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49.奇妙な夢
しおりを挟む仄かに明るい闇の中。
何かから逃げるように、ずっと走り続けている。場面は目まぐるしく変わる。城の中の真っ直ぐな廊下だったり、何段も続く階段だったり。
後ろから大きな影が追って来る。ぴたりと張り付くように、ずっと追いかけてくる。どこまで行ったらいいんだ。見知らぬ城の中は、まるで迷路のようだ。
走って走って走って。
あっと思った時にはつまずいて、長い階段を転げ落ちた。差し出される手はどこにもなくて、あちこちに体がぶつかる。痛みに声も出せず床にうずくまった。うっすらと目を開けると、闇の中に金色の光が見えた。
ああ、あれはジードだ。懐かしいジードの金の髪。必死で右手を差し出したら、その手は革の靴でいきなり踏みつぶされた。
「いった……!」
痛みに呻いて目を上げると、憎憎し気に俺を見る、紫の瞳。
「目障りな、わずかな魔力すら持たぬ者が」
ぎりぎりと、踏みつけられた手の甲が痛い。目の前のジードの姿がぼやけて消えていく。
嫌だ、待って。まっ……! ジード……。ジード!!
「ユウ様! 朝ですよ、起きてください」
パチッと目を開けた時には、レトが目の前にいた。レトはもう着替えて、俺を起こしに来てくれたらしい。
がばっと起き上がった俺に、心配げな目を向ける。体にはびっしょりと汗をかいていた。
「ずっとうなされてましたよ。大丈夫ですか?」
「……ものすごく変な夢を見たんだ」
「緊張されているのかもしれませんね。お茶をお持ちします」
レトが持ってきてくれたのは、昨日も飲んだミント味のお茶だ。ハルルと言う草の葉を入れると、疲労が回復するらしい。受け取ろうとした右手がずきりと痛む。
「いてッ」
「ユウ様? どうなさったんです、その手」
右手を見て、はっとした。夢の中で踏みつけられた場所が赤黒く腫れている。おかしい、あれは夢のはずなのに。
「……手を踏みつけられた夢を見たけど」
「夢、ですか?」
レトが眉を寄せて俺の手に触れる。じっと見た後に、自分の手の平を俺の手の甲に重ねた。柔らかな淡いオレンジの光が輝いたかと思うと、手の中心にゆっくりと入っていく。内出血の色が消えて、ほんのりと赤みが残るまでになった。
「すごい……! レト、もう全然痛くない」
グー、パーと握ったり開いたりしても、もう痛くない。ほっと息をついたレトが、自分は治癒の魔力を持っていると言った。医療魔術のように大きなことは出来ないが、日常の痛みを軽減することは出来るのだと。
「助かったよ、レト。ありがとう」
レトが心配そうに俺を見ているので、さっさと着替えた。昨夜のソノワのことが衝撃で、変な夢を見たんだろう。手が腫れた理由は謎だが、ひとつだけはっきりしていることがある。
――ゼフィール・ソノワには、近寄らない。
彼は多分、俺に良い感情は持っていない。いざという時にテオの命は守っても俺を守りはしないだろう。
南にたどり着いて、ジードに会う。その日まで、気を引き締めて行かなくては。
馬車の旅は順調に進んだ。幾つかの城を経て、見たこともない花々や生き物が目に入るようになった。気温が高くなり湿度が上がると、少しずつ周囲の様子が変わる。窓から見える植物の葉の緑が濃くなって、花々の色彩がよりはっきりとしたものになる。
魔林に大分近づいたんだろうか。そう思った時に、不思議な音が聞こえた。
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