52 / 66
52話 嘘
しおりを挟む
※主人公視点に戻ります
-------------------------------------
おぞましいショーを見せられた後。
ちゃんとした酒場で食事する気もせず、僕らは路上屋台で軽食を取った。たくさんの屋台テントが軒を並べる、屋台地帯といえるような一角で、たくさんの客で賑わっていた。
酒を飲んで顔を朱に染めて安い食事をうまそうにつまむその姿は、日本のサラリーマンと似たようなものかもしれない。
案外、普通の人たち。それが現地人であり、この案外普通の人たちが、僕ら転生者にあんなひどい虐待を加えて喜んでいる。
その事実は僕を憂鬱にさせた。
まるで現地人が正常で、自分が異常で、異常だから虐待されても仕方ないのかな、なんてそんな気にすらさせられて。
僕達は言葉少なく、宿の部屋に戻った。
部屋に戻るとレンはやはり、あのことを言った。
窓辺のテーブルにどんと両手をついて、苛立った声で、
「くそっ、洞窟に結界ってなんだよ!帰還の門から逃げられた転生者が一人もいないだって?ざっけんなよっ……!」
僕は恐る恐る言ってみる。
「もう……戻らない?あ、別に前の街じゃなくても、とにかくどこか別のところに」
えっ、という顔でレンが僕を見る。
「な、何言ってんだよヨウ。ここまで来て!」
「こ、この街が怖いんだ。ここでつかまってしまったら、僕達もあんなひどい目に遭うかもしれない。正直、野宿してでもいいから今すぐこの街から逃げ出したい気分……」
「どこに逃げたって同じだ、この世界のどこにも俺達の安住の地なんてない!どこまで行っても地獄だ!帰還の門をくぐる以外ない!」
「でも洞窟にすら入れない、さらに扉があるんだよね。どうせ鍵が閉まってるに決まってるし。その扉はどうやって開けるの?」
「調べる!きっと方法があるはずだ。邪神崇拝者の末裔を探そう、そいつらなら何か分かるかもしれない。俺は絶対に諦めない」
僕はしみじみとつぶやく。
「レンは本当に、元の世界に戻りたいんだね」
「当たり前だろ。お前だって戻りたいだろ?」
「あ、うん、そ、そうだね」
僕のはっきりしない言い方に、レンは不思議そうに首をかしげた。
「なんだよ、あんまり戻りたくなさそうだな」
僕は頭をかく。
「向こうの僕、そんなに幸せじゃ、なかったから」
「つってもこの世界よりはましだろ?」
「ま、まあもちろん、そうだけど。でも、異世界転生できたから、レンとこういう風に仲良くなれたわけで」
「お前も日本から来たんだろ?じゃあ戻って向こうでも仲良くやれるじゃん。向こうの世界のお前に会うの、俺はすごく楽しみだ」
いらいらしていたレンの表情が、ふっと緩む。
僕の胸がつんと痛んだ。
僕はうつむく。
「レンはきっと失望するよ……。本当の僕を知ったら。全然、イケてない奴なんだ。き……気持ち悪い顔をしていて、だからみんなに顔を見られるのが怖くていつも伊達メガネで、暗くて、全然友達いなくて……。本当だったらレンとこんな風な仲になれる奴じゃないんだ僕は」
レンはおかしそうに笑う。
「俺だって別にイケてねえよ」
僕は思わずむきになって反論した。
「そんなことないよっ!レンはみんなに恋される男だっ!」
「えっ……」
レンが息を飲んで僕を見つめた。僕はなんでそんなに驚くのだろう、ときょとんとする。
レンが真顔になって僕に聞く。
「それ、どういう意味だ?」
「だ、だって、恋って書いてレンでしょ、だから」
「俺、自分の名前の漢字、ヨウに教えてないけど」
どくん、と心臓が音をたてた。
僕の血の気がすーっと引いていった。
なんて迂闊なことを言ってしまったんだろう。
どうしよう、でもまさか、僕がレンに前言った言葉なんて、覚えてないよね?
あれを覚えてさえなければ、きっと誤魔化せる、そうだ覚えてるわけが……。
「お前、まさか、ヨル?」
「っ……!」
「お前、本当は川中 依一か!?」
「ち、ちが、違うよ僕は、ヨルイチなんかじゃっ!」
僕は顔を真っ赤にさせ、震えながら否定する。
涙が出てきた。
ああ、だめだ、こんなんじゃバレバレじゃないか。
レンが呆然としてつぶやく。
「ヨル……」
僕はうつむいた。もうダメだ。
嘘がバレた。
もう僕の幸せな時間はおしまいだ。
僕は諦める。全てを。
……謝らなきゃ。
「ごめん、レン、騙してきてごめん。僕なんかで、ほんと、ごめん……っ!」
僕は後ろに振り向き、駆け出した。
部屋のドアを開けて廊下に出て、走り抜ける。
僕は夜の街に逃げ出した。
-------------------------------------
おぞましいショーを見せられた後。
ちゃんとした酒場で食事する気もせず、僕らは路上屋台で軽食を取った。たくさんの屋台テントが軒を並べる、屋台地帯といえるような一角で、たくさんの客で賑わっていた。
酒を飲んで顔を朱に染めて安い食事をうまそうにつまむその姿は、日本のサラリーマンと似たようなものかもしれない。
案外、普通の人たち。それが現地人であり、この案外普通の人たちが、僕ら転生者にあんなひどい虐待を加えて喜んでいる。
その事実は僕を憂鬱にさせた。
まるで現地人が正常で、自分が異常で、異常だから虐待されても仕方ないのかな、なんてそんな気にすらさせられて。
僕達は言葉少なく、宿の部屋に戻った。
部屋に戻るとレンはやはり、あのことを言った。
窓辺のテーブルにどんと両手をついて、苛立った声で、
「くそっ、洞窟に結界ってなんだよ!帰還の門から逃げられた転生者が一人もいないだって?ざっけんなよっ……!」
僕は恐る恐る言ってみる。
「もう……戻らない?あ、別に前の街じゃなくても、とにかくどこか別のところに」
えっ、という顔でレンが僕を見る。
「な、何言ってんだよヨウ。ここまで来て!」
「こ、この街が怖いんだ。ここでつかまってしまったら、僕達もあんなひどい目に遭うかもしれない。正直、野宿してでもいいから今すぐこの街から逃げ出したい気分……」
「どこに逃げたって同じだ、この世界のどこにも俺達の安住の地なんてない!どこまで行っても地獄だ!帰還の門をくぐる以外ない!」
「でも洞窟にすら入れない、さらに扉があるんだよね。どうせ鍵が閉まってるに決まってるし。その扉はどうやって開けるの?」
「調べる!きっと方法があるはずだ。邪神崇拝者の末裔を探そう、そいつらなら何か分かるかもしれない。俺は絶対に諦めない」
僕はしみじみとつぶやく。
「レンは本当に、元の世界に戻りたいんだね」
「当たり前だろ。お前だって戻りたいだろ?」
「あ、うん、そ、そうだね」
僕のはっきりしない言い方に、レンは不思議そうに首をかしげた。
「なんだよ、あんまり戻りたくなさそうだな」
僕は頭をかく。
「向こうの僕、そんなに幸せじゃ、なかったから」
「つってもこの世界よりはましだろ?」
「ま、まあもちろん、そうだけど。でも、異世界転生できたから、レンとこういう風に仲良くなれたわけで」
「お前も日本から来たんだろ?じゃあ戻って向こうでも仲良くやれるじゃん。向こうの世界のお前に会うの、俺はすごく楽しみだ」
いらいらしていたレンの表情が、ふっと緩む。
僕の胸がつんと痛んだ。
僕はうつむく。
「レンはきっと失望するよ……。本当の僕を知ったら。全然、イケてない奴なんだ。き……気持ち悪い顔をしていて、だからみんなに顔を見られるのが怖くていつも伊達メガネで、暗くて、全然友達いなくて……。本当だったらレンとこんな風な仲になれる奴じゃないんだ僕は」
レンはおかしそうに笑う。
「俺だって別にイケてねえよ」
僕は思わずむきになって反論した。
「そんなことないよっ!レンはみんなに恋される男だっ!」
「えっ……」
レンが息を飲んで僕を見つめた。僕はなんでそんなに驚くのだろう、ときょとんとする。
レンが真顔になって僕に聞く。
「それ、どういう意味だ?」
「だ、だって、恋って書いてレンでしょ、だから」
「俺、自分の名前の漢字、ヨウに教えてないけど」
どくん、と心臓が音をたてた。
僕の血の気がすーっと引いていった。
なんて迂闊なことを言ってしまったんだろう。
どうしよう、でもまさか、僕がレンに前言った言葉なんて、覚えてないよね?
あれを覚えてさえなければ、きっと誤魔化せる、そうだ覚えてるわけが……。
「お前、まさか、ヨル?」
「っ……!」
「お前、本当は川中 依一か!?」
「ち、ちが、違うよ僕は、ヨルイチなんかじゃっ!」
僕は顔を真っ赤にさせ、震えながら否定する。
涙が出てきた。
ああ、だめだ、こんなんじゃバレバレじゃないか。
レンが呆然としてつぶやく。
「ヨル……」
僕はうつむいた。もうダメだ。
嘘がバレた。
もう僕の幸せな時間はおしまいだ。
僕は諦める。全てを。
……謝らなきゃ。
「ごめん、レン、騙してきてごめん。僕なんかで、ほんと、ごめん……っ!」
僕は後ろに振り向き、駆け出した。
部屋のドアを開けて廊下に出て、走り抜ける。
僕は夜の街に逃げ出した。
17
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる