魔道暗殺者と救国の騎士

空月 瞭明

文字の大きさ
7 / 71

第4話 回想/紫の石

しおりを挟む
「サギトまたここで読書か!一緒に戦争ごっこしないか?聖教王国陣営と邪教帝国陣営に分かれて棒持って叩き合うんだ。あれ楽しいぞみんなやってるぞ」

 木陰に座り本を開くサギトを、中腰になって上からのぞきこみ、グレアムが言った。

 孤児院でサギトはたいてい、本を読んでいた。
 他の孤児達には馴染めなかったし、本が好きだったので。

 読む場所はいつも決まっていた。田舎の孤児院で周囲は草原、草原の向こうには森があったが、その森の奥。見つけた小さな草地で、サギトは隠れるように時間を過ごした。
 鬱蒼とした木立の中、そこだけ丸く開けていて、柔らかい草がふんわりと茂っていた。木漏れ日が草地を照らして綾を成す。居心地の良い場所だった。

 サギトだけの秘密の場所、だったのだが、どうやってここがバレたのか、時たまグレアムがやってきた。
 サギトはグレアムの誘いを断る。いつもどおり。

「疲れるから嫌だ。俺は体力がないんだ」

 サギトは運動神経は悪くもないが、筋力と持久力がまるでなかった。

「だから鍛えるんだ。俺が訓練してやるから」

「遠慮する」

「つまんない奴だなあ」

「じゃあ向こうに行け。グレアムがいないと皆さびしがるだろ、お前は人気者なんだから」

「冗談だからな?サギトはつまらなくない!」

「別に気にしてない」

「なんだよ気にしろよ、つまんない奴だ」

 やっぱりつまらないのかよ、とサギトは思う。
 ただグレアムはいつも、ここにいる時楽しそうだった。何が楽しいのか分からないが。
 今日もなぜかニコニコとしながらサギトの隣に腰を下ろすと、ポケットに手に入れた。
 ポケットから鎖のようなものを取り出し掲げた。

「そうだこれ、拾ったんだ。綺麗だろ?きっと慰問に来たどっかのマダムの落し物だな」

 それは、雫型の紫色の宝石をぶらさげたペンダントだった。アメジストだろう。

「拾ったって、じゃあ先生に届けろ」

「先生には『持ち主が探しに来たら返すからそれまで俺が預かってていいですか』って言って許可もらった。そんな高価な宝石じゃないからいいよ、って。こういうの、取りに来ない人がほとんどで処理に困るんだってさ」

 随分甘いような気がしたが、グレアムは先生達のお気に入りだから許されてしまったのかもしれない。リーダーだから他の子供達からずるいとも言われないんだろう。
 しかし。

「お前は男のくせに宝石が欲しいのか?」

 サギトは呆れを口にする。グレアムはその石を憧憬するように見つめた。

「だって見ろよ、お前の瞳の色と同じだ。すごく綺麗じゃないか」

 サギトは口をつぐむ。どういう意味だろうと思う。
 サギトの不気味な目を綺麗と言ってるのか?いや、そんな、まさか。
 グレアムは時たま、こういうことを突然ぽんと言ってサギトを戸惑わせた。

 グレアムはペンダントを首にかけると、いつものように、サギトのひざの上に頭を乗せて寝そべった。つまりサギトは強引に膝枕をさせられる。

「おい、重い。本が読みにくい」

「サギトは最高の枕だ」

 まったく、とサギトはため息をつき、膝をあけわたす。グレアムはいつもこうやって昼寝をした。
 サギトは最初は気恥ずかしく居心地が悪かったが、そのうち枕になることに慣れてしまった。
 グレアムが来るのは時たまだったし。一週間に一回とか三日に一回とか、気まぐれにふらりとやって来る。

 グレアムは一人ぼっちのサギトに気を使っていたのかもしれない。

 サギトが馴染めない孤児院の中で孤独感に滅入ってしまわない程度に、たまに来ては、グレアムという友達がいることを思い出させてくれたのだろう。

 紫のペンダントの落とし主は、結局現れなかった。
 グレアムはずっとそれを首にぶら下げ続けた。
 やがてそれは彼のトレードマークのように彼自身と溶け込んで、誰も話題にすら出さなくなった。
 彼がつけていて当たり前のものとなった。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました

天埜鳩愛
BL
魔法学校の卒業を控えたユーディアは、親友で姉の婚約者であるエドゥアルドとの関係がある日を境に疎遠になったことに悩んでいた。 そんな折、我儘な姉から、魔法を使ってそっけないエドゥアルドの心を読み、卒業の舞踏会に自分を誘うように仕向けろと命令される。 はじめは気が進まなかったユーディアだが、エドゥアルドの心を読めばなぜ距離をとられたのか理由がわかると思いなおして……。 優秀だけど不器用な、両片思いの二人と魔法が織りなすモダキュン物語。 「許されざる恋BLアンソロジー 」収録作品。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。 そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。 恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。 交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。 《ワンコ系王子×幸薄美人》

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

処理中です...