転・精・者/邪神の生贄 ~地獄みたいな異世界で、僕は憧れの彼に会う~

空月 瞭明

文字の大きさ
63 / 66

63話 家路

しおりを挟む
 家路を目指し、僕たちは山を登った。

 なぜ登っているのかというと、山で迷った時は、下山するより登って見晴らしの良いところに出たほうがいいと、どこかで聞いていたからだ。

 レンがぼやくように言う。

「しっかし、なんで山ん中に飛ばすんだよ。これ下手したら日本で遭難死ってパターンだな」

「せっかく帰って来たのに!?」

 そしてせっかくレンと両思いになれたのに!?
 僕は愕然とした。日本に戻った途端に遭難死って、なんなんだその異世界転生、いや正確には異世界転移か、とにかく絶対に嫌なエンドだ!
 
 とその時、茂みの向こうから犬の吠え声が聞こえた。

 や、野犬とか!?
 嫌だ野犬の餌エンドも絶対に嫌だああああ!

 僕は思わずレンにしがみついてしまった。

 すると茂みの中から、赤い首輪をした茶色い柴犬が飛び出して来た。

 こっ、この子は……!

「ワン太ー!?」

 ワン太、フェンリルじゃなくて本物のワン太、僕の飼い犬のワン太が、嬉しそうに僕にじゃれついてわんわん吠えた。

 そしてワン太のやって来た方角から、複数の人の声と足音が聞こえた。

「誰かそこにいるのか!?」

 切羽詰まった男の人の声が問いかける。

 僕とレンは顔を見合わせた。互いにうなずき合い、返答する。

「はいっ!いますっ!」

 どよめきとざわめきと共に、十数名の、ヘルメットをかぶって上下オレンジ色の作業服のようなのを着た人たちが現れた。テレビでよく見る「捜索隊」の人たちだ。

「二人いるのか!?君たちの名前は!?」

「ぼ、僕が川中かわなか 依一よるいちで」

嵯峨さがれんです」

 捜索隊の人たちは信じられない、という顔をした。

「嵯峨君まで……!」

「無事か、怪我はないか?体調は?」

「だ、大丈夫です!」

「そうか、とにかく下山しよう。本当に良かった、行方不明者が二人も見つかるなんて。本当に君の犬は素晴らしい、お手柄だ!」

 ワン太のお手柄!?

 見ればワン太はレンのそばにおすわりをして、その頭を撫でられなんだか嬉しそうにしていた。

 あれ?ワン太ってレンにこんな慣れてたっけ?ほとんど面識なかったと思うんだけど。

 レンが苦笑いしながら小声で呟く。

「マジかー。えー、そういうことなの?お前、向こうでフェンリルになってた?」

 はいっ!?
 僕は目をぱちくりさせた。

 とりあえず確かなのは、僕達はこれで「異世界から戻ったら遭難死」という意味不明なオチだけは免れた、ということだった。

※※※

 帰還を果たした僕らを、僕らの家族は大歓迎と感涙感動でもって迎えてくれた。
 ……のは、当たり前として。

 日本中がえらい騒動になってしまった。

 「忠犬お手柄!UFO!?神隠し!?御流戸ミルド山で見つかった行方不明の二少年」

 的な見出しがテレビや新聞や週刊誌で躍って、ネットも騒がせた。

 僕が青い光に包まれて異世界に行ってしまった日、なぜか柴犬のワン太も姿を消したらしい。
 室内飼いのワン太は、いつものお気に入りの座布団の上で昼寝していたのに、突然いなくなったらしい。家は窓もドアも締め切っていたのに。
 きっと僕を飲み込んだ青い光は、その後空間を移動して僕の家にもやってきたのだろう。その時空の穴に、たまたまワン太も落ちてしまったのだ。

 そして僕がいなくなってから2ヶ月弱たった頃、ワン太が御流戸ミルド山の麓に現れた。ワン太は首輪に連絡先が書かれていたおかげで、僕んちの犬だということが判明した。御流戸ミルド山は、僕らの住む県内の田舎エリアにある山だった。

 警察は、行方不明になった僕はワン太と一緒にいたのでは、と考えた。そこで急遽、御流戸ミルド山の捜索が行われることになった。
 そしてワン太は捜索隊の人たちを導くように、見事、僕とレンの居場所を突き止めた、という次第だ。

 僕達は警察の人たちには、以下のように語った。

 ・学校帰りに青い光に包まれて、気を失った。
 ・その後の記憶は無い。
 ・気づいたら、御流戸ミルド山にいた。

 だって「異世界で性奴隷扱いされて追い掛け回されてました」とか言えないじゃん!

 この事件は世のオカルト的関心を大いに喚起した。
 僕達の服装は行方不明時とまったく同じでまったく汚れておらず、二人ともいたって健康体、髪は行方不明時からまるで伸びていない、などのことも、オカルト的憶測を呼んだ。
 しかも御流戸ミルド山は古代から神隠しの山として有名で、昨今ではUFO目撃情報も多い山だったらしい。
 そういえば、帰還の門のある山の名前は「ミルドジャウ」だったっけ。「ミルドザン」となんとなく名前も似てる。あの世界とこの世界は、どこかで微かに繋がっているのかもしれない。


僕とレンは数日マスコミに追われて大変だったけれど、「行方不明者大量帰還事件」が起きてからはマスコミはそちらの帰還者たちのほうに分散してくれた。

 僕達が帰還してから三日後、各地で、かつて青い光に飲み込まれた行方不明者が大量に発見されたのだ。

 どうやら全ての転生者が戻って来たらしい。

 帰還した転生者たちは、僕達みたいに口を閉ざす人もいれば、あの世界のことを詳細に話す人もいた。

 ラガドの娼館で働いていたらしい帰還者は、顔をモザイクで隠されながらテレビ取材にぽつりぽつりと語った。

「ヨアヒムっていう、王のような存在がいて……。そいつが言ったんだ『ヒカル以外の転生者はもういらないから元の世界に戻れ』って……」

※※※

 学校のみんなは、レンの帰還に大喜びした。そりゃそうだ、だってみんなに恋される男だもん。
 残念ながら、一年留年ということになってしまったけど。

 意外なことに、僕も結構、心配してもらってたみたいだった。
 普段話したこと無いクラスメートにも声を掛けてもらえた。

 僕は日常を取り戻していった。
 取り戻した日常は、前よりもずいぶん、良いほうに変化していた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...