魔道暗殺者と救国の騎士

空月 瞭明

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[番外編] 最後の仕事(8)

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 二人は村長の後に続いて集会所を後にした。連れて行かれたのは集落の外れにある掘っ立て小屋だった。

「元々は倉庫です。なるべく他の住民から遠い場所に隔離するためにここを使っています」

 村長が説明しながら、その小屋の戸を開けた。開けた途端、苦しげなうめき声が聞こえてくる。

 床に敷かれたござの上に患者達が寝かされていた。フォスターの言っていた通り、五十人程度いた。既にひしめき合っている。これ以上増えたら小屋からはみ出してしまうだろう。

 どの患者も、全身の皮膚に赤い水ぶくれが浮き出ていた。足も腕も、胸も腹も、顔面も。苦痛に顔をゆがめ、もがき苦しんでいる。

「ひどい……」

 グレアムが眉をひそめてつぶやいた。
 村長が重々しくうなずいた。

「皆、高熱を出しとります。四日前、狩りに出た若い者が魔獣に噛まれて戻ってきて、これを発症した。それが最初の発症です。熱を出して痛みを訴えたかと思えば、全身に赤い水疱ができて……。三日三晩苦しんで死んだ」

 サギトは一人の患者のそばにしゃがんだ。その肌に浮き出ている赤い水疱をじっと見る。

「薔薇……」

 細かな赤い水疱が集まって、薔薇のような形を成していた。水疱の集合体の薔薇。
 どの患者も全身の皮膚に、たくさんの薔薇を咲かせている。

 だがよく見ると、薔薇の状態は患者によって違う。水疱が平らな者、分厚く膨らんでいる者。
 そして、水疱が破れてただれている者。

「うっ……、ぐっ……ああああーーーっ!」

 ひときわ大きな呻き声があがった。近寄って見れば、その体中の水ぶくれがどれも爛れて、ぐちゅぐちゅと赤く、てかっている。
 
「しっかりして下さい!」

 グレアムがその手を取って握り、魔術をかけた。淡い緑色の光が患者の体全身を包みこんだ。
 患者の表情が和らいでいく。
 精神に作用して苦痛を取り除く術。治癒魔術ではなく、与えるのはまやかしの安らぎ、麻薬効果だ。

 苦悶の表情を浮かべていた男は、口元にうっすらと笑みを浮かべ、寝息を立てて眠っていった。

「す、すまんサギト、勝手に。つい術をかけてしまった」

「いや、いい。その患者にできることは緩和魔術しかない。もうその患者は……助からない」

 村長が、はっとしてサギトを見つめ、苦しげにうつむいた。

「やはりそうか」

 サギトは尋ねる。

「水泡が破れて爛れた患者は死んでいく、そうですね」

 村長はうなずいた。

「ああ、そうだ。最初は小さな水疱が、だんだん膨れて大きくなって、破れる。破れたら今のように叫び声をあげながら、死んでいく。あんまりにも痛ましくて、とても見ていられない」

「何か分かったのかサギト!」

 グレアムの言葉にうなずいて、サギトは両腕を前に伸ばし、全体に術をかけた。どの患者の体も緑色に発光し、表情が穏やかになり、呻き声が寝息に変わっていく。

「……とりあえず、全員に緩和魔術を施しました。どこか部屋を貸していただけますか。それから鍋をあるだけ。特効薬の調合に取り掛かります」

 ずっと沈鬱だった村長の目に、希望の光が宿る。

「ありがとうございます、どうか頼みます!ええ部屋はお貸ししますとも!」
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