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40.植物魔獣の大発生
しおりを挟むいつの間にかレトと一緒に隣に来ていたゼノが、にこにこしながら囁いた。
「ラダ殿も、たまには照れるんですねえ」
「照れる……?」
「ええ、普段は結構はっきりものを仰るでしょう? 照れてる時だけ静かになるんですよ」
こっそりラダを見ると、頬がうっすら赤いような気がした。
……そんなの、わかりづらすぎるだろ。
「失礼します」
扉が開いて、一人の騎士が入って来た。あれは、エリクの率いる第一部隊の騎士だ。大柄な騎士は少し硬い表情で、まっすぐに所長のところに向かう。騎士が話し出すと、所長の表情が曇った。
「……それで、南の状況は?」
「第三騎士団は善戦していますが、厳しい状況です。バズアの繁殖が強すぎて、他の魔獣も活性化しています」
騎士から聞こえたバズア、の言葉にざわりと緊張した空気が流れる。楽しげに話していた人々の表情が不安げに揺れた。
何だろう、それ。
魔獣を活性化させるようなもの?
「ユウ様!」
騎士が俺に気づいて、笑顔で手を挙げた。所長と話し終わったのか、こちらに向かって歩いて来る。
「……話してるのが聞こえちゃったんだ。第三騎士団のいる南部は大変なの?」
「ええ、そうなんです。もしかしたら第一や第二からも応援を出さなきゃならないかもしれません。その際には、ユウ様のピールを食料として持参できないかと話してるところなんです。今日はザウアー部隊長から言われて、相談に来ました」
優しいエリクの顔が受かぶ。エリクも行ってしまうんだろうか。
「あのさ、バズアって何?」
「魔獣の一種ですが、巨大植物の形をしています。自らはあまり動かずに甘い香りで他の魔獣を誘い、体液を出して近づいた獲物を捕らえるんです」
……あれ? 前にどこかで聞いたことがあったような気がする。
どこでだったかな?
騎士はバズアについて詳しく教えてくれた。
南部地方には高温多雨で魔獣たちが多く住む魔林がある。そこでは数年に一度、バズアが大量発生していた。攻撃性があるがあまり動かない魔獣なので、他の魔獣の格好の餌になる。保持している魔力が高い為に、バズアが増えると栄養源とした魔獣の魔力も高まるのだという。
「おかげで、バズアが大量発生した年は、他の魔獣も増えるんです。活性化した魔獣の群れが魔林から出て村や町を襲うことも多くて、なかなか討伐も終わりません」
「……そうだったのか」
教えてくれた騎士にフルーツを勧めると嬉しそうに食べてくれた。
俺の頭の中には、初めて聞いた魔獣の名前が渦を巻く。バズアか。そいつがいなくならないと討伐は終わらず、俺はジードに会えない。
胸がぎゅっと痛くなる。
ずっと、ジードが早く戻ってくればいいと思っていた。魔獣を倒すためにピールが必要なら、いくらでも作る。でも、それだけじゃジードは帰ってこられないのかもしれない。
女神に祈り続けていることしか、今の俺に出来ることはないんだろうか。
……何か、もっといい方法は。
その晩、俺は派手派手な巨大植物の口の中に、たくさんの果物を投げつける夢を見た。
翌日、俺はスフェンを訪ねた。
スフェンは王宮の財務省で働いている。以前、貴族で身分も高いのに働くのかと聞いたら、王宮内での人脈を作ることは重要だと言っていた。それに自分は三男坊だから、仕事があった方がいいんだとも。
急に訪ねて仕事の邪魔をしては悪いので、昼に合わせて向かう。王宮では、正午から一時間を昼食および休憩時間と定めている。
立派な扉が開いて、次々に人が出てくる。金髪に姿勢の良いスフェンは、すぐにわかった。
「スフェン!」
「ユウ! どうしたんだ。こんなところに来て」
「スフェンに相談があって来たんだ。少しでいいんだけど、時間を取ってもらえる?」
俺は思い出したのだ。たしか、スフェンの生家の公爵家は、南に広大な領地を持っている。南部のことについて教えてもらえるんじゃないだろうか。
「いきなり来てごめん。でも、スフェンにしか頼めないと思って」
「……そんな言い方をされたら弱いな。わかった、ちょっと待ってくれ」
スフェンはすぐに同僚たちに話をつけ、俺を連れて外に出た。
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