【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

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69.腕の中の温もり

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 テントの隙間から流れ込む空気は、いつもよりずっと冷えている。これはもう冬なんじゃないか。
 吐く息が白くなり、布団の中に残った温もりを恋しく思う。そんな季節を思い出しながら、ゆっくりと目を開けた。

「……え?」

 目に入ったのは、くすんだ金色の髪だった。規則正しい寝息も聞こえる。自分を胸に抱えたまま眠る姿は、まるで小さな子がぬいぐるみを抱えているみたいだ。

 どうして、ジードがここにいるんだろう?

 昨夜の記憶を必死で思い出す。ジードは俺の隣に座って話をしていた。抱きあって、ジードの体が温かくて……。そこまでしか覚えていない。
 ジードも疲れて眠ってしまったんだろうか? それとも、知らぬ間に、俺がここにいてくれと頼みこんだんだろうか。
 じっとしていたら、ジードの体が動いた。もぞもぞと動いたかと思うと、俺の旋毛つむじにキスをする。

「……おはよ、ユウ」
「おはよう」

 ジードはその後、ぎゅうううっと俺を抱きしめたかと思うと動かなくなり、今度は腕の力が抜けていく。あれっと思ったら、すうすうと寝息が聞こえる。
 ああ、寝ぼけているんだと気づいたけれど、俺はしばらく動かないままでいた。ジードのこんな姿を見たのは初めてで、ドキドキしたから。
 いつのまにか、俺もジードと共に二度寝してしまい、目覚めた時にはとっくに夜が明けていた。一緒に起きたジードが困ったような微笑みを浮かべている。

「ユウが眠った後にレトに頼んだんだ。今夜はユウの側にいさせてくれって。ただ、こんなに眠るつもりじゃなかった」

 俺は、夜の間抱きしめていてくれたジードと、レトに感謝した。一人だったら、きっとつらく悲しい夢を見たような気がする。傷つけられた右手の痛みは、ほとんど消えていた。



 ――氷竜たちの働きはすごかった。魔獣のことは、やはり魔獣に任せるのが早い。

 魔林に向かった偵察部隊の話を改めて聞くと、氷竜たちの成果たるや恐ろしいものだった。魔林の中のバズアはものすごい勢いで捕食され、魔力が溜まった竜が凍気を吐き出せば、たちどころに花は凍ってバラバラになった。

「彼らが滞在してくれれば、魔林の中のバズアはいずれ駆逐されるだろう」

 騎士団長の言葉に、俺はふと浮かんだ質問を口にした。

「バズアを巡って、他の魔獣と争いにはならないんでしょうか?」
「氷竜に真っ向から挑むものはいない。魔林の魔獣は皆、凍気に弱いし、一頭の氷竜と戦う内に群れからも攻撃される恐れがある」

 例え体の大きさが変わらなくても、自分が苦手なタイプの魔獣と戦うことは不利になる。今の魔林では、氷竜たちよりも強い魔獣はいないようだ。
 騎士たちが刻々と変わる魔林の状況について報告し、意見を交わす。話し合いが終わると、ジードが真剣な表情でこちらを見た。

「ユウ、今、いいか?」
「うん」
「見せたいものがあるんだ。昨日は渡せなかったから」

 見せたいもの? 何だろう?

 俺はジードと一緒に氷竜たちの元へと向かった。
 テントから少し離れて、氷竜たちはくつろいでいた。バズアを食べて、群れ全体が元気になっているようだ。ジードが温熱魔法をかけてくれなかったら、俺には近づくことも出来ない。
 今日も薄氷色の竜と暗青色の竜は鼻先を擦り合わせ、優しく互いを舐めている。彼らはいつでも仲がいい。

「こんなに大事に想ってる相手が急にいなくなったら、そりゃあ探すよな」
「そうだな。本来、竜は人の言葉なんか聞かないんだが、あの番の竜が俺たちの力になるよう言ってくれているんだ。この魔林で俺に助けられたからと」

 ジードが薄氷色の竜に会った時、氷竜は魔林の熱を受けて大分弱っていた。他の竜種がバズアを食べることは知っていたから、これを食べれば力になるかもしれないとジードが教えたのだ。薄氷色の竜はバズアで力を回復しながら、離れた番を呼び続けた。

 薄氷色の竜の側にジードが立つ。竜の隣に真っ白な塊が置かれていた。ジードの体の倍もありそうな大きさだ。ジードが手を上げると、真っ白な塊がふわりと舞い上がり、俺の目の前に置かれた。
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