【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
41 / 90

40.植物魔獣の大発生

しおりを挟む
 
 いつの間にかレトと一緒に隣に来ていたゼノが、にこにこしながら囁いた。

「ラダ殿も、たまには照れるんですねえ」
「照れる……?」
「ええ、普段は結構はっきりものを仰るでしょう? 照れてる時だけ静かになるんですよ」

 こっそりラダを見ると、頬がうっすら赤いような気がした。

 ……そんなの、わかりづらすぎるだろ。


「失礼します」

 扉が開いて、一人の騎士が入って来た。あれは、エリクの率いる第一部隊の騎士だ。大柄な騎士は少し硬い表情で、まっすぐに所長のところに向かう。騎士が話し出すと、所長の表情が曇った。

「……それで、南の状況は?」
「第三騎士団は善戦していますが、厳しい状況です。バズアの繁殖が強すぎて、他の魔獣も活性化しています」

 騎士から聞こえたバズア、の言葉にざわりと緊張した空気が流れる。楽しげに話していた人々の表情が不安げに揺れた。

 何だろう、それ。
 魔獣を活性化させるようなもの?
 
「ユウ様!」
 
 騎士が俺に気づいて、笑顔で手を挙げた。所長と話し終わったのか、こちらに向かって歩いて来る。

「……話してるのが聞こえちゃったんだ。第三騎士団のいる南部は大変なの?」
「ええ、そうなんです。もしかしたら第一や第二からも応援を出さなきゃならないかもしれません。その際には、ユウ様のピールを食料として持参できないかと話してるところなんです。今日はザウアー部隊長から言われて、相談に来ました」

 優しいエリクの顔が受かぶ。エリクも行ってしまうんだろうか。
 
「あのさ、バズアって何?」
「魔獣の一種ですが、巨大植物の形をしています。自らはあまり動かずに甘い香りで他の魔獣を誘い、体液を出して近づいた獲物を捕らえるんです」

 ……あれ? 前にどこかで聞いたことがあったような気がする。
 どこでだったかな?

 騎士はバズアについて詳しく教えてくれた。

 南部地方には高温多雨で魔獣たちが多く住む魔林がある。そこでは数年に一度、バズアが大量発生していた。攻撃性があるがあまり動かない魔獣なので、他の魔獣の格好の餌になる。保持している魔力が高い為に、バズアが増えると栄養源とした魔獣の魔力も高まるのだという。

「おかげで、バズアが大量発生した年は、他の魔獣も増えるんです。活性化した魔獣の群れが魔林から出て村や町を襲うことも多くて、なかなか討伐も終わりません」
「……そうだったのか」
 
 教えてくれた騎士にフルーツを勧めると嬉しそうに食べてくれた。
 俺の頭の中には、初めて聞いた魔獣の名前が渦を巻く。バズアか。そいつがいなくならないと討伐は終わらず、俺はジードに会えない。

 胸がぎゅっと痛くなる。
 ずっと、ジードが早く戻ってくればいいと思っていた。魔獣を倒すためにピールが必要なら、いくらでも作る。でも、それだけじゃジードは帰ってこられないのかもしれない。
 女神に祈り続けていることしか、今の俺に出来ることはないんだろうか。

 ……何か、もっといい方法は。

 その晩、俺は派手派手な巨大植物の口の中に、たくさんの果物を投げつける夢を見た。



 翌日、俺はスフェンを訪ねた。

 スフェンは王宮の財務省で働いている。以前、貴族で身分も高いのに働くのかと聞いたら、王宮内での人脈を作ることは重要だと言っていた。それに自分は三男坊だから、仕事があった方がいいんだとも。
 急に訪ねて仕事の邪魔をしては悪いので、昼に合わせて向かう。王宮では、正午から一時間を昼食および休憩時間と定めている。

 立派な扉が開いて、次々に人が出てくる。金髪に姿勢の良いスフェンは、すぐにわかった。

「スフェン!」
「ユウ! どうしたんだ。こんなところに来て」
「スフェンに相談があって来たんだ。少しでいいんだけど、時間を取ってもらえる?」

 俺は思い出したのだ。たしか、スフェンの生家の公爵家は、南に広大な領地を持っている。南部のことについて教えてもらえるんじゃないだろうか。

「いきなり来てごめん。でも、スフェンにしか頼めないと思って」
「……そんな言い方をされたら弱いな。わかった、ちょっと待ってくれ」

 スフェンはすぐに同僚たちに話をつけ、俺を連れて外に出た。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

魔王に転生したら幼馴染が勇者になって僕を倒しに来ました。

なつか
BL
ある日、目を開けると魔王になっていた。 この世界の魔王は必ずいつか勇者に倒されるらしい。でも、争いごとは嫌いだし、平和に暮らしたい! そう思って魔界作りをがんばっていたのに、突然やってきた勇者にあっさりと敗北。 死ぬ直前に過去を思い出して、勇者が大好きだった幼馴染だったことに気が付いたけど、もうどうしようもない。 次、生まれ変わるとしたらもう魔王は嫌だな、と思いながら再び目を覚ますと、なぜかベッドにつながれていた――。 6話完結の短編です。前半は受けの魔王視点。後半は攻めの勇者視点。 性描写は最終話のみに入ります。 ※注意 ・攻めは過去に女性と関係を持っていますが、詳細な描写はありません。 ・多少の流血表現があるため、「残酷な描写あり」タグを保険としてつけています。

処理中です...