【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

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66.ソノワの怒り

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 竜たちの群れと騎士たちの姿が見えなくなるのを見送った。皆、行動が早くてびっくりする。
 駐留地に残った者は、氷竜たちが戻った時に備えて、薪になるものを採取したり食事の準備をしたりと仕事が山積みだ。俺も騎士たちを手伝って、せっせと体を動かした。一通り終わった後、レトが他の騎士と話し込んでいたので、テントで休むことにした。
 人気のない駐留地を一人で歩き、少し寂しいなと思った時だった。

 ……え?

 右手の甲がズキンと痛む。
 何だろうと見れば、どんどん痛みが増していき、見る間に赤黒く腫れあがっていく。

「……ッ!」

 思わず右手を左手で庇うようにして、その場にしゃがみこんだ。痛みで額に脂汗が浮く。右手の腫れはどこかで見たことがあると思った。

 そうだ、これは……。

 ホーレンエフ城に泊まった日だ。革靴で右手を踏みつけられる夢を見て、起きた時には甲が腫れあがっていた。でも、レトが治癒魔法で治してくれたんだ。どうしていきなり、こんな痛みが出るんだろう。
 ふっと頭の上に影が差す。目の前の地面にあるのは、夢で見たものと同じ革靴だった。
 
「……送った悪夢の残存魔法で、じわじわと痛めつけたかったのに。治癒魔法などを使われては痕も残らない」
「っ」

 見上げれば、ぞっとするほど酷薄な紫の瞳があった。最近は俺を見ても顔を背けるだけだったのに。

「……ソノワ」

 あれは、ただの夢じゃなかったのか?

「どうして……」
「わざわざ言わなければわからないのか? ジードを奪った泥棒猫が。いつもジードと一緒で忌々しい限りだ。ようやく一人になってくれた」

 ソノワが何を言いたいのかは、すぐにわかった。ジードが、ゼフィールは妹のことになると見境がないと言っていた。妹の婚約者をお前が奪ったのだ、決して許さないとその瞳は語っている。俺が一人になるのをずっと狙っていたのか。

「異世界人など来なければ、妹はジードと結ばれていた。何故この世界に来た? お前さえいなければ、あの子は幸せになれたのに」

 ……たしかに、揺れで俺がこちらに来なかったら、ジードに会うこともない。ジードは彼女と結婚していたのかもしれない。でも、ここに来たのは俺が望んだわけじゃない。

「俺は、来たくてきたわけじゃ……ない。揺れに巻き込まれただけだ。それに、未来は……だれ……にも、わから……ない」
「何だと?」

 ソノワの顔色が変わり、手の痛みが激しくなる。ギリギリと手首を捻り上げられるような痛みも加わっていく。

「ッ! 本人なら……まだしも、兄貴に……文句を言われる覚えは、ない……」

 手の甲を容赦なく何度も踏みつけるような痛みに俺は動けなくなった。地面に転がったまま呻き続ける。

「少しものを作れるぐらいでいい気になって! ならば、身の程を知るがいい。その手を潰してくれる!」

 ……手を!?

 ソノワの手の中に、まるで炎のような金色の光が湧き上がった。
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