【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

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71.宝の山

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 ジードがってきてくれたバズアを皆にも食べてほしい。

 そう言ったら、ジードは目を瞬いた。

「せっかく苦労して獲ってきてもらったし、たくさんあるから……。きっと皆、喜んでくれると思うんだ。祖母がよく『お福分け』って言ってた」
「フク?」
「うん。美味しいものをもらったら、自分だけで味わうんじゃなくて、他の人にも分けるんだ。そうすると、自分も分けた相手も嬉しいから」
「それはいいな」
「うん」

 
 手の中にあるバズアは、真っ白な砂糖の塊にしか見えない。少し力を入れたら、端からほろほろと崩れていく。この世界に来てから、こんなにも強烈な甘味を感じたことはなかった。バズアは、ずっと魔獣と戦ってきた騎士たちの力にもなるんじゃないだろうか。

「核を潰した状態のバズアは、滅多に手に入らないんだよね?」
「ああ。大抵はすぐに他の魔獣に食べられてしまうし、稀に市場に出回ることがあっても、驚くほどの高値がつく」

 魔林に入って命がけで手に入れるんだ。値段も高くなるだろう。

「あのさ……。ジードたちは今までも魔獣を退治してきたんだよね? バズアをたくさん手に入れて持ち帰ろうとは思わなかったの?」
「俺たちは商人じゃないからな。魔獣として駆除する方が先だ」

 バズアが大量発生するような時には、第三騎士団は魔獣を仕留めるのに大忙しだ。それが落ち着くころにはバズアの数は減り、任務終了となって王都に帰還する。

「そうか。任務は魔獣討伐だもんね」
「ああ。しかし、ユウが皆にバズアを分けるのはかまわないが……」

 ジードがぽつりと呟いた。お前は魔林で何をしてたんだと、団長に怒られそうだな、と。俺は思わず吹き出してしまった。


「エーリーク―!」
「どうなさったんです、ユウ様」
「あのさ……ちょっとお願いがあるんだ」
「どうぞ。私にできることでしたら」

 にっこりと微笑むエリクが眩しい。

「よかったら、食べてほしいと思って」

 俺が布にくるんで差し出した白い塊を見て、エリクは目を丸くした。

「ユウ様、何ですか、これ?」
「……何だと思う? ものすごく甘いんだ。俺の世界にあるものとよく似てる」
「甘い?」

 エリクがまじまじと眺めていると、近くにいた応援部隊の騎士たちがのぞき込んでくる。やはり王都勤務の第一騎士団や第二騎士団の騎士たちには馴染みが無いのだろう。

「皆がよく知ってるものなんだけど」
「魔力を感じますが、やはりよくわかりません」
「……食べてみてくれる?」

 俺はエリクや周りにいる騎士たちの手に、少しずつバズアの欠片かけらを乗せた。エリクが俺をじっと見る。

「……ユウ様がそうおっしゃるなら。いただきます」

 エリクの言葉を聞いて、他の騎士たちも一斉にパクリと口に入れた。

「~~~!!!」
「えっ」
「甘い!」 

 あっという間に大騒ぎになり、何の騒ぎだとやってきた第三騎士団長にも欠片を渡した。騎士団長はまじまじと見つめた後に、はっとする。

「これは……!」
「ええ、バズアです」
「ユウ様!!!」

 バズア? これが! とあちこちから声が上がった。

「これは……センブルクが魔林から?」
「ええ、偵察がてら俺の為に獲ってきてくれました。王都に持ち帰って、ピールのように新たなものを作ってみたいんです」

 騎士団長がピール、と呟く。

「バズアを手にする機会は滅多にないと思います。今なら竜たちも運ぶのを手伝ってくれると思うのですが」
「……ちょうど、魔林からの撤退を考えていたところだ」

 騎士団長は少しの間考え込んでいたが、俺に硬質化したバズアを見せてもらえるかと聞いた。俺は団長や騎士たちと共に、ジードと氷竜たちの元に向かった。
 騎士団長はバズアを見た後、ジードにいくつか質問をした。ジードが神妙な顔をしている。最後に俺を見て、団長はにやっと笑った。

「……持ち帰れるだけ、手土産としますか」

 魔林から王都に戻る前に、第三騎士団と応援部隊は、バズアを捕獲した。竜たちに協力してもらって、魔林で仕留めたものを駐留地まで運んでもらう。さらには総出で解体した。
 本当に砂糖のように使えるのか試してみたくて、薬草茶のハルルにも入れてみた。さらさらしたバズアは見る間に溶けて甘いお茶になる。それを飲んだ騎士たちは皆、疲れがとれると笑顔で言う。

 エリクが真っ白なバズアを見ながら漏らした言葉に、誰もが頷いた。

「……憎いばかりだったバズアが、宝の山に見えます」
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