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39.殿下からの贈り物
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「ユウ様、贈り物ですよー!」
「……レト、これ送り返したらまずいんだよね?」
「ぜったい! だめです――ッ!!」
レトが涙目になっている。
目の前のテーブルには、粒のそろったロワグロが積まれている。届いたばかりの美しい箱にはひらひらした金糸のリボン。中には艶々した高級フルーツだ。
王宮からの使いが夜会の翌日から毎日のようにやってきて、今日でちょうど2週間が経つ。
「だって、さすがに食べきれないし」
「……でも! 送り返すのはだめです!!! 絶対だめ!」
これだけは譲れないとレトが叫ぶ。
「いいですか、ユウ様! 贈り物を返すのは、貴方のことを好きじゃない、って意味です!」
「あああ……」
確かに好意的じゃない。俺たちの世界でだってまずいと思う。しかも、このフルーツの差出人は、王太子殿下だ。
最初の日はロワグロのみで、翌日からは他のフルーツも一緒に入っていた。嬉しいけれど、さすがに食べきれないので、三日目に来た殿下からの使いに俺は言った。
「ありがとうございます。でも、もうお気持ちだけで十分です」と。
しかし、贈り物は止まず、一日置きになった。
「王太子殿下、いったいどうしたんだろう? 夜会で俺が山ほど食べたから、よほど好物だと思ってるのかな。別に好物ってわけじゃないって言ったはずなんだけど。レト、よかったらこれ、持って帰らない?」
「ひっ!」
何、その反応。
レトは蒼白になって、ぷるぷる震えている。俺を見て小さく首を振った。
「……だ! だめですうぅ。殿下からの品を私たちが頂戴するなんて!!」
「何で? このままじゃ、折角の品が無駄になるよ。俺の食事なんて今や、三食フルーツ! もう、これ以上は魔石オーブンに入れて乾かすしかない……」
「た、高いのに! で、でも、これはユウ様の為に殿下がお送りくださったものですからご自由に……」
「ご自由にできるはずなのに、人にあげるのはだめっておかしくない?」
レトいわく、上位の相手からもらったものを簡単に他人に渡すのは失礼らしい。宮廷生活も色々お作法があって大変だな。
「あ、じゃあさ! あげるんじゃなくて一緒に食べるのはどうかな? それならいい?」
「えっと……。はい、それは大丈夫かと思います」
「やった! 研究所に持っていくのは? そうすれば、ゼノやラダも食べられるよね」
レトが頷いてくれたので、早速実行することにした。
じいちゃんが言ってた。美味いものは、皆で分け合ったらもっとうまくなるって。
俺もレトも、研究所でのアルバイトは無事に終了した。
エリクたち第一部隊の騎士たちの協力を得て、ピールの効果もラダが全てデータ化してくれている。後は研究所が頑張ってくれれば、いくらでもピールの大量生産が可能なはずだ。
所長もラダも、俺に研究所勤めを勧めてくれたけれど、丁重にお断りした。
早速二人でフルーツがぎっしり詰まった箱を抱えて、研究所に向かう。
研究所は部署ごとに分かれていて、食事もそれぞれの部署で取ることになっている。でも、殿下からもらった果物を持ってきたと言うと、所長に仰天された。
昼には、高級果物の試食パーティが行われることになり、あちこちの部署から人が集まって来た。
「先日の夜会で陛下からお褒めのお言葉を賜り、今日は王太子殿下からの贈り物をユウ殿がお持ちくださった。皆で食べようとのお心遣いだ」
所長の挨拶にわっと歓声が上がったものの、皆、どこか緊張した表情をしている。どうやら、本当に食べていいものか、戸惑っているらしい。それでも、俺とレトが剥いた果物を乗せた皿を渡し始めると、おずおずと口に運ぶ。一口食べた途端に、あちこちで笑顔が見られた。
「……美味しい! ロワグロなんて初めて食べました」
「この果実は南方にしかなかったのでは?」
「そう言えば、この間の夜会で聞いた話ですが……」
普段は黙々と研究に励んでいる人々が、楽しそうに話している。
じいちゃんは、美味いものは人を笑顔にするとも言ってた。あれは本当だなあと思う。
ラダが俺の隣にやってきた。元気そうだが、何故か呆れたような顔をしている。
「……ユウ様は、全く気前がよくていらっしゃる。どれも簡単には手に入らないものばかりなのに」
「気前がいいかな? でも、俺が部屋で一人で食べるよりずっといいよ」
「欲のないことだ。結局ピールの製法も全部、この研究所にお渡しくださったし」
「最初からその約束だったよ。ちゃんと最初に俺が言った通り給料は支払われてるし、王様からは報奨金までもらったし、もう十分。俺、ラダに感謝してるんだ。第三騎士団にピールを運べるようにすごく頑張ってくれたよね」
レトやゼノから、ラダがあちこち走り回って魔石を確保してくれたと聞いた。
魔石オーブンが大量にゼノの部署で製造されたのでピールの生産効率が上がり、ジードたちのところに、いよいよ大量のピールが送られる。
天日干しの方が食べた後に魔力は上がるが、オーブンの方は天候に左右されずに増産が出来るのだ。
「本当にありがとう、ラダ」
「……いや、別に。仕事ですし」
いつもよく話すラダの声が段々小さくなり、黙々と果物を口に運びはじめた。
よかった、ラダも果物好きだったんだな。
俺は嬉しくなって、自然に口元が緩んだ。
「……レト、これ送り返したらまずいんだよね?」
「ぜったい! だめです――ッ!!」
レトが涙目になっている。
目の前のテーブルには、粒のそろったロワグロが積まれている。届いたばかりの美しい箱にはひらひらした金糸のリボン。中には艶々した高級フルーツだ。
王宮からの使いが夜会の翌日から毎日のようにやってきて、今日でちょうど2週間が経つ。
「だって、さすがに食べきれないし」
「……でも! 送り返すのはだめです!!! 絶対だめ!」
これだけは譲れないとレトが叫ぶ。
「いいですか、ユウ様! 贈り物を返すのは、貴方のことを好きじゃない、って意味です!」
「あああ……」
確かに好意的じゃない。俺たちの世界でだってまずいと思う。しかも、このフルーツの差出人は、王太子殿下だ。
最初の日はロワグロのみで、翌日からは他のフルーツも一緒に入っていた。嬉しいけれど、さすがに食べきれないので、三日目に来た殿下からの使いに俺は言った。
「ありがとうございます。でも、もうお気持ちだけで十分です」と。
しかし、贈り物は止まず、一日置きになった。
「王太子殿下、いったいどうしたんだろう? 夜会で俺が山ほど食べたから、よほど好物だと思ってるのかな。別に好物ってわけじゃないって言ったはずなんだけど。レト、よかったらこれ、持って帰らない?」
「ひっ!」
何、その反応。
レトは蒼白になって、ぷるぷる震えている。俺を見て小さく首を振った。
「……だ! だめですうぅ。殿下からの品を私たちが頂戴するなんて!!」
「何で? このままじゃ、折角の品が無駄になるよ。俺の食事なんて今や、三食フルーツ! もう、これ以上は魔石オーブンに入れて乾かすしかない……」
「た、高いのに! で、でも、これはユウ様の為に殿下がお送りくださったものですからご自由に……」
「ご自由にできるはずなのに、人にあげるのはだめっておかしくない?」
レトいわく、上位の相手からもらったものを簡単に他人に渡すのは失礼らしい。宮廷生活も色々お作法があって大変だな。
「あ、じゃあさ! あげるんじゃなくて一緒に食べるのはどうかな? それならいい?」
「えっと……。はい、それは大丈夫かと思います」
「やった! 研究所に持っていくのは? そうすれば、ゼノやラダも食べられるよね」
レトが頷いてくれたので、早速実行することにした。
じいちゃんが言ってた。美味いものは、皆で分け合ったらもっとうまくなるって。
俺もレトも、研究所でのアルバイトは無事に終了した。
エリクたち第一部隊の騎士たちの協力を得て、ピールの効果もラダが全てデータ化してくれている。後は研究所が頑張ってくれれば、いくらでもピールの大量生産が可能なはずだ。
所長もラダも、俺に研究所勤めを勧めてくれたけれど、丁重にお断りした。
早速二人でフルーツがぎっしり詰まった箱を抱えて、研究所に向かう。
研究所は部署ごとに分かれていて、食事もそれぞれの部署で取ることになっている。でも、殿下からもらった果物を持ってきたと言うと、所長に仰天された。
昼には、高級果物の試食パーティが行われることになり、あちこちの部署から人が集まって来た。
「先日の夜会で陛下からお褒めのお言葉を賜り、今日は王太子殿下からの贈り物をユウ殿がお持ちくださった。皆で食べようとのお心遣いだ」
所長の挨拶にわっと歓声が上がったものの、皆、どこか緊張した表情をしている。どうやら、本当に食べていいものか、戸惑っているらしい。それでも、俺とレトが剥いた果物を乗せた皿を渡し始めると、おずおずと口に運ぶ。一口食べた途端に、あちこちで笑顔が見られた。
「……美味しい! ロワグロなんて初めて食べました」
「この果実は南方にしかなかったのでは?」
「そう言えば、この間の夜会で聞いた話ですが……」
普段は黙々と研究に励んでいる人々が、楽しそうに話している。
じいちゃんは、美味いものは人を笑顔にするとも言ってた。あれは本当だなあと思う。
ラダが俺の隣にやってきた。元気そうだが、何故か呆れたような顔をしている。
「……ユウ様は、全く気前がよくていらっしゃる。どれも簡単には手に入らないものばかりなのに」
「気前がいいかな? でも、俺が部屋で一人で食べるよりずっといいよ」
「欲のないことだ。結局ピールの製法も全部、この研究所にお渡しくださったし」
「最初からその約束だったよ。ちゃんと最初に俺が言った通り給料は支払われてるし、王様からは報奨金までもらったし、もう十分。俺、ラダに感謝してるんだ。第三騎士団にピールを運べるようにすごく頑張ってくれたよね」
レトやゼノから、ラダがあちこち走り回って魔石を確保してくれたと聞いた。
魔石オーブンが大量にゼノの部署で製造されたのでピールの生産効率が上がり、ジードたちのところに、いよいよ大量のピールが送られる。
天日干しの方が食べた後に魔力は上がるが、オーブンの方は天候に左右されずに増産が出来るのだ。
「本当にありがとう、ラダ」
「……いや、別に。仕事ですし」
いつもよく話すラダの声が段々小さくなり、黙々と果物を口に運びはじめた。
よかった、ラダも果物好きだったんだな。
俺は嬉しくなって、自然に口元が緩んだ。
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