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53話 運命の夜
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宿を出て、通りを走る。
「待て、ヨル、一人で出歩くなっ!」
後ろの方からレンの声が聞こえてどきりとする。
僕は人混みの中に紛れ込んだ。
「わっ、待て、くそ、人が邪魔だっ」
レンが困惑する声が聞こえてきた。
僕は小さな体を生かして、人混みの中をスイスイと素早く走り抜けていった。
レンの声が遠のいていく。
レンが僕を心配してくれている。
ああ君は、なんていい奴なんだ。
ごめん。
でも僕はもう、君にどんな顔して接すればいいのか分からない。
君の愛が欲しくて、正体を隠してきた。
きっと失望しただろうに。ヨルなんかを抱いてしまって、気持ち悪かったと思ってるだろうに。
ごめんねレン。
涙がこぼれ落ちた。
もう愛してもらえないんだと思うと、悲しくて悲しくて。
街の光が涙で滲んだ。
酒の匂いと香水の匂いが入り混じる、夜の街。
不思議と綺麗に思えた、その時。
突然、魔法のように、人が消えた。
街の光だけそのままで、たった今までいたはずの男も女も、現地人も転生者も、みんな消えてなくなった。
僕はキツネにつままれたような心地でキョロキョロとする。
いったい、なに?
夢?幻覚?
誰もいなくなったラガドの街で、僕はなぜかふと、あの塔を見上げた。
古代の遺跡、今は転生者たちが春をひさぐ娼館。
その最上階に、「帝王」が住むというその塔。
そそり立つその塔は、恐ろしかった。
まるで……。
そうだまるで、天を陵辱する忌まわしき肉棒のようだ。
邪神の肉棒。
「見つけた……」
突然、前から声が聞こえて、僕はハッとした。
見れば、背の高い男が誰もいない街に佇んで、僕を見つめている。
美しい男だった。
銀髪を長く腰まで伸ばし、額に第三の眼を持ち、半裸で、下半身にひだを作る布を巻いた男。
その完成された肉体も、現実離れした美貌も、まるで神のようだった。
僕は魅入られたようにその男を凝視した。
そうだ、この男だ。ラガドの城壁を見た瞬間、僕の脳裏に思い浮かんだ男。
誰?お前は一体……。
急に、身体中が沸騰を始めた。
やだ、なにこれ?なんで、今?
僕はこの感覚を知っている。これは、「飢え」だ。「飢餓」だ。
転生者の飢餓。
性的快楽が欲しくて欲しくてたまらない、地獄のような疼き。
なんで?なんで急に?
僕ははあはあと息をついて、自分の腕で体を抱く。
神のような男は僕に近づいてきて、飢餓に上気する僕の体を軽々と持ち上げた。
両手で僕を高々と掲げた。
うっとりとその美しい双眸を細めて言う。
「見つけたぞ、我が花嫁。やっとお前を見つけた。今度こそ逃しはしない」
僕の体の火照りが最高潮に達する。
いやだ、どうして。
どうして僕、今、この男の人に抱かれることを想像しているの?
いやだよ、僕は、レンにしか抱かれたくないのに。
たとえもうレンが二度と僕を抱いてくれなくても、それでも僕は、レン以外の誰かに抱かれるのなんて絶対にいやだ。
なのに、どうしてこんな気持ちに。
男は微笑をたたえた。
男は掲げていた僕をおろし、息のかかる距離でじっと見つめて甘く囁く。
「私が欲しいか花嫁よ。よかろう、今宵が我らの初夜だ」
僕は体の奥底から吹き上がってくる、淫らな火照りに喘いだ。
もうとっくに勃起していて、中だって疼いて疼いて気が狂いそうで、でも必死の思いで僕は、首を振った。
「い……いやだっ!」
男の目が、驚愕に見開かれる。
「なん……だと?なんと言った、今」
「僕はレンを愛してる!レン以外の誰にも抱かれたくない!」
「レン、だと?まさか、そいつは」
その時、僕の背後から叫び声が聞こえた。
「ヨルっ!!」
レンの声。
僕は信じられない思いで、目に涙を浮かべる。
ああ、レンだ。僕の大好きな人の声。
僕は男の胸をどんと両手で突き放し、振り返った。
誰もいない街の中、はあはあと息を切らしてレンがいた。
僕はレンに駆け寄ろうとして、男に腕をつかまれた。
「やだっ、はなせっ!」
男は僕を引き寄せ、腕の中に抱きながら、レンを睨んだ。
その瞳は憎悪に染まっていた。
「……『勇者』……。またか、また貴様なのかっ……!」
「勇者、だと……?」
聞き返したレンが急に、苦しげに頭を抑えた。
「つっ……、頭がいてえ……!何かを、思い出しそうっ……」
苦痛に歪んでいたレンの顔が、つと真顔になった。
レンは男を見上げて、言う。
「お前は……邪神……ヨア、ヒム?」
男は憤怒に顔を歪めた。
「貴様ごときが!我が名を!呼ぶなあああああああああ!」
男はレンに向かってかっと口を開いた。
その口の中から黒い球体が出現する。
黒い球体がレンに向かって発射された
黒い球体はレンの腹に直撃した。
その瞬間。
黒い球体がレンの腹にめり込んだ、その瞬間。
レンの体は、骨になった。
レンのガイコツは、ばらばらになって八方に飛び散った
僕はまるで、理解ができなかった。
今いたはずのレンがいなくなっていて、代わりに白い骨がが散乱しているその状況が。
その意味が。
まったく、まるで、理解できなかった。
レンに邪神ヨアヒムと呼ばれた男はにたりと笑った。
とても満足そうに。
「ああ、予想どおりだった。今宵は良い夜になると思っていたんだ」
男は頭が真っ白の僕の顎をつかんで上に向けた。
「とんだ邪魔が入ったね。せっかくの初夜だというのに。さあ、かわいがってあげよう。我が花嫁よ」
男は僕に唇を重ねた。
僕は、まったく、まるで、なんにも、理解ができなかった。
何が起きたの?何が起きてるの?
レンは、どこにいったの?
「待て、ヨル、一人で出歩くなっ!」
後ろの方からレンの声が聞こえてどきりとする。
僕は人混みの中に紛れ込んだ。
「わっ、待て、くそ、人が邪魔だっ」
レンが困惑する声が聞こえてきた。
僕は小さな体を生かして、人混みの中をスイスイと素早く走り抜けていった。
レンの声が遠のいていく。
レンが僕を心配してくれている。
ああ君は、なんていい奴なんだ。
ごめん。
でも僕はもう、君にどんな顔して接すればいいのか分からない。
君の愛が欲しくて、正体を隠してきた。
きっと失望しただろうに。ヨルなんかを抱いてしまって、気持ち悪かったと思ってるだろうに。
ごめんねレン。
涙がこぼれ落ちた。
もう愛してもらえないんだと思うと、悲しくて悲しくて。
街の光が涙で滲んだ。
酒の匂いと香水の匂いが入り混じる、夜の街。
不思議と綺麗に思えた、その時。
突然、魔法のように、人が消えた。
街の光だけそのままで、たった今までいたはずの男も女も、現地人も転生者も、みんな消えてなくなった。
僕はキツネにつままれたような心地でキョロキョロとする。
いったい、なに?
夢?幻覚?
誰もいなくなったラガドの街で、僕はなぜかふと、あの塔を見上げた。
古代の遺跡、今は転生者たちが春をひさぐ娼館。
その最上階に、「帝王」が住むというその塔。
そそり立つその塔は、恐ろしかった。
まるで……。
そうだまるで、天を陵辱する忌まわしき肉棒のようだ。
邪神の肉棒。
「見つけた……」
突然、前から声が聞こえて、僕はハッとした。
見れば、背の高い男が誰もいない街に佇んで、僕を見つめている。
美しい男だった。
銀髪を長く腰まで伸ばし、額に第三の眼を持ち、半裸で、下半身にひだを作る布を巻いた男。
その完成された肉体も、現実離れした美貌も、まるで神のようだった。
僕は魅入られたようにその男を凝視した。
そうだ、この男だ。ラガドの城壁を見た瞬間、僕の脳裏に思い浮かんだ男。
誰?お前は一体……。
急に、身体中が沸騰を始めた。
やだ、なにこれ?なんで、今?
僕はこの感覚を知っている。これは、「飢え」だ。「飢餓」だ。
転生者の飢餓。
性的快楽が欲しくて欲しくてたまらない、地獄のような疼き。
なんで?なんで急に?
僕ははあはあと息をついて、自分の腕で体を抱く。
神のような男は僕に近づいてきて、飢餓に上気する僕の体を軽々と持ち上げた。
両手で僕を高々と掲げた。
うっとりとその美しい双眸を細めて言う。
「見つけたぞ、我が花嫁。やっとお前を見つけた。今度こそ逃しはしない」
僕の体の火照りが最高潮に達する。
いやだ、どうして。
どうして僕、今、この男の人に抱かれることを想像しているの?
いやだよ、僕は、レンにしか抱かれたくないのに。
たとえもうレンが二度と僕を抱いてくれなくても、それでも僕は、レン以外の誰かに抱かれるのなんて絶対にいやだ。
なのに、どうしてこんな気持ちに。
男は微笑をたたえた。
男は掲げていた僕をおろし、息のかかる距離でじっと見つめて甘く囁く。
「私が欲しいか花嫁よ。よかろう、今宵が我らの初夜だ」
僕は体の奥底から吹き上がってくる、淫らな火照りに喘いだ。
もうとっくに勃起していて、中だって疼いて疼いて気が狂いそうで、でも必死の思いで僕は、首を振った。
「い……いやだっ!」
男の目が、驚愕に見開かれる。
「なん……だと?なんと言った、今」
「僕はレンを愛してる!レン以外の誰にも抱かれたくない!」
「レン、だと?まさか、そいつは」
その時、僕の背後から叫び声が聞こえた。
「ヨルっ!!」
レンの声。
僕は信じられない思いで、目に涙を浮かべる。
ああ、レンだ。僕の大好きな人の声。
僕は男の胸をどんと両手で突き放し、振り返った。
誰もいない街の中、はあはあと息を切らしてレンがいた。
僕はレンに駆け寄ろうとして、男に腕をつかまれた。
「やだっ、はなせっ!」
男は僕を引き寄せ、腕の中に抱きながら、レンを睨んだ。
その瞳は憎悪に染まっていた。
「……『勇者』……。またか、また貴様なのかっ……!」
「勇者、だと……?」
聞き返したレンが急に、苦しげに頭を抑えた。
「つっ……、頭がいてえ……!何かを、思い出しそうっ……」
苦痛に歪んでいたレンの顔が、つと真顔になった。
レンは男を見上げて、言う。
「お前は……邪神……ヨア、ヒム?」
男は憤怒に顔を歪めた。
「貴様ごときが!我が名を!呼ぶなあああああああああ!」
男はレンに向かってかっと口を開いた。
その口の中から黒い球体が出現する。
黒い球体がレンに向かって発射された
黒い球体はレンの腹に直撃した。
その瞬間。
黒い球体がレンの腹にめり込んだ、その瞬間。
レンの体は、骨になった。
レンのガイコツは、ばらばらになって八方に飛び散った
僕はまるで、理解ができなかった。
今いたはずのレンがいなくなっていて、代わりに白い骨がが散乱しているその状況が。
その意味が。
まったく、まるで、理解できなかった。
レンに邪神ヨアヒムと呼ばれた男はにたりと笑った。
とても満足そうに。
「ああ、予想どおりだった。今宵は良い夜になると思っていたんだ」
男は頭が真っ白の僕の顎をつかんで上に向けた。
「とんだ邪魔が入ったね。せっかくの初夜だというのに。さあ、かわいがってあげよう。我が花嫁よ」
男は僕に唇を重ねた。
僕は、まったく、まるで、なんにも、理解ができなかった。
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レンは、どこにいったの?
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