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[番外編] 最後の仕事(7)
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魔の森から漂ってくる腐臭に似た瘴気が、あたりの空気を汚している。
土塀に囲われた小さな集落の脇に、ワイバーンは着陸した。
三人はワイバーンから降り、土塀の門から集落の中に足を踏み入れた。
そこは寒村と言うよりいっそ貧民窟と呼んだ方がいいような所だった。
藁葺き屋根のあばら家がひしめくように立ち並んでいた。先頭のフォスターはあばら家のすき間を縫って歩く。
集会所らしき、この集落の中ではそれなりにしっかりした作りの建物の扉をフォスターはノックした。
「待たせた、俺だ」
言いながら自分で扉を開ける。
中にはみすぼらしい身なりの、小さな体の尖り耳たちが集っていた。彼らはサギトとグレアムをギョッとした目で見る。
どうやらここは忌人の中でも、「尖り耳」だけが暮らす集落のようだ。古代のこびと族の末裔たち。
その割にあばら家は普通のサイズだから、元々は別種族の集落で、打ち捨てられた廃村を再利用しているのかもしれない。
どの住民も口に布を巻いていた。奇病の感染を防ぐためだろう。
布の下から灰色のあご髭がはみ出ている初老の男が駆け寄ってきた。
と思ったらフォスターの襟首をつかんで凄む。その目が怒りと怯えに染まっていた。
「フォスターさん、どう言うことだ、私は薬をくれと言ったんだ!なんで騎士がここに?まさかこの村を焼き払いに来たのか?あんた、私たちを売ったのか!国からいくらもらった!」
裏切り者、最低だ、などの罵倒が他の住人の口からも飛ばされる。
「ち、違うよ村長。頼む、落ち着いてくれ」
グレアムが慌てた様子で、村長と呼ばれた男を止める。
「誤解です、焼き払うなんてとんでもない!このことは必ず内密にします。患者をみせて下さい、助けたいんです」
村長はグレアムの言葉に怪訝そうな顔をする。フォスターからは手を離したが、グレアムに食ってかかる。
「助けるって、騎士に何ができるってんだ!」
「……サギトさんを連れてきた」
フォスターがそうつぶやくと、村長の顔つきが変わる。視線をもう一人の小柄な黒髪の騎士、つまりサギトのほうに向ける。
「紫眼……!もしや、あなたがサギトさんか」
「私を知っているんですか?」
村長は感激した様子でうなずいた。
「ええ、そりゃあもう!高価でとても手を出せない希少薬をフォスターさんはいつも格安でうちに売ってくれる。最初は偽薬じゃないかと疑ったが、すごい効き目だった。この村の住民は何度も、あなたの薬に命を助けられた。一体どこから仕入れてるのか聞いたら、紫眼の薬屋だっていうじゃないか。忌人でも学を修めて高度な職についてる人がいるんだと驚いたもんだ。そうか、あなたがサギトさんか。頼みます、どうか私達を助けて下さい」
サギトの頬がさっと赤らむ。胸の内側に、温もりがじんわりと広がった。
(俺の薬は、ちゃんと人を救っていた)
サギトは思ってもみなかった感謝を受けて、動揺しつつ尋ねる。
「か、患者はどこですか。症状をみせてほしい」
「別の小屋に隔離してある。今、ご案内しましょう。その前に必ず口を布で塞いでください。誰か二人に布を」
一人の青年がサギトとグレアムに布を手渡した。二人は礼を言い、それを三角に折って口に巻く。
サギトはフォスターと目が合った。フォスターは口を引き結び、不安そうに見つめていた。サギトは力強くうなずいてみせた。フォスターはうなずき返した。祈るような目でサギトを見つめて。
土塀に囲われた小さな集落の脇に、ワイバーンは着陸した。
三人はワイバーンから降り、土塀の門から集落の中に足を踏み入れた。
そこは寒村と言うよりいっそ貧民窟と呼んだ方がいいような所だった。
藁葺き屋根のあばら家がひしめくように立ち並んでいた。先頭のフォスターはあばら家のすき間を縫って歩く。
集会所らしき、この集落の中ではそれなりにしっかりした作りの建物の扉をフォスターはノックした。
「待たせた、俺だ」
言いながら自分で扉を開ける。
中にはみすぼらしい身なりの、小さな体の尖り耳たちが集っていた。彼らはサギトとグレアムをギョッとした目で見る。
どうやらここは忌人の中でも、「尖り耳」だけが暮らす集落のようだ。古代のこびと族の末裔たち。
その割にあばら家は普通のサイズだから、元々は別種族の集落で、打ち捨てられた廃村を再利用しているのかもしれない。
どの住民も口に布を巻いていた。奇病の感染を防ぐためだろう。
布の下から灰色のあご髭がはみ出ている初老の男が駆け寄ってきた。
と思ったらフォスターの襟首をつかんで凄む。その目が怒りと怯えに染まっていた。
「フォスターさん、どう言うことだ、私は薬をくれと言ったんだ!なんで騎士がここに?まさかこの村を焼き払いに来たのか?あんた、私たちを売ったのか!国からいくらもらった!」
裏切り者、最低だ、などの罵倒が他の住人の口からも飛ばされる。
「ち、違うよ村長。頼む、落ち着いてくれ」
グレアムが慌てた様子で、村長と呼ばれた男を止める。
「誤解です、焼き払うなんてとんでもない!このことは必ず内密にします。患者をみせて下さい、助けたいんです」
村長はグレアムの言葉に怪訝そうな顔をする。フォスターからは手を離したが、グレアムに食ってかかる。
「助けるって、騎士に何ができるってんだ!」
「……サギトさんを連れてきた」
フォスターがそうつぶやくと、村長の顔つきが変わる。視線をもう一人の小柄な黒髪の騎士、つまりサギトのほうに向ける。
「紫眼……!もしや、あなたがサギトさんか」
「私を知っているんですか?」
村長は感激した様子でうなずいた。
「ええ、そりゃあもう!高価でとても手を出せない希少薬をフォスターさんはいつも格安でうちに売ってくれる。最初は偽薬じゃないかと疑ったが、すごい効き目だった。この村の住民は何度も、あなたの薬に命を助けられた。一体どこから仕入れてるのか聞いたら、紫眼の薬屋だっていうじゃないか。忌人でも学を修めて高度な職についてる人がいるんだと驚いたもんだ。そうか、あなたがサギトさんか。頼みます、どうか私達を助けて下さい」
サギトの頬がさっと赤らむ。胸の内側に、温もりがじんわりと広がった。
(俺の薬は、ちゃんと人を救っていた)
サギトは思ってもみなかった感謝を受けて、動揺しつつ尋ねる。
「か、患者はどこですか。症状をみせてほしい」
「別の小屋に隔離してある。今、ご案内しましょう。その前に必ず口を布で塞いでください。誰か二人に布を」
一人の青年がサギトとグレアムに布を手渡した。二人は礼を言い、それを三角に折って口に巻く。
サギトはフォスターと目が合った。フォスターは口を引き結び、不安そうに見つめていた。サギトは力強くうなずいてみせた。フォスターはうなずき返した。祈るような目でサギトを見つめて。
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