユウ様の求めていらしたピール……」

 あれから何度も作り直し、材料が足りなくなって、レトが店まで買いに走ってくれた。その間ゼノは少しでも出力が大きい高機能なものが出来ないかと魔石オーブンの調整を繰り返した。レトとゼノの二人には感謝しかない。

「あのさ、よかったら味見してみてくれる?」

 実は、俺は何度も自分で味見を繰り返している。緑のリュムは、さらにゆでこぼす回数を増やし、蜜の量を増やした。スロゥはじっくりと煮て、少し硬めに乾かしてみたらサクサクとした触感になり、コクのある味わいになったと思う。

 二人は喜んで、それぞれのピールを食べてくれた。

「あ、美味しいです! リュムの実はかなり酸っぱいですが、ピールは爽やかな酸味ですね」
「スロゥのピールは噛み締めると甘みがどんどん広がっていきます。それに、とても食べやすい」

 この世界の二人が喜んでくれて、俺はほっと胸を撫でおろした。どちらのピールも栄養価が高いことはわかっている。味に問題がなければ、後はジードに渡すだけだ。

 二人には、よかったら家で食べてくれと、それぞれのピールを包んで手渡した。レトもゼノも喜んで受け取ってくれた。
 そう、俺はこの時、全く知らなかったのだ。ピールに思いもよらぬ効果があることを。ただ栄養価が高く、長持ちする食品とだけ思っていた。


 ──……明日になったら、ジードに謝ろう。このピールを持って。

 何とか間に合った嬉しさに、俺は夢も見ずにぐっすりと眠った。

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