転・精・者/邪神の生贄 ~地獄みたいな異世界で、僕は憧れの彼に会う~

空月 瞭明

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52話 嘘

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※主人公視点に戻ります
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 おぞましいショーを見せられた後。
 ちゃんとした酒場で食事する気もせず、僕らは路上屋台で軽食を取った。たくさんの屋台テントが軒を並べる、屋台地帯といえるような一角で、たくさんの客で賑わっていた。

 酒を飲んで顔を朱に染めて安い食事をうまそうにつまむその姿は、日本のサラリーマンと似たようなものかもしれない。
 案外、普通の人たち。それが現地人であり、この案外普通の人たちが、僕ら転生者にあんなひどい虐待を加えて喜んでいる。

 その事実は僕を憂鬱にさせた。
 まるで現地人が正常で、自分が異常で、異常だから虐待されても仕方ないのかな、なんてそんな気にすらさせられて。

 僕達は言葉少なく、宿の部屋に戻った。

 部屋に戻るとレンはやはり、あのことを言った。
 窓辺のテーブルにどんと両手をついて、苛立った声で、

「くそっ、洞窟に結界ってなんだよ!帰還の門から逃げられた転生者が一人もいないだって?ざっけんなよっ……!」

 僕は恐る恐る言ってみる。

「もう……戻らない?あ、別に前の街じゃなくても、とにかくどこか別のところに」

 えっ、という顔でレンが僕を見る。

「な、何言ってんだよヨウ。ここまで来て!」

「こ、この街が怖いんだ。ここでつかまってしまったら、僕達もあんなひどい目に遭うかもしれない。正直、野宿してでもいいから今すぐこの街から逃げ出したい気分……」

「どこに逃げたって同じだ、この世界のどこにも俺達の安住の地なんてない!どこまで行っても地獄だ!帰還の門をくぐる以外ない!」

「でも洞窟にすら入れない、さらに扉があるんだよね。どうせ鍵が閉まってるに決まってるし。その扉はどうやって開けるの?」

「調べる!きっと方法があるはずだ。邪神崇拝者の末裔を探そう、そいつらなら何か分かるかもしれない。俺は絶対に諦めない」

 僕はしみじみとつぶやく。

「レンは本当に、元の世界に戻りたいんだね」

「当たり前だろ。お前だって戻りたいだろ?」

「あ、うん、そ、そうだね」

 僕のはっきりしない言い方に、レンは不思議そうに首をかしげた。

「なんだよ、あんまり戻りたくなさそうだな」

 僕は頭をかく。

「向こうの僕、そんなに幸せじゃ、なかったから」

「つってもこの世界よりはましだろ?」

「ま、まあもちろん、そうだけど。でも、異世界転生できたから、レンとこういう風に仲良くなれたわけで」

「お前も日本から来たんだろ?じゃあ戻って向こうでも仲良くやれるじゃん。向こうの世界のお前に会うの、俺はすごく楽しみだ」

 いらいらしていたレンの表情が、ふっと緩む。
 僕の胸がつんと痛んだ。

 僕はうつむく。

「レンはきっと失望するよ……。本当の僕を知ったら。全然、イケてない奴なんだ。き……気持ち悪い顔をしていて、だからみんなに顔を見られるのが怖くていつも伊達メガネで、暗くて、全然友達いなくて……。本当だったらレンとこんな風な仲になれる奴じゃないんだ僕は」

 レンはおかしそうに笑う。

「俺だって別にイケてねえよ」

 僕は思わずむきになって反論した。

「そんなことないよっ!レンはみんなに恋される男だっ!」

「えっ……」

 レンが息を飲んで僕を見つめた。僕はなんでそんなに驚くのだろう、ときょとんとする。

 レンが真顔になって僕に聞く。

「それ、どういう意味だ?」

「だ、だって、恋って書いてレンでしょ、だから」

「俺、自分の名前の漢字、ヨウに教えてないけど」

 どくん、と心臓が音をたてた。
 僕の血の気がすーっと引いていった。

 なんて迂闊なことを言ってしまったんだろう。
 どうしよう、でもまさか、僕がレンに前言った言葉なんて、覚えてないよね?

 あれを覚えてさえなければ、きっと誤魔化せる、そうだ覚えてるわけが……。

「お前、まさか、ヨル?」

「っ……!」

「お前、本当は川中かわなか 依一よるいちか!?」

「ち、ちが、違うよ僕は、ヨルイチなんかじゃっ!」

 僕は顔を真っ赤にさせ、震えながら否定する。
 涙が出てきた。
 ああ、だめだ、こんなんじゃバレバレじゃないか。

 レンが呆然としてつぶやく。

「ヨル……」

 僕はうつむいた。もうダメだ。
 嘘がバレた。

 もう僕の幸せな時間はおしまいだ。

 僕は諦める。全てを。
 
 ……謝らなきゃ。

「ごめん、レン、騙してきてごめん。僕なんかで、ほんと、ごめん……っ!」

 僕は後ろに振り向き、駆け出した。
 部屋のドアを開けて廊下に出て、走り抜ける。

 僕は夜の街に逃げ出した。
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