67 / 90
66.ソノワの怒り
しおりを挟む竜たちの群れと騎士たちの姿が見えなくなるのを見送った。皆、行動が早くてびっくりする。
駐留地に残った者は、氷竜たちが戻った時に備えて、薪になるものを採取したり食事の準備をしたりと仕事が山積みだ。俺も騎士たちを手伝って、せっせと体を動かした。一通り終わった後、レトが他の騎士と話し込んでいたので、テントで休むことにした。
人気のない駐留地を一人で歩き、少し寂しいなと思った時だった。
……え?
右手の甲がズキンと痛む。
何だろうと見れば、どんどん痛みが増していき、見る間に赤黒く腫れあがっていく。
「……ッ!」
思わず右手を左手で庇うようにして、その場にしゃがみこんだ。痛みで額に脂汗が浮く。右手の腫れはどこかで見たことがあると思った。
そうだ、これは……。
ホーレンエフ城に泊まった日だ。革靴で右手を踏みつけられる夢を見て、起きた時には甲が腫れあがっていた。でも、レトが治癒魔法で治してくれたんだ。どうしていきなり、こんな痛みが出るんだろう。
ふっと頭の上に影が差す。目の前の地面にあるのは、夢で見たものと同じ革靴だった。
「……送った悪夢の残存魔法で、じわじわと痛めつけたかったのに。治癒魔法などを使われては痕も残らない」
「っ」
見上げれば、ぞっとするほど酷薄な紫の瞳があった。最近は俺を見ても顔を背けるだけだったのに。
「……ソノワ」
あれは、ただの夢じゃなかったのか?
「どうして……」
「わざわざ言わなければわからないのか? ジードを奪った泥棒猫が。いつもジードと一緒で忌々しい限りだ。ようやく一人になってくれた」
ソノワが何を言いたいのかは、すぐにわかった。ジードが、ゼフィールは妹のことになると見境がないと言っていた。妹の婚約者をお前が奪ったのだ、決して許さないとその瞳は語っている。俺が一人になるのをずっと狙っていたのか。
「異世界人など来なければ、妹はジードと結ばれていた。何故この世界に来た? お前さえいなければ、あの子は幸せになれたのに」
……たしかに、揺れで俺がこちらに来なかったら、ジードに会うこともない。ジードは彼女と結婚していたのかもしれない。でも、ここに来たのは俺が望んだわけじゃない。
「俺は、来たくてきたわけじゃ……ない。揺れに巻き込まれただけだ。それに、未来は……だれ……にも、わから……ない」
「何だと?」
ソノワの顔色が変わり、手の痛みが激しくなる。ギリギリと手首を捻り上げられるような痛みも加わっていく。
「ッ! 本人なら……まだしも、兄貴に……文句を言われる覚えは、ない……」
手の甲を容赦なく何度も踏みつけるような痛みに俺は動けなくなった。地面に転がったまま呻き続ける。
「少しものを作れるぐらいでいい気になって! ならば、身の程を知るがいい。その手を潰してくれる!」
……手を!?
ソノワの手の中に、まるで炎のような金色の光が湧き上がった。
54
あなたにおすすめの小説
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
魔王に転生したら幼馴染が勇者になって僕を倒しに来ました。
なつか
BL
ある日、目を開けると魔王になっていた。
この世界の魔王は必ずいつか勇者に倒されるらしい。でも、争いごとは嫌いだし、平和に暮らしたい!
そう思って魔界作りをがんばっていたのに、突然やってきた勇者にあっさりと敗北。
死ぬ直前に過去を思い出して、勇者が大好きだった幼馴染だったことに気が付いたけど、もうどうしようもない。
次、生まれ変わるとしたらもう魔王は嫌だな、と思いながら再び目を覚ますと、なぜかベッドにつながれていた――。
6話完結の短編です。前半は受けの魔王視点。後半は攻めの勇者視点。
性描写は最終話のみに入ります。
※注意
・攻めは過去に女性と関係を持っていますが、詳細な描写はありません。
・多少の流血表現があるため、「残酷な描写あり」タグを保険としてつけています。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない
春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。
路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。
「――僕を見てほしいんです」
奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。
愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。
金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる