【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

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48.危険な近衛

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 あああああ! 俺のバカバカバカ。何でもっと早くテオに言わなかったんだよ。絶対、気まずいと思うのに。
 人と人の相性なんて、お互いに何となく気がつくものだ。動物的な勘で言うなら、ソノワには近寄らない方がいい。

「では、ユウ。良い夢を」
「う、うん。お休み、テオ」

 俺の気持ちなんか伝わるわけもなく、テオはドゥエと共に廊下を歩いていく。

 急にしんと静まり返った廊下に、残されたのは俺と彼の二人だけだ。傍らに立つ男を見上げると、いきなり冷ややかな瞳と目が合った。ごくりと唾を飲みこむ。

「では、お部屋に参りましょうか」
「う……うん」

 先に立って歩く背中は、まっすぐで姿勢がいい。しかし、何か話しかけるような雰囲気じゃない。廊下を進み、下の階に繋がる広い階段を降りる。階段の段差が思ったよりも急で、アッと思った時には足がつまずき、ぐらりと体が傾いた。目の前にはソノワがいる。まずい、ぶつかる、と思った時だった。

 

 いきなり開けた目の前にあるのは、階下までの真っ直ぐな階段だ。

 ……嘘だろ? 

 まるでスローモーションのように自分の体が落ちていく。段差がすぐ目の前にと思った瞬間、咄嗟に目を瞑った。ところが、体はふわりと宙に浮いて、ゆっくりと階下の床に着地する。
 思わず床に座り込むと、背中から一気に汗が拭き出した。

「大丈夫ですか? 思ったよりも急な階段でしたので、つまずかれたのですね」

 抑揚のない声が響き、ソノワが俺のすぐ隣にやってくる。

「あ、今の、魔法?」
「はい。ああ、ユウ様は魔力をお持ちではありませんでしたね。失念しておりました」
「……俺の世界には、魔法がないんだ」

 くすりと微かな笑い声が聞こえた。聞き間違いなんかじゃない。手を差し出されたけれど、俺は首を振った。

「いい、自分で立てるから。部屋に……案内してくれ」
「こちらです」

 それ以上俺たちは何も語らずに歩き、一つの部屋の前に着いた。ソノワが扉を叩くと、中からレトが出て来た。レトの顔を見た途端に安心して力が抜ける。

「ユウ様! ここは私と続き部屋です。騎士殿も、ご案内ありがとうございました」
「はい。ユウ様はお疲れのご様子、どうぞごゆっくりお休みください」

 ソノワが美しく一礼して、扉を閉める。

「やっぱり、近衛騎士は所作が美しいですねえ。……あれ? ユウ様。どうなさったんです?」
「……レト、俺、思ったより疲れてるみたいだ」

 手近にあったソファーに座り込むと、レトが急いで寝間着を用意してくれた。よろよろと着替えた俺はベッドの中に入った。

 今日はもう寝よう。後はまた明日だ……。

 何かがぷつんと切れたように、俺は眠りについた。
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