【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

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54.ウーロの跳躍

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 ウーロの動きは速い。飛ぶ前に体がさらに平たくなり、空中で体をぐぐっとくねらせる。その方が滑空には有利なのだとゾーエンが言う。当然、背に乗っている方はぶんぶんっと振り回される形になる。
 俺の後ろに座ったゾーエンは、俺を半ば抱え込むようにして体を低い状態に保った。

 びゅんびゅんと耳元で風がうなり、振り回された挙句に下降しながら飛んでいく。
 
「むむむ無理! 無理だって! しんじゃああああああッ――――――!!」
「ユウ殿! しゃべらないで! 舌を噛みますよ。ああ、ちょっと失礼しますね!」

 思わず手を離しそうになった俺を見て、ゾーエンはすぐに魔力を使った。目の端を金色の光が掠めたかと思うと、俺の両手はウーロの鱗に張り付き、上下の唇がぴたりとくっつく。

「拘束魔法を使います! しばらく我慢してください!」
「ンン――ッ!!」

 心の中に、俺の悲鳴だけが響く。

 目の前に青空が広がり、次の瞬間に体がねじ曲がり、目指す木の枝へと突っ込んでいく。枝に移った時はドン! と体に衝撃が走った。これを何度も繰り返す。
 体と共に胃がねじれ、耳がおかしくなり、途中からは意識が朦朧とする。
 
 ――誰だよ、魔林に行きたいなんて言ったの……。バズアをちょっと見るだけなんて無理だわ。あの日の俺を殴りたい……。

 ウーロは俺の心なんて全く気にもせず、アクロバティックな跳躍を魔林の空に繰り広げた。



「……どの。ユウ殿!」

 目を開けると、ゾーエンが心配そうに俺を覗き込んでいた。
 周りが揺れていない。手を伸ばすと乾いた草の感触があり、俺は地上に寝ていた。

「大丈夫ですか? 若いウーロだったので、思ったよりも速く飛び続けてしまいました。かなり辛かったでしょう?」
「う……ん。ウーロは……」
「あそこに」
 
 少し上の木の枝に、蛍光グリーンの鮮やかな体が巻きついている。ウーロも疲れているのか、動きがゆっくりになっている。

「今日はここまでです。おかげでかなりの距離を移動できました」

 ゾーエンが動けない俺の側で状況を話してくれる。ウーロの滑空距離はかなり長く、順調に第三騎士団の駐留地に向かっている。ウーロの背でとうとう気を失った俺が樹上で寝るのはきついだろうから、下まで降りてきたのだと言う。

「ここ……、だいじょ……ぶ?」
「とりあえず、近くに魔獣の気配はないですね。いざとなったら、また樹上まで登りましょう」

 俺たちは大きな木の根元にいた。周りが揺れないってすごいことだ。
 ゾーエンが手のひらほどの大きさの果実を幾つも手にしている。皮を剥いて食べると、水分がとれるという。魔林の中で人が食べられるものは貴重らしくて、ナイフで切ってもらったものをありがたく受け取った。少しずつ口にすると、水気が多くてほんのりと甘い。

「おいしい。すごく楽になる……」
「ずっと何も召し上がってなかったでしょう? これは地上に降りる時にウーロが見つけてくれたんですよ」

 ウーロは普段、植物型の魔獣や果実を食べる。滑空を止めた後に、俺たちを乗せたまま果実を探しに行ったらしい。

「おかげで助かりました。食料もですが、水の代わりになるものは大事です」

 魔林の中で水や食べ物はどうするのかと思ったが、手持ちの食料が尽きれば自力で探すしかない。大事なのは水だが、水のある場所には危険も多い。魔獣たちに水が常に必要なわけではないけれど、水のある場所で育つ魔獣もいるからだ。

「少し離れた場所に湧き水を見つけました」

 にっこり笑うゾーエンに、ほっとする。彼に会えなければ、俺はあのまま茸に喰われていた。
 そうだ、喰われていた、といえば。

「……ゾーエン。テオたちは、大丈夫かな」
「殿下たちが連れ去られた相手は、ミウドールですね」
「うん。確か、怖いこと言ってた」

 蜂型のミウドールは、獲物に卵を産みつけて餌にすると言う。巣に運ばれて餌にされてしまったらどうしよう。テオも心配だけど、レトはもっと心配だ。それに、ジードだって。たった一人で、この魔林の中をさ迷っているんだろうか。考えているうちに、どんどん不安でいっぱいになってくる。

「はい! そこまで!」

 俺をじっと見つめながら、ゾーエンがぱん! と両手を鳴らす。

「ユウ殿、殿下たちのことは応援部隊も探しているでしょう。何とか逃れてくださっていることを祈るばかりです。それに」

 ――魔林に来た以上、まず自分が生き延びること。それぞれが、今できることをするしかないのです。
 
 ゾーエンの言葉は、ひどく心に響いた。
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