転・精・者/邪神の生贄 ~地獄みたいな異世界で、僕は憧れの彼に会う~

空月 瞭明

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56話 レン

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※三人称になります

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 あの運命の夜の翌日未明。
 一匹のフェンリルがラガドの城門を突破し、街中に侵入した。
 フェンリルは早朝の誰もいない通りを駆け回り、そこに散らばる謎の人骨を口にくわえて、必死に一箇所にかき集めた。
 自ら集めた骨の山を前に、フェンリルは悲しげに空に吠えた。
 まるで神に祈りをささげるように。

 すると一筋の光が、その骨の山を包み込んだ。
 骨の山は、光の中に溶けるように消えていった。
 
 とても悲しげだったフェンリルは、そこで安心したようにしっぽをぱたぱたと動かした。
 空を見上げるその表情は、笑っているように見えた。

※※※

 何も無い場所で、レンはうっすらと目を開けた。

 その脳内に、不意に蘇る、<神との対話>。

 レンは突如、異世界に飛ばされた時の神の言葉を全て思い出した。

『そなたは今、時空に仕掛けられた呪い<異世界転生>により、ある世界へと飛ばされようとしている。
転生先からは、<帰還の門>により元の世界へ帰還可能だが、<帰還の門>は<邪神>の力で堅く閉ざされているだろう。
<異世界転生>は、転生先世界の<邪神>と呼ばれる存在によってかけられた呪いである。

そなたには、宇宙の理を歪める<異世界転生>の呪いを解除し、時空の穴をふさいで欲しい。

おそらくこのメッセージは、<異世界転生>の呪いの弊害によりそなたの記憶から抹消されるだろう。
もし、この記憶を思い出すことが出来たならば、そなたこそが選ばれし者だ。
全てを思い出した者よ。
そなたに、異世界人に対抗しうる能力<勇者の力>を授ける。
その力で<邪神>に打ち勝ち、時空の穴をふさぎ、宇宙の理を守って欲しい』

 レンはかっと目を見開いた。
 体を起こす。薄く水を張った鏡面のような床の上に横たわっていた。
 立ち上がって周囲を見回した。
 何もなかった。
 上も、横も、何もない真っ白な空間だった。ただ真っ平らな、鏡面の床がどこまでも続く。

「俺……。死んだ……?」

 ここは死後の世界なのか。

「今の、<神との対話>……?死んでから思い出してどうすんだよ俺……」

 ところでどうして死んだんだっけ、とレンは考える。

 俺は確か、夜の街を走っていた。
 なんで走っていたんだっけ。

 そうだ、ヨウを追いかけていたんだ。

 なんでヨウを追いかけていたんだっけ?

 ヨウは。

 いや、違う。

 ヨルだ。
 ヨウは、ヨルイチだった。

 それを思い出した時、ぐっと涙がこみ上げた。
 
 レンがずっと片思いをしていた相手。

 男同士だから叶うわけがないと悟りながら、それでも募る想いを消せずにいた相手。

 小学生の頃、一目見てなんて可愛い子だろうと思った。
 その仕草も、喋り方も、明るい笑顔も、どんな女子より可愛くて、レンの心はときめいた。

 でもいつ頃からか――多分、メガネをかけ始めた頃から――、ヨルは笑顔を見せなくなった。いつも怯えるようにうつむいて、人と関わりたがらなくなった。

 レンはもう一度ヨルに笑って欲しくて、積極的に話しかけた。
 そうしたらレンにだけは笑ってくれるようになった。

 レンはそれだけでも嬉しかった。
 決して叶わない恋だけど、友達として繋がっていければ、それでいいと。

 そして異世界で、ヨルにそっくりなヨウに出会う。

 レンは、ヨウに対して申し訳ない気持ちをずっと抱えていた。
 ヨウを、ヨルの代わりにしてしまっているのでは、と。

 自分は、手の届かないヨルの代わりに、ヨウを抱いているのでは、と。
 ヨルにそっくりなヨウに惹かれれば惹かれるほど、罪悪感に苛まれた。

 でもまさか、本人だったなんて。

 俺はずっと、ヨル本人を抱いていたんだ。
 そう考えだけで胸が熱くなった。

 あの時も、あの時も。俺はずっと、ヨルの体を。

 ヨウの言葉が蘇った。

 ――レン好き

 屈託無い笑顔で、何度も好きと言ってくれた。

 全て、ヨルだった。
 レンの顔がかっと赤くなった。

 レンは好きと言われて嬉しかった。なのにヨウを好きだと言ってやれなかった。
 心の中に、ヨウをヨルの代わりにしているのでは、という後ろめたさがあったから、言いたいのに言えなかった。

 本当はヨウにどうしようもなく惹かれ、恋をしていたのに、そうと言えなかった。

 もう一度会いたい。
 会って今度こそ、好きと言いたい。キスをしたい。抱きたい。何度でも抱いて、抱き潰してしまいたい。

 でももう、俺は死んでしまったのか。

 そこでレンは、ハッとする。

 俺は死んでしまった。

 じゃあヨルは?

 ヨルは、そうだ、ヨアヒムに捕らえられている。
 あのおぞましい化け物に、かつて俺が殺したはずの邪神に……。

 ん?

 なんだ?

 俺が殺した邪神ってなんだ?ヨアヒムって?

 いやそんなことはどうでもいい。

 助けなければ。
 ヨルを助けなければ。

 その時、レンの頭上から虹色の光が降り注いだ。
 その虹色の光源から声が聞こえた。

『選ばれし者よ。そなたの異世界での死から40日が経過した。異世界で破壊されたそなたの肉体の再構築に成功し、今ようやく目覚めの準備は整った。

かつて<邪神>は一度、一人の<勇者の力>を得た転生者によって倒された。邪神の力は大きく減衰し、時空の穴の威力も衰えた。
しかし今また<邪神>は復活を遂げようとしている。
なぜなら<邪神の花嫁>が再生されたからだ。
<邪神の花嫁>によって、<邪神>は勢力を回復し、再び時空の穴が大きく広がる懸念がある。

選ばれし者よ、すなわち再生されし勇者よ。
目覚めよ。
手にした力で今一度、邪神を倒し、時空の穴を埋め、宇宙の理を守れ。
目覚めに承諾するか?』

 生き返れる?
 レンの胸が喜びに震えた。

 時空の穴も宇宙の理もどうでもいいが、生き返ればヨルを助けに行ける。
 レンは天に向かって叫ぶ。

「ああ!目覚める!俺を蘇らせてくれ!」

 降り注ぐ虹色がその輝きを増す。
 レンは眩しさに目をつむった。
 レンの魂は、その光に吸い込まれて行った。
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