48 / 71
[番外編] 最後の仕事(1)
しおりを挟む
番外編開始しました。
また、11月開催の第8回BL小説大賞エントリーしました。
応援いただけたらうれしいです!
----------------------------------------------------------------
サギトが護国騎士団の兵舎に移り住んで三週目に突入した日の朝。
訓練場の端、日課の朝礼の場にて、国境の砦への移動日が決定したことが告げられた。明後日には出立するという。
整列する騎士達の前に立つグレアムが、皆の顔を見渡しながら言った。
「明後日からまた、命を張って聖教圏を守る日々が始まる。怠け者の正規騎士団がやっと少しは仕事をするようになったとは言え、この国の防衛の要は変わらず、俺たち選抜騎士だ。その中でもトップの実力を持つ精鋭が集うこの護国騎士団こそ、聖教圏の最終防波堤だ。俺達ひとりひとりが聖教圏の全てを背負っている」
休暇の終了を告げられた騎士達の顔は、憂いよりは闘志と覚悟に満ちていた。望んでこの険しい道を選び、己に誇りを持ち国を守る男達の姿がそこにある。
「行けばいつ戻れるか分からない。生きて戻って来れないかも知れない。というわけで今日と明日は訓練は無しだ。心残りを二日で片付けておけ。今日はこれで解散だ。二日間、最後の自由を満喫しろ!」
騎士達が足を揃えて野太い声で答える。
「了解しました!」
騎士たちそれぞれがこの二日を当人にとって有意義に過ごすのだろう。ある者は家族と過ごすだろうし、ある者は娼館で馴染みの娼婦と別れを惜しむかもしれない。
多くの騎士達が外出の身支度のため兵舎へと戻って行く人混みの中、サギトはさてどうしようかと考える。
(心残り、か)
特になかった。
店じまいした薬屋の店舗はここに移り住んだ時にすでに、商品も材料も例の隠し部屋も、綺麗に処分し空っぽの状態にしてある。不動産屋に売却を依頼してあるので、そのうち買い手がついたら、他の誰かの別の店になるのだろう。もう特にやらねばならないことはない。
まずはこの騎士服を脱ぎたい、と思った。どうも着なれないし気恥ずかしさがあった。当然、似合っているとも、思えなかった。
金ボタンの並ぶ白いロングジャケット。護国騎士団員であることが一目で分かるこの服を着ていると大層モテるらしく、団員は街にこの騎士服のまま行くのが普通らしいが。
とにかくこの似合わぬものを着替えよう、と歩き出そうとしたサギトの目の前に、ぬっとグレアムがやってきた。
見上げるとなんだか怖い顔をしている。
「なんだ、どうした?」
「お、俺はいつも会議とかお偉方への挨拶とかで出立前の自由時間をあまりもらえないんだが、今回はわがまま言って俺も二日間自由にできることになった」
「ああ、それは良かったな」
「サ、サギトは予定、とかあるのか?」
「特にないが」
グレアムはスーハーと深呼吸した。今しがた屈強な騎士達の前で話していた雄雄しい騎士団長とは別人のような落ち着きのなさ。
その妙な様子に戸惑うサギトの前で直立不動の体勢となると、グレアムは叫んだ。
「俺と、デートしてくれ!!」
日々の号令で訓練されたやたらとよく通る声は、一瞬で場を静まり返らせた。
その一角でノエルが額を押さえていた。呆れ顔でつぶやく。
「声が大きいんですよ……」
騎士たちがサギトたちのほうを見て吹き出す。すぐにざわつきが復活してみな散り散りに去っていくが、つかの間、皆の注目を浴びてしまったサギトは赤くなってあたふたとする。
「で、デートって、なんだそれは……」
「砦じゃデートできない、王都でしかできない!俺は絶対にお前とデートしたい!」
「だから何をするんだ、デートってのは」
グレアムは拳をあごにあてて真剣な顔をして述べる。
「まずメインストリートでショッピングをして、サギトの欲しいものを買ってあげる」
「いや特に欲しいものはないが……」
「それから屋台の焼き菓子を買って食べ歩きしながら、王立公園に行くんだ。王立公園には孔雀鳩が放し飼いにされてるから、それを見てサギトが目をキラキラさせて、余ってる焼き菓子を鳩にあげる」
「ちょっとまて、具体的過ぎないか。俺はそのシナリオに沿わないといけない感じなのか」
「だってサギトは小動物が好きで綺麗なものが好きだろ?孔雀鳩、絶対に好きなはずだ」
サギトは真っ白で扇のような美しい尾を持つかわいらしい鳩の姿を思い浮かべ、図星をさされた顔つきで目をそらす。
「ま、まあ、嫌いじゃないが」
「鳩とたわむれてるサギトのかわいさを存分に堪能した後、公園の池でボートに乗るんだ。もちろん俺が漕ぐからサギトは座ってるだけでいい」
「ボート……」
人がやってるのを見たことはあるが、一体あれは楽しいのだろうか。というか何を堪能だって?
「あの池にはニシキゴイという珍魚がいるんだ。ムジャヒール帝国が巨大化する以前の遠方貿易が盛んな時代に、はるか東方から取り寄せて繁殖に成功したものだそうだ。ニシキゴイを池の中で色んな形に整列させて、俺はロマンチックを演出する。サギトはときめいていればいい。池にニシキゴイの巨大な花が咲くんだ。想像してみろ、きっと綺麗だ」
「いや術を使うな、術を!そんなことのために生物操作をするな!」
「ボートが終わったら、見晴らしの丘の上のレストランでフルコースランチだ。俺もまだ行ったことがないが、王宮お抱えシェフの味に匹敵するらしいし、何と言っても見晴らしがいいんだ」
「お前は人の話を聞かないな!」
グレアムは悲しそうな目をする。
「俺とデートするの、嫌か?」
切なげに見つめられて、サギトはうっとうろたえる。
「べ、別に嫌とは言ってない、行ってもい……」
言い終わらないうちに抱きしめられた。
「ありがとうサギト!俺は今日と明日を決して忘れない、日記に書きとめて俺の記念日にする!」
「だからいちいち抱きつくな!」
サギトは恥ずかしくて身を仰け反らせる。今日と明日ということは二日間「デート」する気なのかこいつは。
「じゃあ早速街に繰り出すぞ!」
グレアムはサギトを抱擁から解放すると、今度は手を繋いできた。だが繋ぎ方が妙だ。サギトの五指に己の五指を絡ませる繋ぎ方。
「ま、待て、着替えたい」
「え?いちいち面倒じゃないか」
「面倒じゃない、こんな格好恥ずかしい!」
「恥ずかしいってなんだ、すごく似合ってるぞ。サギトが着るとどこぞの国の王子様みたいだ」
「絶対嘘だろう!」
「嘘のわけあるか。いいから、ほら」
グレアムはサギトの手を引き、足早に歩き出す。
「うう……」
サギトはしぶしぶ引っ張られて行く。なんだか強引に押し切られてしまった。
※※※
また、11月開催の第8回BL小説大賞エントリーしました。
応援いただけたらうれしいです!
----------------------------------------------------------------
サギトが護国騎士団の兵舎に移り住んで三週目に突入した日の朝。
訓練場の端、日課の朝礼の場にて、国境の砦への移動日が決定したことが告げられた。明後日には出立するという。
整列する騎士達の前に立つグレアムが、皆の顔を見渡しながら言った。
「明後日からまた、命を張って聖教圏を守る日々が始まる。怠け者の正規騎士団がやっと少しは仕事をするようになったとは言え、この国の防衛の要は変わらず、俺たち選抜騎士だ。その中でもトップの実力を持つ精鋭が集うこの護国騎士団こそ、聖教圏の最終防波堤だ。俺達ひとりひとりが聖教圏の全てを背負っている」
休暇の終了を告げられた騎士達の顔は、憂いよりは闘志と覚悟に満ちていた。望んでこの険しい道を選び、己に誇りを持ち国を守る男達の姿がそこにある。
「行けばいつ戻れるか分からない。生きて戻って来れないかも知れない。というわけで今日と明日は訓練は無しだ。心残りを二日で片付けておけ。今日はこれで解散だ。二日間、最後の自由を満喫しろ!」
騎士達が足を揃えて野太い声で答える。
「了解しました!」
騎士たちそれぞれがこの二日を当人にとって有意義に過ごすのだろう。ある者は家族と過ごすだろうし、ある者は娼館で馴染みの娼婦と別れを惜しむかもしれない。
多くの騎士達が外出の身支度のため兵舎へと戻って行く人混みの中、サギトはさてどうしようかと考える。
(心残り、か)
特になかった。
店じまいした薬屋の店舗はここに移り住んだ時にすでに、商品も材料も例の隠し部屋も、綺麗に処分し空っぽの状態にしてある。不動産屋に売却を依頼してあるので、そのうち買い手がついたら、他の誰かの別の店になるのだろう。もう特にやらねばならないことはない。
まずはこの騎士服を脱ぎたい、と思った。どうも着なれないし気恥ずかしさがあった。当然、似合っているとも、思えなかった。
金ボタンの並ぶ白いロングジャケット。護国騎士団員であることが一目で分かるこの服を着ていると大層モテるらしく、団員は街にこの騎士服のまま行くのが普通らしいが。
とにかくこの似合わぬものを着替えよう、と歩き出そうとしたサギトの目の前に、ぬっとグレアムがやってきた。
見上げるとなんだか怖い顔をしている。
「なんだ、どうした?」
「お、俺はいつも会議とかお偉方への挨拶とかで出立前の自由時間をあまりもらえないんだが、今回はわがまま言って俺も二日間自由にできることになった」
「ああ、それは良かったな」
「サ、サギトは予定、とかあるのか?」
「特にないが」
グレアムはスーハーと深呼吸した。今しがた屈強な騎士達の前で話していた雄雄しい騎士団長とは別人のような落ち着きのなさ。
その妙な様子に戸惑うサギトの前で直立不動の体勢となると、グレアムは叫んだ。
「俺と、デートしてくれ!!」
日々の号令で訓練されたやたらとよく通る声は、一瞬で場を静まり返らせた。
その一角でノエルが額を押さえていた。呆れ顔でつぶやく。
「声が大きいんですよ……」
騎士たちがサギトたちのほうを見て吹き出す。すぐにざわつきが復活してみな散り散りに去っていくが、つかの間、皆の注目を浴びてしまったサギトは赤くなってあたふたとする。
「で、デートって、なんだそれは……」
「砦じゃデートできない、王都でしかできない!俺は絶対にお前とデートしたい!」
「だから何をするんだ、デートってのは」
グレアムは拳をあごにあてて真剣な顔をして述べる。
「まずメインストリートでショッピングをして、サギトの欲しいものを買ってあげる」
「いや特に欲しいものはないが……」
「それから屋台の焼き菓子を買って食べ歩きしながら、王立公園に行くんだ。王立公園には孔雀鳩が放し飼いにされてるから、それを見てサギトが目をキラキラさせて、余ってる焼き菓子を鳩にあげる」
「ちょっとまて、具体的過ぎないか。俺はそのシナリオに沿わないといけない感じなのか」
「だってサギトは小動物が好きで綺麗なものが好きだろ?孔雀鳩、絶対に好きなはずだ」
サギトは真っ白で扇のような美しい尾を持つかわいらしい鳩の姿を思い浮かべ、図星をさされた顔つきで目をそらす。
「ま、まあ、嫌いじゃないが」
「鳩とたわむれてるサギトのかわいさを存分に堪能した後、公園の池でボートに乗るんだ。もちろん俺が漕ぐからサギトは座ってるだけでいい」
「ボート……」
人がやってるのを見たことはあるが、一体あれは楽しいのだろうか。というか何を堪能だって?
「あの池にはニシキゴイという珍魚がいるんだ。ムジャヒール帝国が巨大化する以前の遠方貿易が盛んな時代に、はるか東方から取り寄せて繁殖に成功したものだそうだ。ニシキゴイを池の中で色んな形に整列させて、俺はロマンチックを演出する。サギトはときめいていればいい。池にニシキゴイの巨大な花が咲くんだ。想像してみろ、きっと綺麗だ」
「いや術を使うな、術を!そんなことのために生物操作をするな!」
「ボートが終わったら、見晴らしの丘の上のレストランでフルコースランチだ。俺もまだ行ったことがないが、王宮お抱えシェフの味に匹敵するらしいし、何と言っても見晴らしがいいんだ」
「お前は人の話を聞かないな!」
グレアムは悲しそうな目をする。
「俺とデートするの、嫌か?」
切なげに見つめられて、サギトはうっとうろたえる。
「べ、別に嫌とは言ってない、行ってもい……」
言い終わらないうちに抱きしめられた。
「ありがとうサギト!俺は今日と明日を決して忘れない、日記に書きとめて俺の記念日にする!」
「だからいちいち抱きつくな!」
サギトは恥ずかしくて身を仰け反らせる。今日と明日ということは二日間「デート」する気なのかこいつは。
「じゃあ早速街に繰り出すぞ!」
グレアムはサギトを抱擁から解放すると、今度は手を繋いできた。だが繋ぎ方が妙だ。サギトの五指に己の五指を絡ませる繋ぎ方。
「ま、待て、着替えたい」
「え?いちいち面倒じゃないか」
「面倒じゃない、こんな格好恥ずかしい!」
「恥ずかしいってなんだ、すごく似合ってるぞ。サギトが着るとどこぞの国の王子様みたいだ」
「絶対嘘だろう!」
「嘘のわけあるか。いいから、ほら」
グレアムはサギトの手を引き、足早に歩き出す。
「うう……」
サギトはしぶしぶ引っ張られて行く。なんだか強引に押し切られてしまった。
※※※
48
あなたにおすすめの小説
遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。
月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」
幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。
「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」
何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。
「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」
そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。
僕、殿下に嫌われちゃったの?
実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後
結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。
※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。
全5話完結。予約更新します。
【完結】待って、待って!僕が好きなの貴方です!
N2O
BL
脳筋ゆえ不本意な塩対応を只今猛省中、ユキヒョウの獣人
×
箱入りゆえガードが甘い愛され体質な竜人
愛しい幼馴染が有象無象に狙われて、居ても立っても居られなくなっていく余裕のない攻めの話。
(安心してください、想像通り、期待通りの展開です)
Special thanks
illustration by みとし (X:@ibarakiniarazu)
※独自設定かつ、ふんわり設定です。
※素人作品です。
※保険としてR設定にしていますが、基本健全。ほぼない。
木陰
のらねことすていぬ
BL
貴族の子息のセーレは、庭師のベレトを誘惑して物置に引きずり込んでいた。本当だったらこんなことはいけないことだと分かっている。でも、もうじき家を離れないといけないセーレは最後の思い出が欲しくて……。
庭師(?)×貴族の息子
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる