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44話 背徳の街ラガド(1)
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ウマはレンの言ったとおり、幻惑の森の出口で僕らを待っていた。ウマにくくりつけていた荷物の中から服を取り出して身につけた。
「道草くっちまったな。誰かさんのせいで」
「ワン太のせいだねっ」
「ワウウ?」
「ヨウのせいだつってるぞ」
「そ、そうかな?」
そうかも。ごめんなさい。
レンは空を見上げた。
「なんとか日没前までにつけるかなあ」
そして僕らは再出発した。
ウマもフェンリルも休むことなく走り続けた。
日が沈む寸前にラガドの街が見えてきた。
到着できてほっとする、はずの所なのだけれど、僕はなぜかゾッとした。
ラガドの第一印象は、はっきりいって怖かった。
その真っ黒い城壁に囲まれた街は、大きく立派ではあったけれど、どこか背筋が寒くなるような、嫌な気をまとっていた。
ちょっと迷信めいてしまうけれど、たとえば神霊スポットにあるような嫌な雰囲気。
ここに入りたくないな、と思わせる「何か」がその街にはあった。
その時突然、僕の頭の中に、見知らぬ男が現れた。
額に第三の目を持つ、長い銀髪の、美しい男。
その男が僕をじっと見つめ、僕を呼んでいる。
僕は痛む頭を押さえた。
恐怖に体が震えだした。
いやだ、呼ばないで。僕を呼ばないで。僕はもう、お前のものじゃない……。
「やっ……!」
「ど、どうしたヨウ!?」
急に頭を押さえてうめいた僕に、レイが驚いている。
レイは手綱を持たない方の手を僕の腰に回して、背中をキュッと抱きしめてくれた。
すると急速に、あの男の姿が脳内から消えていった。
僕はほっと息をついた。
「な、なんでもない、ありがとうレン」
「ずっと慣れないウマに乗ってて疲れたんだろうな。もう着いた、しっかり休もうな」
「う、うん!」
なんだったんだろう今の男は?
誰?
僕はあの男を知っている?
まあいいや、気にしないことにしよう……。
城壁の門に向かって、長蛇の列ができていた。並んでいるのは男ばかりだった。
ハンター風の男もいれば、目の下に黒いくまをつくったガリガリの男もいた。
僕たちもウマから降りて、その最後尾に並んだ。
長い順番を待ち、ようやく僕達も門の面前にまで到達した。
最初の街、アイロウの門よりも広く立派で、三列に分かれて人々が中に入っていく。
通り過ぎようとしたら、黒いローブを身にまとい顔を隠した門番に止められた。
門番は手を差し出した。くひひ、と不気味な笑い声をたてながら、
「おや、お若いのにラガドかい?武器はここで預かるよ」
レンが不服そうな声を出す。
「なんだって!?そんな街、初めて聞いたぞ。どの街でも武器を奪われたことなんてなかった」
「ここは普通の街じゃない、背徳の街ラガドだよ。頭がおかしいのがいっぱいいるんだ。武器なんて持ち込まれちゃ、城壁の中が血の池になっちまうよ」
レンが眉間にしわを寄せて、隣の列を見る。みんな、文句も言わず門番に武器を預け、黙々と門を潜って中へと入っていく。
「くひひ、嫌なら入れないよ、野宿でもしたらいい。魔の山ミルドジャウの麓でね。くひっ、夜が楽しみだ、ハイレベルなモンスターがぞろぞろ出てくるよ」
諦めたように舌打ちをすると、レンは腰の剣や背中の弓矢を門番に渡した。僕も、ナイフと弓矢を渡す。
「ああ、もちろん従獣は入れないよ。壁外の従獣小屋で預かってやろうか?フェンリルといえども、このあたりは危険かもしれないぜ?」
レンはワン太に問いかける眼差しを送った。
「どうする?小屋入っておくか?」
ワン太は不服そうにウーと唸った。レンは首をすくめる。
「『フェンリル様なめんな檻なんて入ってられっか』だってよ」
「ひひっ、好きにしたらいいさ」
レンは軽くぽんとワン太の頭を叩いた。
「よし、ここいらのモンスターたちにフェンリル様の恐ろしさ見せつけてやれ」
ワン太は不敵な顔をしてワオンと吼えた。
レンはふっと微笑むとそのまま、街の中へと入っていく。
僕はワン太をわしゃわしゃ撫でて別れを惜しんだ。
「ああ、お前を中に連れて入れたら心強いのになあ!ちょっとの間だからね、バイバイね」
ワン太に手を振りながら、僕はレンの後を追って、城壁の中へと入った。
「道草くっちまったな。誰かさんのせいで」
「ワン太のせいだねっ」
「ワウウ?」
「ヨウのせいだつってるぞ」
「そ、そうかな?」
そうかも。ごめんなさい。
レンは空を見上げた。
「なんとか日没前までにつけるかなあ」
そして僕らは再出発した。
ウマもフェンリルも休むことなく走り続けた。
日が沈む寸前にラガドの街が見えてきた。
到着できてほっとする、はずの所なのだけれど、僕はなぜかゾッとした。
ラガドの第一印象は、はっきりいって怖かった。
その真っ黒い城壁に囲まれた街は、大きく立派ではあったけれど、どこか背筋が寒くなるような、嫌な気をまとっていた。
ちょっと迷信めいてしまうけれど、たとえば神霊スポットにあるような嫌な雰囲気。
ここに入りたくないな、と思わせる「何か」がその街にはあった。
その時突然、僕の頭の中に、見知らぬ男が現れた。
額に第三の目を持つ、長い銀髪の、美しい男。
その男が僕をじっと見つめ、僕を呼んでいる。
僕は痛む頭を押さえた。
恐怖に体が震えだした。
いやだ、呼ばないで。僕を呼ばないで。僕はもう、お前のものじゃない……。
「やっ……!」
「ど、どうしたヨウ!?」
急に頭を押さえてうめいた僕に、レイが驚いている。
レイは手綱を持たない方の手を僕の腰に回して、背中をキュッと抱きしめてくれた。
すると急速に、あの男の姿が脳内から消えていった。
僕はほっと息をついた。
「な、なんでもない、ありがとうレン」
「ずっと慣れないウマに乗ってて疲れたんだろうな。もう着いた、しっかり休もうな」
「う、うん!」
なんだったんだろう今の男は?
誰?
僕はあの男を知っている?
まあいいや、気にしないことにしよう……。
城壁の門に向かって、長蛇の列ができていた。並んでいるのは男ばかりだった。
ハンター風の男もいれば、目の下に黒いくまをつくったガリガリの男もいた。
僕たちもウマから降りて、その最後尾に並んだ。
長い順番を待ち、ようやく僕達も門の面前にまで到達した。
最初の街、アイロウの門よりも広く立派で、三列に分かれて人々が中に入っていく。
通り過ぎようとしたら、黒いローブを身にまとい顔を隠した門番に止められた。
門番は手を差し出した。くひひ、と不気味な笑い声をたてながら、
「おや、お若いのにラガドかい?武器はここで預かるよ」
レンが不服そうな声を出す。
「なんだって!?そんな街、初めて聞いたぞ。どの街でも武器を奪われたことなんてなかった」
「ここは普通の街じゃない、背徳の街ラガドだよ。頭がおかしいのがいっぱいいるんだ。武器なんて持ち込まれちゃ、城壁の中が血の池になっちまうよ」
レンが眉間にしわを寄せて、隣の列を見る。みんな、文句も言わず門番に武器を預け、黙々と門を潜って中へと入っていく。
「くひひ、嫌なら入れないよ、野宿でもしたらいい。魔の山ミルドジャウの麓でね。くひっ、夜が楽しみだ、ハイレベルなモンスターがぞろぞろ出てくるよ」
諦めたように舌打ちをすると、レンは腰の剣や背中の弓矢を門番に渡した。僕も、ナイフと弓矢を渡す。
「ああ、もちろん従獣は入れないよ。壁外の従獣小屋で預かってやろうか?フェンリルといえども、このあたりは危険かもしれないぜ?」
レンはワン太に問いかける眼差しを送った。
「どうする?小屋入っておくか?」
ワン太は不服そうにウーと唸った。レンは首をすくめる。
「『フェンリル様なめんな檻なんて入ってられっか』だってよ」
「ひひっ、好きにしたらいいさ」
レンは軽くぽんとワン太の頭を叩いた。
「よし、ここいらのモンスターたちにフェンリル様の恐ろしさ見せつけてやれ」
ワン太は不敵な顔をしてワオンと吼えた。
レンはふっと微笑むとそのまま、街の中へと入っていく。
僕はワン太をわしゃわしゃ撫でて別れを惜しんだ。
「ああ、お前を中に連れて入れたら心強いのになあ!ちょっとの間だからね、バイバイね」
ワン太に手を振りながら、僕はレンの後を追って、城壁の中へと入った。
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